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プロローグ

プロローグ


 夜の町は静かだった。


 昼間は青かった空も、今は深い藍色に染まっている。


 窓の外では夏の虫たちが鳴いていた。


 風が吹くたびに、庭の木々が小さく揺れる。


 引っ越してきたばかりの家には、まだ開けていない段ボールが残っている。


 新しい町。


 新しい学校。


 新しい生活。


 春人はるとはもう眠っていた。


 慣れない一日で疲れていたのだろう。


 規則正しい寝息だけが部屋に響いている。


 机の上には、学校から貸与された学習用タブレットが置かれていた。


 電源は切ったはずだった。


 誰も触れていない。


 部屋には春人しかいない。


 その春人も眠っている。


 けれど――。


 ピコン。


 小さな通知音が鳴った。


 真っ暗だった画面が、ふわりと光る。


 青白い光が静かな部屋を照らした。


 画面には文字が並んでいた。


 見たことのない文字。


 曲線と直線が複雑に組み合わさった奇妙な記号。


 まるで文字のようでいて、文字ではない。


 その文字列がゆっくりと揺れる。


 まるで何かを探しているように。


 その時だった。


 画面の中央で、小さな光が点滅した。


 ひとつ。


 またひとつ。


 やがて幾つもの光が現れる。


 夜空の星座のようにも見えた。


 けれど次の瞬間。


 他の光がすべて消えた。


 ひとつだけが残る。


 そして。


 その光が静かに輝いた。


 見つけた。


 そう告げているようだった。


 文字列が組み替わる。


 ゆっくりと。


 ひと文字ずつ。


 見知らぬ記号が日本語へ変わっていく。


 そして最後に、一行だけが残った。


 ――この声が聞こえていますか?


 部屋に返事はない。


 春人は眠っている。


 けれど画面は消えなかった。


 まるで誰かの応答を待っているように。


 遠い昔から。


 ずっと。


 誰かを探し続けていたかのように。


 夏の虫が鳴いている。


 静かな部屋の中で。


 タブレットだけが、淡い光を放ち続けていた。

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