ティー・ブレイクⅢ『Umbilical Cord Community』
2012年12月16日――悟司
「かんぱーいっ!」
千佐都のかけ声に合わせて、その場の全員が一斉にグラスをぶつけ合った。
本日、大学近くの居酒屋は貸し切り状態となっていた。スキー部の面々に加え、軽音サークル、漫画研究部、それにいちじく会の大学支部も加わって、とんでもない数の飲み会となってしまっていた(いちじく会は勝手についてきた)。
学園祭の打ち上げは以前にもやったはずなのだが、どうせならたくさんの人とめいっぱい騒ぎたいという部長同士の密約の元、こうして開かれることとなったらしい。
というのも、打ち上げの時にどうやらスキー部と漫画研究部の飲み場所がブッキングして、千佐都と月子の仲もあってか部長二人は意気投合してしまったそうで。
「しかし、なぜ俺までこの場所に呼ばれているのか……」
「ボクもだけどね」
横にいる小倉は、こんな場所でもゲーム機を持ち込んでいた。
「でも、大学の講義も一昨日で終了したわけだし、みんなが集まるには最適な日程だね。これ以上日にちを空けると、帰郷する人が出てくる」
「でしょ? あたしが選んだんだからねっ」
小倉と悟司の間を割り込むように千佐都が入ってきた。
「ちなみに、軽音ライブのメンツも呼ぼうって言ったのもあたしねっ」
「はいはい……」
ビールジョッキを片手に千佐都は嬉しそうに喋りまくる。そういえば、千佐都はもう未成年じゃないのかと、ついついどうでもいいことを思いだしてしまった。
「小倉君は、あたしの牛丼屋を手伝ってくれたから、部長がぜひってさ」
「コーラでいいなら、いつでも誘ってよ」
意外とノリノリな小倉を見て、悟司は目を白黒させる。
「オッケーっ! ねぇ、悟司もビール頼みなよビール。無礼講ってことでさー」
「酒は脳細胞を死滅させるからヤだ」
「うわ、素でこういうこと言う人ってホントにいるんだ」
大きなお世話だ。
千佐都も、それ以上無理に勧めることなくいそいそと場所を作って悟司の隣に座り込む。
「ねぇねぇ」
「ん?」
振りかえると、千佐都は頬をほんのり染めながら小さく笑った。
「たった数ヶ月のうちに……こんなにいっぱいの人と知り合いになっちゃったね」
その口調もあいまって、どことなく千佐都のことが色っぽく思えてしまった悟司は慌てて視線を逸らしながら言った。
「そうだね。なんか……不思議だ。俺、コミュ障なのにさ」
みんながみんな、揃いも揃ってわいわいとグラスを傾け合っていた。
そんな光景を二人で客観視しているのが、なんだか妙に滑稽に思えてしまった。
「ここが、今のあたしの“場所”。今のあんたの“場所”でもあるけど」
「うん」
「なんだか……すごくいい景色に見えませんかね?」
「そう……だね」
「悟司」
不意に名前を呼ばれて、振りかえると千佐都はにんまり笑いながらビールを顔の前まで近づけた。
「あたしたちだけで、こっそり別のかんぱいしよ?」
「別にいいけど、一体何に?」
「そうだなぁ……」
しばらく虚空を見つめるようにした後、千佐都はくすりと笑う。
「互いのファンのために」
その言葉に思わずぷっと吹き出す。
「いいよ、それで」
「じゃあ、かんぱいっ」
かちんっとグラス同士がぶつかり合う。
「二人で何をしてるんだ、何を」
顔を真っ赤にした春日が、どかっと座り込む。
「僕にもかんぱいさせろぉ。かしえだぁ」
「い、いくらなんでも早々に酔いすぎですよ先輩……」
春日からはアルコールの匂いがぷんぷんと漂っていた。
「あ、みんな」
月子がこちらに気付いて、小倉の間を強引に割って入ってきた。
千佐都の隣に並んだ月子の手にはウーロン茶が握りしめられている。
「鵜飼さんが今から演奏するらしいですよ」
「そういや、ちゃっかり来てたわね……あいつも」
本当に神出鬼没な人である。未開大生どころか、この町の人でもないのに。
今日は、なんとはるばる札幌から親の車まで借りて乗り込んできた。
一応飲み会が始まる前に、悟司へ一言「今日泊めて欲しい」と断ってはきたが、そもそも一体どこで今日の飲み会のことを聞きつけたんだろう。
鵜飼は、ライブでの一件もあり一部の間ではすっかり人気者と化している。
部長連中も顔パスで通しているところを見ると、噂だけでもかなり広がってしまったようだ。
「はいはーい、それじゃあ今から弾きますよー」
その言葉だけで大反響の声があがった。
すごい。すごすぎてもう何も言えない。
本当に、鵜飼は他人の気分を高揚させるのがうまい。
そうして、しばらくの拍手の後で、静まりかえる一瞬。
居酒屋の電源を借りて設置されたキーボードを、テーブルの上に置きながら鵜飼はそっと鍵盤に手を置いた。
そうして流れ出す、優しいピアノの音。
「これ……ピアノマンか」
「知ってんの? 悟司」
悟司が呟くと、千佐都が不思議そうに尋ねてきた。
「ああ、ビリージョエルって人の曲なんだけど――」
英語歌詞を完璧に覚えているのか、流暢に歌い上げる鵜飼。
誰もが、グラスを片手にその耽美なメロディへと耳を傾けていた。
曲名:Umbilical Cord Community
「動画説明文
早いもので、『シュガー・シュガー・シュガー(!)』の楽曲もはや三曲目です。
今回は動画師として、和三盆(注※新人)さんをお招きしました。
今回のテーマはずばり「コミュニティ」です。
人にはいろんな出会いや別れがあって、その中でまた、さらに大きな繋がりを生んでいきます。
全てがいい出会いであるとは限りません。その逆も然りです。
悪意に苛まれることもあれば、心のよりどころとなることもある。まだ人生の半分すらも経験してない我らシュガメンバーなのですが、メンバーなりに一生懸命そのことについて議論を交わしながら今回の曲を作り上げました。
ぜひ、一度聴いてみてください。
出来れば、あなたの大切な「コミュニティ」のみんなと。
作詞:シュガ美
作曲:シュガ男
イラスト:シュガ子
編曲やらその他雑用:(!)
動画:和三盆(※特別ゲスト)」
――今から約一ヶ月後。
そんな動画説明文とともにネットの片隅であげられた動画は、弘緒と月子が共同で作ったアニメーション動画の効果もあいまって、前作を遙かに上回る人気を博した。
この曲をきっかけに、『シュガー・シュガー・シュガー(!)』というユニットは、まさに飛躍的と言わんばかりの人気を獲得していく。
静かに幾億もの雪が降り積もる北海道の片田舎――
温かい仲間に笑顔を向けている、この頃の悟司にはまだ知る由もなかった。
――To be continued……




