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第十話 もう歩きたくない

「あれクラスのやつらだよな!?」


 田中が驚きの声を上げた。


 門を抜けると、木造の家屋が立ち並ぶ通りが続いていた。

 その先には小さな広場。

 そこで、ミケと同じく猫耳の生えた人々が人垣を作っている。

 恐らくこの村の住人であろう。


 そして住人達の視線の先に、メガネと同じ制服の数人の男女が居た。

 彼らは何か言い争いをしている様に見える。


「何やってんだ? ちょっと声かけてくるわ」


 そう言って駆け出す田中。

 つい先程まで山本を背負って歩いていたというのに、大した体力である。


「やはりな」

「あれ? メガネくん何か知ってたの?」


 田中の走る先を見ながら訳知り顔で呟くメガネに、山本が尋ねた。


「いや。ただ必要なら居るだろうと思っていただけだ。展開の都合上な」

「斜め上の答えが返ってきた」

「そいつの言うこと気にしてたら身が持たにゃいよ?」


 半笑いの山本にミケがそうフォローする。


 出会って僅か半日と少し。

 メガネはすでに揺ぎ無い信頼(変人的な意味で)を得ていた。

 恐るべきコミュ力だ。


「それより、行かにゃくていいの? こっちに手を振ってるよ」


 見ると田中が手を振りメガネたちを呼んでいた。

 他のクラスメイト達もこちらを見ている。


「どうでもいい。それより休める場所はないのか」


 しかしガン無視であった。


「えっ、いいの!? 知り合いにゃんだよね?」

「………もう体力が無い。あんな所で立ち話など御免だ」


 そう言うメガネの顔色は確かに悪い。

 普段から本を読んでばかりでほとんど体を動かさないモヤシっ子なのだ。

 ここまで持っただけでも奇跡的な事だった。


「んー、分かった。顔色悪いもんね。休めるとこまで案内するよ。ヤマモトはどうするの?」

「僕も行っていいかな? こんな格好でみんなの前に出るのは恥ずかしいし……」


 制服を失った山本は、ゴブリンの腰布で辛うじて胸部と下半身を隠している状態だ。


 まるで原始人のようなその姿。

 これで制服を着た集団の中に入っていくのは確かに恥ずかしいだろう。


 実は先程からも、クラスメイト達の視界に入らないよう、メガネの後ろに隠れていた。


「じゃあ行こっか! 付いてきて!」


 そう言って、すぐ横の脇道に向かうミケ。

 メガネ達も後を追う。



 すると広場の方から「ちょ!? おい! どこ行くんだよ! こっちだってー!」と叫び声が聞こえた。


「あ、田中くんどうしよう」


 そう言いながらも足を止めない山本。

 自分でどうにかする気はさらさら無いようだ。

 なかなか良い性格をしている。


 メガネも同じく歩きながら答える。


「気にするな。放って置いても向こうから顔を出す。他の奴らもな」

「それも展開の都合上ってやつかな」

「そうだ。話が分かるな」

「冗談言ったら感心されてしまった」


 気にしない様子の二人を見て、「いいの?」という顔を向けていたミケも視線を前に戻す。

 そのまま三人は足を止めることなく脇道に入って行った。



 広場では、残された田中がクラスメイト達に慰められていた。




--------------------------




「ここだよ!」


 案内された先は、一軒の民家らしき建物だった。


 ちなみにそれも含めて、村で見た建物は全て木造の平屋だ。

 すぐ近くに森があるのだ。そこの木材を利用しているのだろう。

 建築技術はあまり高くないようで、丸太を重ねたようなシンプルな外観をしていた。



 その民家の玄関まで進むと、ミケが扉を開けて中に声をかける。


「ただいまー! おかあさーん! 今日お客さん泊めていいー?」


 後ろで様子を見守る二人。


「休めるところってミケさんの家だったんだね」

「どこだろうが構わない。ゆっくりできるならな。……もう倒れそうだ」


 メガネは膝に手を付いて項垂れている。

 限界が近いようだ。


 そうしていると、中からエプロン姿の女性が顔を見せた。


 「おかあさん」であろう。

 その印象は、一言で言えば大人になったミケだ。


 髪の色こそミケと異なり薄茶色だが、良く似た顔立ちをしている。

 もちろん猫耳も生えていた。


「おかえりなさいミケちゃん。お客様もいらっしゃい」


 そう言って三人を出迎えたミケ母。

 まだミケには出来ないであろう、母性溢れる笑顔だ。


「初めまして。僕、山本といいます。急に押しかけてすみません」

「……すまない、世話になる」


 感じのいい笑顔で挨拶する山本。だが首から下は原人スタイルだ。

 メガネはメガネで、膝に手を付き、疲れた顔をミケ母に向けている。


「……あら、なんだか大変だったみたいね」


 ミケ母は頬に手をあて、労るような優しい声でそう言った。

 二人を見て色々と察してくれたのだろう。


「そうにゃの! ほんとに大変だったんだから! 変人に絡まれたりゴブリンの群れに襲われたり……」


 両手を上げヤレヤレという仕草で愚痴るミケ。

 ちなみに、メガネは「変人などいたか?」と怪訝な顔をしているが、もちろんお前の事である。


「あらあら、よく無事だったわね。話しは後で聞くから、まずは着替えてきなさい。二人もどうぞ中に入って」


 そうしてメガネ達はミケの家にお邪魔する事になったのだった。




--------------------------




 家に入るとすぐ、ミケ達はミケの部屋に行ってしまった。

 着替えるついでに山本の服も探すのだそうだ。


 ミケ母はメガネをリビングに案内してから、夕食の準備をすると言って奥の台所に向かった。


 一人残されたメガネは、ミケ母が言い残した「少しゆっくりしていてね」とのお言葉に甘え、リビングのテーブルに突っ伏していた。



(あぁ、やっとゆっくりできる。このまま少し眠ろう―――)


 そんな事を思っていたが、頭の中に響く声がそれを邪魔する。


≪おまちなさい。あなたにいくつか伝えておくべき事があります≫

「……クソ女神か」

≪次にそう呼んだら呪いをかけますよ≫

「女神の呪いを受けた主人公……ふむ、それも面白そうだな」


 常人であれば脅しになりえた呪いも、メガネにとっては物語のスパイスでしか無いようだ。

 動じない様子を見て諦めたのか、女神は溜息をついて話しを戻す。


≪ハァ……まぁ良いでしょう。用件を伝えます≫


 そう言って説明を始めた。



 まずはこうして女神と会話が出来る理由。


 それは聖剣(今はペンダントになっている)にあるそうだ。


 今の女神はどうやら力を封じられているらしく、普通なら女神の宿る『聖樹』の近くまでしか声を届けられない。

 しかし、離れた場所に居ても、剣を持つ者にだけは直接思念を送り会話ができるらしい。


 持っていなければ声が届かなくなるため「肌身離さず身に付けておくのですよ」と念を押していた。



 次にその聖剣について。


 これは女神という存在の一部を切り取って作られた、云わば分身のようなものだそうだ。

 声を届けられたり、勝手にペンダントにしたりできたのも、基が同一の存在だからと言う事のようだ。

 粗末に扱われて女神が怒ったのも無理はない。


 とは言っても剣はあくまで純粋な力の塊であり、女神の精神が宿っていたりする訳ではない。

 その力に方向性を与えるのは使い手の意思、と言う事らしい。



「つまり俺の意思に応じて力を発揮する剣か。………なんともありがちだな」

≪いえ、世界にこれ一振りだけなのですが……まさかそのような反応をされるとは予想外です≫


 がっかりしたような表情のメガネ。

 ため息までついている。

 これには女神もびっくりであった。


≪予想外と言えば、最初からあそこまでの力を引き出せるとは驚きました。どのような想いを込めたのですか?≫


 女神が尋ねたのはゴブリンを殲滅した時のことだろう。


「別に想いなど込めてはいなかったが」

≪えっ。な、仲間を守りたいとか、そう言った事は……?≫

「無いな。しいて言うなら『こうなるだろう』という予想は頭にあった」



 そうなのだった。


 あの時メガネは、仲間や、まして自分が死ぬかもしれないなどとは微塵も考えていなかった。

 なぜならよくある展開だったからだ。


 当然その先も想像できていた。

 それは圧倒的力でゴブリン達を殲滅する自分の姿だ。



≪明確なイメージが力を引き出したと言う事でしょうか? なんだか納得いきませんが≫

「細かい事を気にするな。それより、話が終わりなら少しでも休みたいのだが」


 長話に付き合わされてうんざりといった様子だ。

 相変わらず女神に対する敬意の欠片も感じられない。


≪全くあなたと言う人は……なら最後に二つだけ手短に≫

「早くしてくれ」


≪実は私との会話は、心の中に言葉を思い浮かべるだけで十分です。それと………ふふ、先程からあなたを見ている人達が居ますよ≫


 言われて顔を上げると、ミケと山本がリビングの入口に立っていた。

 気持ち悪い物を見るような目をしている。


 テーブルに突っ伏してぶつぶつと独り言を呟くメガネは、さぞ気味が悪かっただろう。


(……先に言えクソ女神)

≪あ! また言いましたね―――≫


 言い終わるのを待たず、ペンダントを首から外してテーブルの上に放る。

 女神の声は聞こえなくなった。




--------------------------




 女神から解放されたメガネの耳に、代わりにミケの引きつったような声が聞こえてくる。


「アンタも、ほんと頭おかしいよね……」

「失敬な。今のは女神………いや、何でもない」


 『女神』という単語を聞いてミケの目が鋭くなった。

 森での事を根に持っているのだ。


 そんなミケは、着替えを終えて戻ってきた所なのだろう。

 先程までのような物々しい格好ではなく、シンプルなワンピースを着ている。


 そして隣の山本。


「……その格好は何だ」


 彼もミケと色違いのワンピース姿だった。


「それは女物ではないのか?」

「そうだよ。似合ってるよね?」


 事も無げにそう返し、くるりと回って可愛いポーズを取る山本。


 彼は女の子のような可愛い顔をしている。体も華奢だ。

 故にそのワンピースはとても似合っていた。

 ぶっちゃけ女の子にしか見えない。


「……ふむ。お前はそういう役所だったか」


 いわゆる男の娘である。

 近年の若年層向けの読み物にはよく登場する。

 だからメガネは驚かずに受け入れる事が出来ていた。


「あれ? びっくりすると思ったのに……残念だな」

「なんだ、そのために着てきたのか?」

「ちがうよ。こう言う服の方が落ち着くんだ」



 山本が言うには、家では普段から女物の服を着ているらしい。


 小さい頃から両親にそうさせられていたそうで、今では普通になってしまったのだそうだ。

 本当は娘を欲しがっていた両親が、その代わりに、と言う事だった。


 随分と鬼畜な親が居たものである。



「なるほどな。良くある話だ」

「え、そう? ずっとうちだけ変わってるんだと思ってたけど」


 もちろんメガネが言っているのは本の中での話である。

 現実でそれが「よくある話」であってはたまらない。

 この異世界でもそれは同じであるらしく、ミケが横槍を入れる。


「いやいや、変だよ」

「そうか? 女装程度は普通にあるぞ(本の中では)」


 駄目だ。メガネには通じない。


 しかし山本の方は変だと自覚があったようで「やっぱりそうだよね」と納得したような表情をしていた。

 それにしても自覚した上で可愛いポーズまで取るとは、大した面の皮である。


 その皮の上に可愛らしい笑顔を浮かべる山本は、メガネの発言に何か思い付いたようだ。


「でも、女装が普通って……もしかして、メガネくんもした事あるの?」

「無い」


「そっか………じゃあ、してみようよ!」


 とんでもない事を言い出した。


「ほぅ、女装主人公か。悪くないな」

「うん、きっと似合うよ!」

「そうか? しかし俺に合うサイズの服がここにあるか……」


 しかしメガネは意外にも乗り気だった。


 山本は似合うなどと言っているが、酷い有様になるのは目に見えている。

 にも関わらずどんな服がいいかを真剣に話し合う男二人。


 ミケは二人に増えた変人に頭を抱えた。


 と、そこで奥の台所からミケ母の声が聞こえる。


「ミケちゃんいるのかしらー?」

「いるよー!」

「お皿運ぶの手伝ってくれるー?」


 変人達は放置する事にしたのだろう。

 「はーい」と応えてミケが小走りで台所に向かう。


 気付けば、そちらから美味しそうな香りが漂ってきていた。

 もうすぐ料理が出来上がるのだろう。


 メガネと山本は女装談議に花を咲かせながらそれを待つのだった。





 この後、恐ろしいものが待ち構えているとも知らずに………





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