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第83話 これからの作戦


 納屋の外では、ヒグラシが鳴き始めていた。


 夕方の風が、開け放した戸をゆっくり揺らす。


 五人は机を囲んだまま、誰も帰ろうとはしなかった。


 宿題は終わった。


 自由研究も書き終えた。


 それなのに。


 頭の中にあるのは、さっき聞いた返歌のことばかりだった。


「……なあ」


 陸が口を開く。


「これで宿題は全部終わったんじゃろ」


「うん」


 春人がうなずく。


「じゃあ」


 陸はにやっと笑った。


「夏休み、もう自由じゃな」


「遊び放題じゃ」


「遊びじゃない」


 蒼太が即座に返す。


「調査じゃ」


「また始まった」


 あかりが吹き出す。


 納屋に笑い声が広がった。


 蒼太は地図を広げる。


「まだ終わっとらん」


 陰陽石。


 氷室。


 山で見つけた石。


 三つへ鉛筆で丸を付ける。


「次はここじゃ」


 蒼太の指が止まったのは、山で見つけた石だった。


 春人たちも地図をのぞき込む。


「あそこか」


 陸がうなずく。


「まだ歌っとらんもんな」


「うん」


 春人も答えた。


 陰陽石では返歌が返ってきた。


 氷色は「石を伝う」と言った。


 ならば。


 あの石でも、何かが起こるのかもしれない。


「でも」


 あかりが腕を組む。


「毎日山ばっかり行っとったら、絶対怪しまれるよ」


「それはある」


 陸も苦笑した。


「父ちゃんも母ちゃんも、最近よう山行くなあって言いそうじゃ」


「そういえば」


 春人が顔を上げる。


「前に黒崎さん、『相談に乗る』って言ってたよね」


「あ」


 陸もうなずく。


「杉谷さんも『一緒に考えちゃる』って言っとった」


あかりが首をかしげる。


「その前に親を説得せんといかんじゃろ」


「うん」


 春人もうなずく。


「自由研究で興味が出たから、もう少し調べたいって言えば」


「嘘じゃないし」


「なるほど」


 陸がうなずいた。


「確かに嘘ではないな」


「それに」


 春人は続ける。


「五人で行くって言えば、少し安心してもらえるかもしれない」


「でもなあ」


 あかりが首をかしげる。


「山って聞いたら、それだけで反対されそう」


「じゃあ」


 みゆが静かに言う。


「黒崎さんに、一緒に来てもらえたら?」


 一瞬、全員が顔を見合わせた。


「それじゃ」


 あかりが笑う。


「バイクの兄ちゃんなら山なんか慣れとるじゃろ」


「杉谷さんでもええかもしれん」


 春人が言う。


「見学会のことも知ってるし」


 蒼太は少し考えてから、小さくうなずいた。


「どっちか一人でも来てくれたら心強い」


「まず黒崎さんらにも相談じゃ」


 その言葉に、全員がうなずいた。


 もう秘密を打ち明けるわけではない。


 けれど。


 少しだけ大人の力を借りる。


 それも必要なのかもしれなかった。


 納屋の外では、ヒグラシの声が少しずつ増えていく。


 夕暮れが近づいていた。


「じゃあ」


 陸が立ち上がる。


「今日は解散じゃな」


「明日、結果報告」


「おう」


 蒼太が短く答える。


「分かった」


 春人もリュックを背負う。


 陸が戸口へ向かいかけて、ふと立ち止まった。


「そうじゃ」


「黒崎さんと杉谷さんにも言わんと」


「あ」


 春人も顔を上げる。


「宿題終わったって」


「約束しとったもんな」


 みゆが小さくうなずく。


「自由研究が終わったら、また相談するって」


 蒼太も立ち上がり、少し考えてから小さくうなずいた。


「まず黒崎さんらに相談じゃ」


「協力してもらえるんなら」


「そのあと親を説得する」


 陸もうなずく。


「よし」


「じゃあ明日、まず黒崎さんらに会いに行こう」


 五人は顔を見合わせた。


「うん!」


 声が重なる。


 宿題は終わった。


 夏休みは、まだ半分残っている。


 そして。


 五人の作戦は、一歩ずつ形になり始めていた。

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