1.氷の魔城
※新作です。よろしくお願いします。思いのまま書いたご都合主義なところや、矛盾点が多くありますが、あまり気にせず軽い読み物として読んでください。
眼下を一望する翠嶺に聳え立つ、白く美しき城あり。
今日も蒼天の下、温かな陽光を抱き、まるで天使が舞い降りたか如く安らかな温もりを与えてくれていた。
だが、人はそれを「氷の魔城」と呼ぶ。
『一度足を踏み入れると、二度と生きて帰ることは出来ない。悪魔の氷帝の棲む場所』
──そこに一人の若い娘が今、向かおうとしてた。
◇
「お前みたいな地味で暗い女は、この俺様には似合わない。こんな粗末なケーキなんかいらないんだよ! 婚約は解消だ」
産みたての新鮮な卵と、絞りたての牛乳で作ったケーキが、床に投げ捨てられた。
彼の誕生日にと朝早くから作り、庭の花を押して作った箱に入れたケーキが、キラキラした女性達に嘲笑され、踏みつけられる。
悲しかったのは、彼に婚約を解消されたことではない。
大事に育てた鶏や、牛たちが今日の為にと用意してくれた食材が、見るも無惨な姿になってしまったことで、彼らへの懺悔の気持ちでいっぱいになり、私はその場を後にした。
幼なじみの彼に言われてから数日が経ち、私は今、知らない国に嫁ぎに行く為に、一人とぼとぼと歩いている。
──時は少し前に遡る。
今の母様とは血が繋がっていない。父様は男爵様と呼ばれ小さな町の領主だった。
母が亡くなってからの私の友達は、飼っていた羊や山羊だった。
そんな私の唯一の人間の友達は、父の古くからの友人である子爵家の三男の彼だった。
でも彼は都会の学校に行き、人が変わってしまった。
私が作るチーズケーキや、採れたて野菜のスープを「美味しい」とあんなに喜んでくれた彼はもう居なかった。
婚約話が破談となり、母様は激高し父様を罵った。そして代わりにと急ぎ父様が見つけてきてくれた新たな婚約話。
「少しばかり遠い国ではあるが、なんと皇帝様のところだ。だから何も心配は無い安心だ」と父は嬉しそうに私に言った。
そして直ぐに、私は身一つで家を追い出され、片道分の辻馬車の路銀だけを渡された。
◇
「夜明けと共に家を出て、朝一番の辻馬車に乗ってから何度も乗り継いだと言うのに……まだ着かないのかしら? 少し遠いとは聞いていたけれど」
私は辺りが既に薄暗くなってきていたことに、少し不安を覚えていた。
そんな時だった。馬車が勢いよく停まった。
「お疲れさん姉ちゃん。これ以上は馬車では入れないんだ。ごめんな?」
御者のおじさんが言う。やっと目的の街に着いたことに安堵し、私は親切にしてくれたおじさんに挨拶をし別れた。
「この辺りのはずなのだけど……」
私は、おじさんが親切に書いてくれた地図を手にして辺りを見渡した。
山? と丸と線だけが書かれた地図を眺めながらキョロキョロと。
真っ直ぐ歩いて角を曲がって、上を見てごらんと言われたが?
あ! あった!!
──「……ハァ……ハァ、ハァ。あ、あと、す、少し……」
小高い丘を頑張って登り、大きな城門前に立つ。
「うわぁ。何て素敵なお城でしょう!」
目の前に現れた、まるで絵本から抜け出たような白い美しいお城にうっとりし、長旅の疲れが一瞬で飛んで行きそうなぐらいの夢の世界に、エミリアは歓喜の声を上げた。
「こんな素敵なお城に住んでいらっしゃる王子様と、私が婚約?」
私は胸の高鳴りと、でも大丈夫なのかしら? 私みたいな地味で暗い女が? と心配になった。
「おい! そこの女! 何の用だ」
「あ、ごめんなさい。実は此方でお世話になる予定のエミリアでございます。あ、身分証です」
門兵の方に急ぎ身分証(婚約募集者申し込み書)を見せる。
『カトリナブルタナ・ド・ノース共和国 ナタリー男爵三女エミリア 趣味料理、特技料理、好きなこと、動物と遊ぶこと』
「カトリアブリタナ? 特技料理? ああ、 昨日辞めた料理人の代わりか!」
門番の兵士さんが一瞬首をかしげたが、納得? の顔をする。
でも? 料理人って?
──ゴーン、ゴーン
鐘の音が鳴り響く。
「あ! もう閉門の時間か。あ、アメリアさんって言ったなぁ? 門が閉まってしまう! 急いでくれ!」
エミリアなんですけど……
でもまぁ良いですわ。 無事にお城に辿り着くことが出来ましたしね。
◇
──翌朝。
「何やってんだいあんた!! 陛下は野菜ジュースしか口にされないよ! んもう! 時間ないってのに!」
赤毛の女性が顔を真っ赤にして立っていらっしゃる。
昨夜はあのまま部屋に案内されて「明日から仕事だ」と言われ先程、厨房に案内されたのは良いのですが。
陛下の婚約者なのですから、朝食をお作りするのは当然ですよね。と思い、新鮮なお野菜と卵でオムレツを作ったら怒られちゃいました。
陛下は、朝は野菜ジュースやフルーツジュースしか飲まない方なのかしら?
でも、朝食は大事なのに……
「ごめんなさい……」
私は謝り、ジュースを作り直す。
でも野菜だけだと美味しくないわよねえ? 折角だから蜂蜜入れようかしら?
これだけだとやっぱり味気ない気がして、私はオレンジを薄切りしたものに、少し皮に切り込みを入れ、グラスにさし隣に花を添え、蜂蜜は小さなガラス容器に入れる。
「あんた何やってんだい。本当にもう! この娘ったら! あ、もうこんな時間じゃないか!」
「ごめんなさい……」
また怒られちゃいました。
何をしても、何処に行っても怒られてしまうのです。
お母様が亡くなってから直ぐに、お父様は今のお継母様と結婚されました。
でも一緒にきたお姉様二人は、鈍くさい私を毛嫌いし、獣臭いと言われ畑横の納屋に追い出されてしまいました。
でも私としてはお友達の羊のメイちゃんや、鶏のコッコさんらと近くなったことで嬉しかったのです。
あ! また一人で色々考え事をしていました。
これが私の悪い癖なのです。
◇
「朝食をお持ちしました。では失礼します」
女はいそいそと部屋を出て行く。
一日三回、息を出来るだけ止めて目を合わせず、目の前のグラスだけを見て置いたら直ぐに出る。
もう、この繰り返しを何年しているんだろう……
「今日もまだ命があった……」
赤毛の女性は大きく息を吸って、小さな声で呟き廊下を静かに歩いて行く。
──そんなマーゴの思いとは別の心配をしている者が居た。
◇
「良かったわ。マーゴさんが届けてくれて。でも私っていつになったら、婚約者様にお目にかかれるのかしら? 確か私って婚約者にって言われたような? あれれ? 違ったかしら?」
エミリアは、婚約者様との対面の時を心待ちに、厨房で後片付けを楽しそうにしてた。
◇
──この国では珍しい銀色の髪をした男が、グラスに縁に挟まれたオレンジを抜き取り、そのまま盆に投げ捨てた。
「面白い」
彼は一言だけ言い残し、直ぐに部屋を後にした。




