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シュガー・シュガー・シュガー(!)  作者: 助供珠樹
大学二年:4~7月まで(エピソード4)
49/90

ティー・ブレイクⅨ『words & come back!!』

 キャンプファイヤーの時間がやってきた。


 大きな火がゆらゆらと揺れていた。

 その火を、成司は阿古屋と二人でぼーっと眺め続けている。やがて、ちらりと火から目を逸らした成司は、出店したそれぞれのサークルの面々が、各々で固まりあってどれも皆愉快そうに笑いあっているのがわかった。


 漫研のように二日間出ずっぱりだったサークルは本当に大変だったと思う。まぁ……自分もまさか二日目に掃除をやらされるとは思わなかったが。


 でも、今はそこまで嫌な気分でもない。


 これまでどれも中途半端で色々なことを投げ出していた成司にとって、昨夜のライブは人生初と言っても良いほどの大事業だった。達成感があったのだ。


 だから、掃除くらいチャラだ。なんといっても、あの日の俺はマジカッコ良すぎたからな。


 そうやって一人でニヤニヤしていると、


「――終わっちゃったっスね」


 隣で膝を抱えている阿古屋が名残惜しそうにそうつぶやき、びっくりした成司は慌てて顔を引き締め、軽く咳払いをしてから振り返った。


「……な、なんだかあっという間だったな。結構当日まで練習でバタバタしてた気がするけど、終わってみりゃ一瞬だ」

「……そうっすね」


 どきりとする。


 阿古屋は口元に薄い笑みを浮かべていた。そんな彼女の表情が、いつぞやの時と同じ感想を成司に抱かせる。


 ――こいつ、やっぱり可愛い。


 全てはあの事件以降である。

 あの時から、成司は阿古屋を見る度に意識をしてしまっている自分に気付いた。


 もしかしたら、この時折見せるこの色っぽい雰囲気は、彼女にとって何か特別な感情が沸いているときにしか出ないものなのかも、なんて思わずバカなことを考えてしまう。


 そのまま成司は、ちらりと伺うように阿古屋の横顔をそっと見つめた。


「ん?」


 くるりと阿古屋が成司へ振りかえる。

 その瞬間、激しく心臓がどくんと跳ね上がり、成司は阿古屋から慌てて目を逸らした。


「どうしたんスか?」

「あ――」


 練習後でも、何度か一緒に帰ってご飯を食べに行ったりした。あの事件以降、なるべく一人きりにはさせないようにと、阿古屋にはそう言ったが本音はまるで違う。


「あの……さ、」


 実は、成司はこのキャンプファイヤーの時間がやってくるのを今日一日ずっと待ち望んでいたのであった。


 しかも、良い具合に今は二人っきり。


 思わず後頭部がかゆくなって成司はばりばりと頭をかきむしる。すると、今度は首の方までかゆくなって、しまいには全身がなんだかむずがゆくなる。


 顔が火照っている。もちろん火のせいではない。全身から発汗するが、別に暑いわけではない。


 いける。俺超いける。


 このタイミングは、バッチリ!


 告白……出来るっ!


「あ、阿古屋。俺、俺」


 よし、いまだ! いっけーっ!


「俺さ、阿古屋のこと――」

「大好きッス。成司くん」


「そう! 俺、成司くんのことが――って、え?」


 ぽかんと阿古屋の顔を見る。


 あれ……あれれれ? 今、コイツなんて?


 そんな風に混乱する成司の顔を見て、阿古屋がぷっと吹き出した。


「……何スかぁ、成司くん。そんなバカみたいな顔しないでほしいっスよ」

「い、いやだって、あれ……お前今……」


「先に告白するだなんて許せないっスよ」


 火の明かりに照らされた阿古屋の顔に満面の笑みが宿る。


「許せるわけないじゃないっスか。だって自分の方がずっとずっと、それこそ成司くんがスズのことを好きになる、そのずーっっと前からスズは成司くんが大好きなんスから」


 口がパクパクする。

 そうしてようやく出た言葉は――


「……スズ?」

「はっっ!」


 阿古屋が慌てて自分の口を塞ぐ。


「お前……ホントは自分のこと『スズ』って言うのか?」

「ち……違うっス」


「ずっと『自分は~』とか言って、微妙に体育会系アピールっぽくしてたけど、そのくせ全然体力ないから不思議だったんだ。なるほどねー。『スズ』っていうのが恥ずかしかったからかー」

「い、言ってないッスよ!」


 阿古屋の顔が赤い。火の明かりのせいだけではないのだろう。


「隠すなって。別にそんなのちっとも恥ずかしくなんかないぞ」

「うう……でも子供っぽいじゃないっスか」


 いや、むしろそれがいいんではないか、と成司は心の中で思う。


「阿古屋……頭触ってもいいか?」

「え?」


 了承を得るまでもなく阿古屋の頭に優しく触れると、そのまま自分の方にぐいっと引き寄せる。


「うわっ!」


 きっと自分もヤバイくらい顔が赤いハズ……。


 そんな風に思いながら成司はもたれかかった阿古屋の頭を撫でて、一言ぽつりと呟く。


「俺と……付き合ってくれ」


 阿古屋の温もりを肩と胸のあたりで感じる。そう思った瞬間ふわりと、女の子のいい匂いが鼻孔をくすぐる。


「……とまぁ、こんな具合に強引に責めると良いって、この前立ち読みした雑誌に書いてあったんだが」

「……なぜわざわざネタバレするんスか。……ドキっとしたのが台無しっスよ」


 呆れ返る阿古屋の声が、すごく耳に馴染む。


 数ヶ月前からずっと聞き続けてきた声。それを、今までで一番近い距離で聞いている。


 独り占めだ。

 成司は今、阿古屋のことを自分が独り占めしている喜びを静かに噛みしめている。


 やがて、静かに阿古屋が口を開く。


「……じゃあ、あらためて今度は成司くんから“あの言葉”を聞きたいっス」


 成司はごくりと唾を飲み込むと、


「大好きだ……阿古屋」


 花火が打ち上がる。



 ※ ※ ※



「たーまーやーっ!」

「しーっ! ちさ姉、しーっ!」


「あ、ごめん。つい……」


 千佐都が月子に向かって申し訳なさそうに手を合わせると、悟司もキャンプファイヤーの火のところで並んで座っている成司と阿古屋の方を見た。


「あの二人うまくいったみたいだね」

「まぁ、誰の目から見てもああなることは確定済みだったからな」


 横にいた春日が腕組みしながらそう言った。


「でも、鈴ちゃんホントに良かったです……」


 月子がちょっぴり涙ぐむ姿を見ながら、悟司は思う。


 自分も、彼みたいにあんな度胸があればなぁ……。


 あんな風に頭を引き寄せるなんて、よほど自分に自信がなければ不可能だ。普段から内向がちな自分がやれることではない。


 さすがだな、と悟司は成司の後ろ姿を見てため息を漏らした。彼は、本当に自分にはない面をたくさん持っている。彼のあの行動力が羨ましかった。


 そんな風に、みんなが無言で幸せなカップルの誕生をぼんやり眺めていると、


「――みんな」


 背後からいつもの甲高い声がして、悟司は振り返った。


「小倉くん!」


 小倉はやはりいつもと変わらない様子で、とてもコソコソとここへやってきたようには到底思えなかった。


「本当に大丈夫なのかい。ボクが来ても」

「うん。会長は黙認してくれるって」


「会長が?」


 小倉は眼鏡を直しながら何事か考え込むように押し黙ったが、すぐに気を取り直したように悟司を見ると、


「ライブ、お疲れ様」


 と、いつもなら決して見せない柔和な笑顔で悟司にそう言った。

 そのことにちょっとした違和感を感じつつも、悟司は小倉に向かって空を指さす。


「さっき一発だけ花火が飛んだんだ。きっとすぐに二発目が――」


 最後まで言い切る間もなく、二発目があがる。


 三発、四発、五発。


「たーまーやーっ!」

「だからちさ姉、しーっ!」


「あはは今のはわざとね。ついついリア充の邪魔したくなるのさ」


 鬼だ、こいつ。


「ねぇねぇ。この後、私らで打ち上げしようよ」


 松前がぱたんと携帯を閉じて、悟司達に振りかえる。


「お、いーねいーねぇ。樹里、ナイス名案」


 ぱちぱち手を叩きながら千佐都が春日の方を向いて笑った。


「もちろん、かすがもやりたいでしょ? 打ーちー上ーげっ!」


「ふっ。無論だ」

「ふっ。無論だったか」


 そんな風に春日の真似をしてから、千佐都は悟司と小倉の方を向く。


「貴様らも無論なのか?」

「どんな聞き方だよ……行くよ。小倉くんは?」

「飲めなくてもいいならぜひ」


「いよっし! けってーい!」



 ※ ※ ※



 曲名:『words』&『come back!!』


「動画説明文

 お久しぶりです。シュガー・シュガー・シュガー(!)です。

 

 諸事情により、今回は二曲同時の動画公開です。

 それぞれ趣向が違う楽曲ですが、新しい試みに挑戦した意欲作(多分)ですので、

 ぜひ聴いてみてください。


『words』

 作詞:シュガ男

 作曲:シュガ男

 イラスト:シュガ子

 編曲:シュガ男

 動画:和三盆ちゃん(※レギュラー昇格オメw)


『come back!!』

 作詞:シュガ美&シュガ子

 作曲:雑用係のスクリーマーさん

 イラスト:シュガ子

 編曲:シュガ美&シュガ子&雑用係のスクリーマーさん

 動画:和三盆ちゃん」



 ※ ※ ※


 いくつもの愛が芽生え、そして交錯していく――


 織姫と彦星が出会う、そんなロマンチックな夜はこうして更けていったのであった。





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