6.僕のせいじゃない①(マーク)
ずっと家の為に生きるのだと、教えられて来た。
その為なら何をやっても正しいと思って、実行してきた。
だから僕は悪くない。
「え、ハンスが死んだ…?」
ハンスが死んだという知らせを受けたのは、王太子から衝撃の告白を聞かされた数日後だった。
いつものように身支度を整えて学園に行こうとした矢先に、伯爵家から早馬で知らせが来た。
「はい、王宮の近くの森にある小屋の中で、首を吊っていたそうです。当時の状況と、体内から多量のアルコールと幻覚剤が見つかった事から、自殺と断定されました」
「アルコールと幻覚剤?」
使者の説明に、眉を顰める。
確かにハンスは正義感が強かったし、真実を知って酷く思い悩んでいたようだが、そこまでとは思わなかった。
「はい。ハンス様はここ数日夜も眠れず悩んでいらっしゃったご様子でしたし、最後に会われた騎士のエリック殿も、ハンス様が突然悲鳴を上げて走りだされたと仰ってました」
「騎士のエリックというと、王太子の前婚約者の…」
僕の言葉に、騎士も気まずそうに肯定する。
「はい、亡くなられたオルコット公爵令嬢の護衛騎士です。その、ハンス様は彼を尊敬していましたので、伯爵様が彼なら、ハンス様の悩みを聞きだせるのではないかと…」
使者の言葉に、焦る。
(もしハンスが、白状してしまっていたら…)
だがすぐに、それはないと思い直す。
(ハンスは真面目だから、あれだけ家族にも塁が及ぶと言われれば、絶対に話さないだろう…それにもしバレていたら、とっくに捕縛されている)
考えこんでいる間に、使者の話はハンスの葬儀へと移っていた。
とりあえず葬儀に出席する事を伝えて、使者は帰らせた。
「エリック殿」
葬儀が終わって帰ろうとしていた所を、呼び止めた。
葬儀に参加した目的は、友人を最後に見送るのもあったが、もう1つは彼からハンスの最後の様子を聞き出す事だ。
話していないとわかっていても、やはり最後の様子が気になる。
「これは、カートランド侯爵子息。私に何か御用でしょうか?」
エリックが無表情に、一礼してくる。
「うむ。実は君にハンスの最後の様子を聞きたいと思ってな。良ければ話してくれないか」
「はい。私と彼は酒場で飲み会をしておりました。名目は私の送別会でしたが、本当の目的は、伯爵に彼の悩みを聞きだしてほしいと頼まれていたので、賑やかな場所でアルコールが入れば、気が楽になって話しやすいと思ったのです」
エリックの言葉に、ギクッとする。
(喋らなかったとわかっていても、やはり焦るな…)
内心を隠しながら、話を聞く。
「結局彼は話しませんでした。そのうち酔いつぶれてしまったので、人通りの少ない裏路地で休ませて、その間に馬車を探しに行きましたが見つからず、仕方なく伯爵家まで連れて行こうとしたら、突然悲鳴を上げて逃げ出したのです。慌てて追いかけましたが、見失ってしまいました。付近を探している内に、彼が森の小屋で首を吊っているのを発見したのです」
「そうか…他に何かなかったか?」
「いえ何も…あ、そういえば」
「な、何だ?何かあったのか!?」
「いえ、それほど大したものでは無いのですが…彼の足元に、この本が置かれておりました」
「本?」
「はい、これです」
そう言ってエリックは、1冊の本を差し出した。
分厚い本で、タイトルを見る限り、ありふれた小説の様だ。
「状況を見る限りハンス殿が持っていたようなのですが、失礼ながら彼に読書の趣味があるとも聞いていないので…王太子殿下か侯爵子息からお借りした本ではないかと思ったので」
「僕は知らない」
ハンスが何も残していない事に安堵したが、謎の本に首を傾げる。
とりあえず本に何か残っていても困るので、そのまま預かる事にした。
その夜、僕は本に目を通した。
最初は何か遺書か、メッセージでもあるんじゃないかと、確認するだけの作業だったが、次第に内容を追うようになっていった。
それは婚約者に裏切られ殺された令嬢が蘇って、殺した連中に復讐する話だった。