第24話 図鑑で調べよう
自衛軍の車、元々は自衛隊の車に乗ってやってきた先は、香川県は与島。瀬戸大橋が通る島の一つだ。その与島の東側にある海岸に、そのターゲットはいた。
見た目はドラゴンというよりも完全に蜥蜴だ。頭の先から尻尾の先まで、全長は約10メートルといったところで羽はない。
でかいな、おい。
色は暗闇でも判るほど真っ赤で、というか、鱗が赤く光っている。そして、こちらは林の中に隠れて伺っているが、それだけ離れていても、あのターゲットが高熱を発しているのが判るほど、肌がぴりぴりとする。あれは、近づいただけでも火傷をするほどだろうか。接触したらどうなることやら。炎蜥蜴という通称も、文字通りということか。
そのターゲットの蜥蜴は、砂浜でじっとしていて、時々頭をゆっくりと回しながら周囲を伺っている。何の目的で現れたのか、それとも休憩だろうか?
「あれが、島に隠れていたのか? よく隠れたな」
隣にいる歩兵に小声で尋ねる。
「いえ、海を泳いで移動しているようです。前は四国で出現しましたから」
「火属性なのに泳ぐのかよ。邪道だな」
あのサイズで、この危険性、恐竜並というか恐竜の方がカワイイかもしれない。
天災が海からやってくるなら、ゴ○ラという表現も、そう的外れでは無いだろうさ。
「もう一度、作戦確認です。いいですか? 」
「ああ」
短く答える。事前に聞いているが、俺がこういった作戦は不慣れなことを不安視しているのだろうか。
「配置につき次第、まずは消防車で放水し、周囲の温度を下げつつ、銃器による牽制を行います。その後、無反動砲と迫撃砲による攻撃で鎮圧の予定ですが……無反動砲も迫撃砲も弾薬が心許ないので必中の必要性があります」
「そこで、俺の出番ね……動きを止めるにしても、あの図体と熱量か。どうするかな……動きのスピードは? 」
「小回りの効く車並みと考えていただければ……。あの、無理はしないでくださいね。あなたは自衛軍の人間ではありませんし……」
「わかってる。さて、あのでかさで、速いのか」
本当にどうするかな。
そのとき、胸ポケットのスマホが震える。
こんな時になんだ、あのポンコツ。
「すまん、電話だ」
「電話? どこから? 誰と? 」
歩兵が怪訝そうに俺を見る。うん、携帯電話は現在不通になっていて、連絡は専ら無線だそうだ。
「あの世の神」
短く答えた。
「なんだ? 」
「彼を知り己を知れば百戦殆うからずという事で、おすすめアプリがあるから使ってみなさい。安心しなさい、一日だけならお試し版使えるから」
カトリーヌ・大塚が言う。
「今、このタイミングで言うか? 」
「いやー、今さっき、思い出したの」
と言われるままに、モンスターリサーチと呼ばれるアプリのお試し版をダウンロードする。使い方は、起動してカメラでモンスターを写すだけらしい。
カメラを向けると、アプリがしゃべり出す。
『サラマンドラ。オオトカゲモンスター。全身から強力な熱を発し、炎の中でも平気。さらに口からも超高熱の炎を吐き出し、しばしば山火事を引き起こす』
……。
アプリの声は、非常に聞き覚えがある。そして、この機能といい、説明文といい。
「ホ○ケモン図鑑じゃねーか。またパクリか」
俺の世代だと、条件反射するぐらい知っている某ゲーム&アニメに出てくる某アイテムを彷彿とさせる。
「ホ○ケモン図鑑じゃありません。決してパクリじゃないって、たまたま発想が被っただけで」
「パクリだろうが。なんで声まで一緒なんだよ」
「そこは、リスペクトと言いますかオマージュと言いますか」
「やっぱ、パクリじゃねーか」
このアプリって誰が作っているのか知らないが、パクリが酷すぎる。そのうち、訴えられても知らんぞ。というか、訴えられて敗訴してしまえ。
「という訳で、健闘を祈る」
「おい」
一方的に切られてしまった。
あいつ、何のために電話してきたんだ?
つーか、新情報がほぼ無いんだが。あるとすれば、炎の中でも平気ということだが、メインウェポンが炎の俺にどうせいと? あの熱量相手に凍らせる炎も効果が薄いとしか思えないが。
「はい。はい……了解です。作戦開始まであと1分です」
「おう」
レッドワークスだけ起動しておく。
緊張はしない方だが、緊迫感を感じ取って、何となく息をのんだ。
あのゲームだと、炎タイプには水か土、岩が効果が抜群なわけで、氷は相性が悪かったな……。あ、やっぱり、俺、あんまり緊張してないわ。
それとも、現実逃避だろうか。世界も境遇も現実離れしている気もするけどな。
「……3、2、1、ゴー」
歩兵のカウントから林の名から水が勢いよく飛んでいく。
水が炎蜥蜴、正式名称はサラマンドラか? に当たった瞬間に大量の水蒸気があがっていく。トカゲは、直ぐさまに水から逃れようとして、林に突っ込んでくる。
「やべ」
俺は隣の歩兵と一緒に駆けだしていくと、背後にサラマンドラが突っ込んできた。その間にもあちこちから小銃による射撃が行われているが、どうやら弾丸が当たっても弾かれているようだ。実は、炎プラス鋼タイプか? だとすると、地タイプの攻撃がすごく効くはずだが、どうなのだろうかな。
細い木々を倒しながら、サラマンドラが林を進み始める。
サラマンドラが動きを止めて、放水している方向に頭を向ける。そして、ゆっくりと口から空気を吸い始めた。
あ、やべ。
「ちょっと、勝手に動くぞ。銃撃当てないでくれ」
「え? 」
両足から炎を吹き出し、低空飛行でサラマンドラの正面に回り込んだ。水をぶっかけているが、それでも、近づいただけで火傷しそうなほど熱い。サウナのほうがましな熱さで、瞬間的に喉が渇いていく。
両手にありったけの熱と炎をイメージし、サラマンドラに放った。放った瞬間に、サラマンドラの口からも炎が吹き出される。二つの炎が林の中でぶつかり合って、散っていき、辺りを火の海に変えていく。
それでも、俺の炎は、サラマンドラの炎と同程度の威力を出せているのか、俺より後ろへと炎が向かっていくことはなかった。
サラマンドラが、炎を吐きやめて、俺も炎をやめた。サラマンドラの様子は、まだまだ平気な様子だが、悠然とたたずんでいる。
「ヤベー。ヤバイヤバイ」
俺に出来るのは、炎を相殺するぐらいのようだが、スマホの電池を考えると、そう何度も出来る事じゃない。
さて、どうするかな。




