7.僕のせいじゃない③(マーク)
「怖い、怖い、怖い…」
部屋の中、ベッドの上で頭からシーツを被り震える。
数日前に小説家を訪ねてから、僕はずっとその状態でいる。
外に出られなくなった。一歩でも外に出たら、オルコット公爵令嬢に殺されそうで、恐ろしくて堪らない。
殿下の補佐も出来なくなった。
側近から外されるかと思ったが、父上が「重い病にかかった」という事にして、保留にしてくれた。
側近の座は今のところ守られてるが、それも時間の問題だ。
一度父上に呼ばれたが、冷たい目で「挽回できないようなら、跡継ぎの交代も考える」と言われた。
それでも僕は、この部屋から出られない。
(公爵令嬢は生きてたんだ)
どうやってかは知らないが、僕達の目を欺いて生き残り、僕達に復讐してるんだ。
「僕のせいじゃない、僕のせいじゃない、僕のせいじゃ…」
明かり1つない暗い部屋で、ひたすら呟く事しか出来なかった。
「おい、大丈夫か?」
数日後、殿下が見舞いに来てくれた。
「殿下…申し訳ありません」
さすがに殿下の前でシーツを被ったままでいるわけにもいかず、表面上は何ともないように応対する。
「思ったより元気そうだが…顔色が悪いな。大丈夫か?」
「お気を使わせてしまい、申し訳ありません。疲れが溜まっているだけですので…」
「そうか…まぁ色々あったしな」
暗い表情で殿下が俯く…無理もない。
(オルコット公爵令嬢の件からまだ2か月と経ってないのに、ハンスの死やらアンヌマリー嬢の本性やら、本当に色々あったしな…)
誤魔化すつもりだったが、本当に疲れが溜まっているのかもしれない。
「あぁそうだ、元気が出る薬を持ってきたんだ」
「元気が出る薬?」
(そんな物、聞いたことない)
首を傾げると、殿下が懐から笑顔で薬の入った瓶を取り出す。
見たところ、中の薬とやらは飴のような包み紙に包まれていた。
「ふふふ、半信半疑な顔だな?でもこれは本当に元気が出るんだ。僕も食べたが甘くて食べやすいし、寝る前にこれを食べて寝ると良い夢を見るし、翌朝も頭がスッキリして良い気分になるんだ!本当は秘密だが、お前には特別に分けてやる!」
殿下が笑顔で得意気に胸を張る。
アンヌマリー嬢の本性を知ってからずっと暗い顔だったが、久しぶりの笑顔だ。
(甘い…やっぱり飴なのか?効果はともかく、殿下のオススメを断るわけにはいかないな)
「分かりました…ありがとうございます」
殿下は嬉しそうに、僕の手のひらに飴を乗せた。
その夜殿下に貰った飴を食べてみた。
効果は本当だった。
久しぶりに悪夢を見る事無く、朝までぐっすり眠れた。
朝目覚めた時も、不思議な高揚感と幸福感に包まれて、視界が開けた気がした。
それから毎晩僕は、飴を食べて眠るようになった。