第32話 お礼を受け取ろう
サラマンドラ戦から、一夜明けた。
泊まったのは銭湯の休憩所のスペースだった。それは、構わない。どうせ、宿泊施設がまともに稼働しているとも思えないし。
しかし、瀬戸大橋の近く、坂出には石油関係の燃料が備蓄されていたらしく、間違えてサラマンドラが襲撃してくれば大損害を被っていた可能性もあったそうだ。与島での撃破は、大戦果らしかった。
石油もガソリンも輸入できない以上、貴重なわけだ。
さて、構うのは、手元に差し出された袋だった。
「謝礼です。少なくて申し訳ありませんが、受け取っていただきたい。こちらのお金の方が使いやすいでしょう?」
と副知事が、俺、アレクサンダー・ワトソン、藤原吾郎に差し出したのは、銀貨が入っていると思われる三つの袋だった。幾らくらい入っているだろう、大きさから500Gぐらいだろうか。フェニックスの十倍か。なかなか太っ腹だな。
「俺、大したことしてねーぞ」
だけど、俺は断った。
「僕も受け取りは拒否しよう。確かに水のように流れ、時に激しく華麗に活躍はしたが、トドメを刺したわけではないからな」
アレクサンダー・ワトソンが髪をかき上げながら言う。
「俺も、食うのに困ってない」
藤原のおっさんは、毅然とした態度で掌で断りの意志を見せる。トゲ付き肩パットつけているとは思えない武士のような態度だ。見た目、本当に、略奪しそうなスタイルなんだけどな。
「そう、言われましても。路銀も入り用でしょうし。貴方たちは、掛けなくてもいい命を掛けて戦ってくれたわけですし」
副知事のおっさんは、まさか三人とも断るとは思っていなかったのか、困惑気味だ。しかし、渡すのを簡単にあきらめる様子は無い。
「ある意味、仕事って言えば、仕事だったし、別にいいよ」
サービスみたいなもんだし、喜んでくれたし、それはそれでいい。
「僕は、使命を果たしただけだ。使命に命を掛けるのは当然さ」
再び、アレクサンダー・ワトソンは髪をかき上げた。いちいち髪をかき上げないと台詞を言えないのか。
やっぱり、こいつ、ナルシストも入っているよな……。
「でも、旅費か。いや、俺は、フェニックスまでいければいいし」
海を飛んで超えていく気はもう無いが、何とでもなるだろう。うん、多分。それに、フェニックスにつけば、それで仕事も終わりだし。
「僕も依頼主から十分に活動費は貰っている。称えるのは僕の栄誉だけでいい」
バカの割に、意外と結構、まともなこと言う。まぁ、残念でゲスだったら最悪なわけだが。
「いえ、ですが……」
「埒が明かないな。こうしよう」
と言って、藤原のおっさんは、袋を一つだけ手に取った。
「俺達がさぬきまではこの二人を送っていく。その依頼料と二人の食事代等、さぬきからの船の運賃としてこれだけ貰う。これでいいか? 残りは、俺達が言わなければばれないんだ、懐に入れてしまえ」
「そんな、滅相もない!」
最後は、冗談っぽく言ったが、副知事にはこの手の冗談が通じなかったのか、ブルブルと首を振った。
……藤原のおっさんって、意外とお茶目なのだろうか?
「さぬきまでは送ってくれるのか?」
「またヒッチハイクするより、そのほうがいいだろう?」
「そりゃね」
まぁ、今の香川でヒッチハイクなんて成功率も低いからな。送ってくれるなら、それはありがたく受け入れよう。
「というわけで、話はこれでおしまいだ。税金だろ? 必要な事に使え」
「あ、はぁ」
副知事のおっさんは、残念そうに袋を握り直した。ふむ、藤原のおっさんがいたおかげで、そこそこ丸く収まったな。
そして、自衛軍の一部の人間と副知事に見送られる。知事は後処理で忙しくて、来られなかったらしい。こっちも、忙しいのにわざわざ出向かれても気後れするし、これでいいだろう。
というわで、俺とアレクサンダー・ワトソンはトゲ肩パット集団に連れられて、さぬきに旅だったのだった。




