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王太子との模擬戦に損害ゼロで勝ったら婚約を解消されました――領地に帰っただけなのに、なぜ王都が包囲されているのですか?  作者: 月白ふゆ


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11/11

最終話 半年使いましたので、直します

半年後。


王国代表会議の議場で、エルダーラ・レグランドは分厚い冊子を机へ置いた。


「半年、使ってみました」


どさり、と音がする。各領の代表者が、その厚みを見る。


「問題が出ました」


誰かが笑った。


「随分嬉しそうに言うな、議長」

「嬉しくはございません。ただ、問題が出ること自体は想定しておりましたので」

「どれくらい?」

「こちらに」


エルダーラが冊子へ手を置く。


オスヴァルト・ヴァルデック公爵が眉を上げた。


「全部か?」

「全部です」

「多いな」

「半年も使えば、これくらい出るでしょう」


王領代表席に座っていたルーヴァンが冊子を見る。


国王になって半年。それでも、この席では一代表だった。


「最初から完璧な制度を作るつもりはなかったからな」

「はい」


エルダーラは頷いた。


「ですから、本日は直します」


暫定憲章の期限は、明日まで。


今日の議題は一つ。半年間使った制度を、この先どうするか。


廃止するのか。そのまま使うのか。直して使うのか。


答えだけなら、ほぼ決まっていた。


誰も、以前の形へすべて戻そうとは言っていない。


問題は、どこをどう直すかだった。


最初に出たのは、代理人だった。


「グライゼン侯爵領代表、先月の第3回会議を欠席」


書記が記録を読む。


エーベルハルト・グライゼン侯爵が咳払いをした。


「熱を出した」

「存じております」

「71だぞ。熱くらい出す」

「年齢は関係ございません」


エルダーラは続ける。


「問題は、侯爵閣下が欠席なさった結果、グライゼン侯爵領の票が一つ消えたことです」


本人が来られない。だが、代理投票の規定がない。


そのため、一領だけ意思表示ができなかった。


「ですので、各領は正代表1名に加え、あらかじめ副代表を1名登録する」

「異論はない」

「正代表が出席できない場合、副代表が同じ権限を持って出席する。ただし、同時には投票できない」

「当然だな」

「さらに、当日の思いつきで代理人を差し替えることは禁止します」


ヴァルデック公爵が聞く。


「なぜだ?」

「採決直前に都合のよい人物を連れてくる家が出る可能性がございます」

「そこまでやるか?」

「やるかもしれないことは、先に塞いでおきます」

「誰を想定している?」

「どなたも」


エルダーラは微笑んだ。


何人かが目を逸らした。


次。


緊急動員権。


半年間で、一度だけ使われていた。


東の国境で武装した集団が越境し、国境警備隊と衝突した。後に隣国の盗賊団と判明したが、その時点では分からない。


ルーヴァンは国王として、王国軍の一部へ緊急出動を命じた。


3日で収束した。14日には遠く及ばない。


それ自体は問題なかった。


「ですが」


エルダーラは報告書を持ち上げる。


「わたくしたちが知ったのは、出動から2日後です」

「戦っていたからな」

「それは分かります。ですが、14日以内なら何も報告しなくてよい、とは憲章に書いておりません」

「報告期限も書いていない」

「ですから直します」


ルーヴァンは少し笑った。


「そう来ると思った」

「緊急動員を行った場合、王家は24時間以内に各領へ通知。理由、規模、行動地域を明記する」

「24時間か」

「無理ですか?」

「いや。できる」


軍務卿も頷く。


「実務上、問題ありません」

「では追加します」


グライゼン侯爵が手を上げた。


「戦っている最中に、全部正確に書けるのか」

「分からないことは、分からないと書けばよろしいでしょう。推測を事実のように書く方が危険です」


ルーヴァンが小さく頷いた。


半年前なら、その言葉を聞いて少し違う顔をしたかもしれない。


今は、普通に紙へ書き込んでいる。


次。


国王の再議要求。


エルダーラはルーヴァンを見る。


「陛下」

「何だ」

「半年間で4回」

「少ないだろう」

「誰も多いとは申しておりません」

「では何だ」

「全部、文章が長いです」


議場に笑いが起きた。


ルーヴァンが眉を寄せる。


「理由を書けと言ったのはお前だ」

「理由を書いてくださいとは申しました。17枚書いてくださいとは申しておりません」

「重要な案件だった」

「冬季備蓄庫の屋根材についてです」

「重要だろう」

「重要ですけれど!」


エルダーラは額を押さえた。


「要点を3項目以内にまとめてくださいませ」

「それは権限の制限ではなく、文章量の制限だろう」

「読み手の時間も有限です」

「反対だ」

「では採決します」

「待て」


また笑いが起きる。


結局、再議要求そのものは今まで通り。


ただし書式だけ統一することになった。


反対理由。

想定される問題。

代替案。


この3項目。


文字数制限は、ルーヴァンの強い反対により見送られた。


「次です」


エルダーラが紙をめくる。


「一領一票制」


少しだけ空気が変わった。


これは、最初から問題になると分かっていた。


レグランド侯爵領も一票。小さな男爵領も一票。


人口も税収も兵力も違う。それを本当に同じ一票としてよいのか。


半年間、何度も議論された。


人口に比例させる案。

税負担に比例させる案。

爵位ごとに票数を変える案。


どれも問題があった。


「現時点では、変更しないことを提案いたします」


エルダーラが言った。


アルヴェスト侯爵が聞く。


「理由は?」

「変更後の方がよい、と判断できるだけの材料がまだございません」


人口比例なら、大領が強くなる。


税負担比例なら、金を多く払う家が強くなる。


爵位比例なら、そもそも今回変えようとしたものを別の形で残すことになる。


「問題があるのは分かっております。ですが、問題がある制度を、もっと問題があるかもしれない制度へ急いで変える必要はございません」

「では?」

「もう一年、記録を取ります」


グライゼン侯爵が笑う。


「慎重になったな」

「最初から慎重です」

「3万人を前にしても?」

「それとこれは別です!」


ティナリアが傍聴席で吹き出した。


エルダーラが睨む。


「静粛に」

「まだ何も言ってない」

「顔がうるさいです」

「横暴だ!」


議場がまた笑った。


ほかにもあった。


議題提出の期限。

緊急案件の扱い。

議事録の公開範囲。

商人や都市代表から意見を聞く場合の手続き。

議長が議論を打ち切れる条件。

採決をやり直せる場合。


半年間、本当にいろいろ起きた。


それらを一つずつ。


これは残す。

これは変える。

これはまだ分からない。

これは次回へ。


分けていく。


昼を過ぎたころ。


エルダーラが最後の項目を見た。


「議長任期」


嬉しそうな声だった。


ティナリアがすぐ気づいた。


「帰る気だ」

「何のお話でしょう?」

「半年終わったから議長やめる気でしょ」

「任期満了です」


エルダーラは満面の笑みを浮かべた。


「半年間、誠心誠意務めさせていただきました。ですので次期議長を――」

「エルダーラ・レグランド侯爵を推薦する」


ヴァルデック公爵が言った。


「なぜですの!?」


即座だった。


「まだ何も決めてないぞ」

「今、推薦なさいましたでしょう!」

「した」

「取り消してくださいませ」

「嫌だ」


エルダーラが周囲を見る。


アルヴェスト侯爵も頷いている。


ローデンフェルト侯爵も。


グライゼン侯爵まで手を上げた。


「私も推薦する」

「侯爵閣下まで!」

「半年やった」

「だから交代を」

「慣れている」

「それでは永久に同じ人になりますでしょう!」


そこへルーヴァンが口を開いた。


「私は反対だ」


議場が少し静まった。


エルダーラが目を輝かせる。


「陛下」

「勘違いするな。お前が議長を続けることに反対なのではない」

「では?」

「同じ者を何期でも続けて選べる規定には反対だ」


エルダーラの顔が元へ戻る。


「……なるほど」

「権限を集中させないために作った役職だ。なら連続任期にも上限があった方がいい」

「その通りですわね」


少し考える。


「では、連続2期まで」

「妥当だと思う」


ヴァルデック公爵が言った。


「つまり今回は、もう1期できるな」

「公爵閣下?」


逃げ道が塞がった。


採決。


エルダーラ・レグランド。


再選。


反対1。


もちろん本人だった。


「また自分に反対してる!」


傍聴席からティナリアが叫ぶ。


「静粛に!」


半年経っても、そこだけは変わらなかった。


休憩に入った。


エルダーラは議長席を離れ、窓際で冷めた茶を飲んでいた。


「お疲れさまです」


横から新しい茶が差し出された。


「ありがとうございます、マティアス」


マティアス・ヴェスター。


ヴェスター伯爵家の次男、24歳。


軍事についてはほとんど分からない。剣も、一応貴族として習った程度。


その代わり、帳簿、物流、商会との契約、税収予測、在庫。


そういうものについては、エルダーラよりずっと詳しい。


この半年、ヴェスター伯爵家の代表補佐として何度か会議にも出ていた。


そして2か月前。


エルダーラ・レグランド侯爵との婚約が正式に発表された。


「次の資料です」


マティアスが数枚の紙を渡す。


「ヴェスター領とアルヴェスト領を通る西部交易量。前年同期との比較も入れました」

「早いですわね」

「数字だけなら」

「十分です」


エルダーラが紙へ目を落とす。


「……12%増」

「街道修繕が終われば、もう少し伸びるかと」

「では次回、修繕後の推計もお願いします」

「分かりました」


そこへルーヴァンが来た。


マティアスが一礼する。


「陛下」

「楽にしてくれ」


ルーヴァンは二人を見る。


「婚約、おめでとう」

「ありがとうございます」


エルダーラが答え、マティアスも頭を下げる。


「ありがとうございます」

「ヴェスター伯爵家の次男だったな」

「はい」

「商務が得意だと聞いた」

「軍事よりは」

「随分控えめな言い方をなさいますのね」


エルダーラが言う。


「わたくしより帳簿は遥かにお上手です」

「そこなのか?」


ルーヴァンが思わず聞いた。


エルダーラが眉を上げる。


「重要でしょう?」

「重要だが」

「わたくしは軍務と領政を見ます。マティアスは商務と財務に強い。分けた方が効率的です」

「結婚までそれなのか」

「何か問題が?」

「いや」


ルーヴァンは笑った。


「お前らしいと思っただけだ」


マティアスも少し笑っている。


エルダーラが今度はルーヴァンを見る。


「陛下こそ、ご婚約おめでとうございます」

「ああ。ありがとう」


新王ルーヴァンの婚約も、1か月前に発表されていた。


相手はフェルデン伯爵令嬢、アマリア・フェルデン。21歳。


国外で暮らした経験があり、3か国語を話す。外交と王宮内政に明るく、王太后が直接何度か話したうえで候補に上げた女性だった。


ただし、王家が選んだだけではない。


ルーヴァン自身が何度も話し、最後は本人へ直接申し込んだ。


「アマリア様は本日?」

「王宮だ。外国使節との昼餐に出ている」

「お忙しいですわね」

「本人が出たいと言った」

「よろしいのでは?」

「ああ」


ルーヴァンは少しだけ間を置く。


「昨日も意見が割れた」

「何について?」

「西国との通商条約」

「まあ」

「私は関税を少し下げてもよいと思った。彼女は急に下げれば国内の織物業へ影響が出ると言った」

「それで?」

「理由を聞いた」

「それから?」

「調べ直すことにした」


エルダーラが少し笑う。


「よろしいのでは?」

「以前のお前なら、もっと何か言っただろう」

「では、ずいぶんお考えになるようになりましたのね」

「もうそれはいい」


マティアスが口元を押さえた。


その日の会議が終わるころ。


アマリアもヴァルデック公爵邸へ到着した。


王宮での用事を終え、そのままルーヴァンと帰る予定らしい。


エルダーラとは何度か顔を合わせている。


「レグランド侯爵」

「アマリア様」


互いに礼をする。


アマリアは落ち着いた女性だった。華やかではあるが、前へ出ることを恐れない。


そして、必要なら国王相手にも普通に反対する。


「今日、緊急動員の通知期限を24時間に変更なさったと伺いました」

「はい」

「賛成です。ただし、外交上の緊急事態にも同じ通知制度が必要ではないでしょうか」


エルダーラが止まる。


ルーヴァンも止まった。


「例えば?」

「国境封鎖、外国船の拿捕、急な制裁措置。軍を動かさなくても、国内へ大きな影響が出る外交判断はございます」

「……確かに」


エルダーラはすぐ書記を探した。


もう帰っている。


「次回の議題にします」

「お仕事を増やしてしまいました?」

「増えました」


アマリアが少し申し訳なさそうな顔をする。


横でルーヴァンが言った。


「気にするな。こいつは問題を見つけると喜ぶ」

「喜びません!」

「さっき『問題が出ました』と言ったとき、少し嬉しそうだったぞ」

「出ると思っていた問題が、予想通り出ただけです!」


アマリアが笑った。


マティアスも笑う。


エルダーラだけが少し不満そうだった。


帰り際。


ルーヴァンとエルダーラは、玄関前で少しだけ並んだ。


それぞれの婚約者は、少し離れたところで馬車の準備を待っている。


「改めて」


ルーヴァンが言った。


「婚約、おめでとう」

「ありがとうございます。陛下も」


少しだけ沈黙する。


半年。


以前なら、こんなふうに互いの別の婚約を祝う日が来るとは思わなかった。


「……妙な気分ですか?」


エルダーラが聞いた。


ルーヴァンは少し考えた。


「そうなるかと思っていた」

「今は?」

「思ったより、普通だ」

「わたくしもです」


ルーヴァンが苦笑する。


「それはそれで、少し傷つくな」

「では訂正いたしましょうか?」

「いや」


首を振る。


「理解はできる」


エルダーラが吹き出した。


「便利な言葉になりましたわね」

「誰のせいだ」

「存じません」


少し笑った。


それだけだった。


過去が消えたわけではない。


婚約していた6年間も、婚約を解消された日も、王家に疑われたことも、謝罪を受け取ったことも。


全部残っている。


だからといって、同じ場所へ戻る必要はなかった。


「エルダーラ」


マティアスが呼ぶ。


「馬車の準備ができました」

「今参ります」


ルーヴァンの方にもアマリアが近づく。


「陛下。戻りましたら通商条約の資料を見ていただけます?」

「今日か?」

「明日に回します?」

「いや。見る」

「でしたら、馬車で概要だけ」

「休ませる気はないのか」

「国王陛下ですので」


ルーヴァンが天を仰ぐ。


エルダーラが笑った。


「よい方ですわね」

「……そうだな」


今度は、迷わず答えた。


その日の帰り道。


エルダーラは馬車の中で、向かいに座るマティアスへ尋ねた。


「先ほど、陛下とお話ししていて気になりませんでした?」

「何がです?」

「わたくしが、以前あの方の婚約者だったことです」


マティアスは少し考えた。


「気にならないと言えば嘘になります」

「まあ」

「ですが、過去まで消してほしいとは思いません。今、あなたが私との婚約を選んでいる。それで十分です」


エルダーラはしばらく黙った。


「……そういうところ、好きですわ」

「ありがとうございます。私は侯爵閣下にそう言われるたび、契約書へ一筆いただきたくなります」

「なぜですの?」

「後日、聞いていないと言われないために」

「わたくしを何だと思っておりますの」


二人で笑った。


同じころ、王都へ戻る馬車でも似たような話が出ていた。


「レグランド侯爵とお話しになると、楽しそうですね」


アマリアが言った。


ルーヴァンは少し身構えた。


「気になるか?」

「少しは」

「……すまない」

「謝るところではございません」


アマリアは窓の外を見る。


「6年も婚約していた方なのでしょう。何も残っていない方が不自然です」

「そういうものか」

「そういうものです。ただし」


視線だけを戻す。


「今後、わたくしとの約束を忘れてまで昔話をなさるのでしたら怒ります」

「それは当然だな」

「でしたら結構です」


ルーヴァンは笑った。


過去を消す必要はない。


ただ、これから隣にいる相手を間違えなければいい。


それぞれの馬車は、別々の道へ進んでいった。


それで誰かが負けたわけでもなかった。


昔の婚約が失敗だったから、今の婚約が正しいのでもない。


あの時にはあの時の選択があり、今には今の選択がある。


違うなら、違うまま進めばいい。


さらに数日後。


改訂された憲章の最終文書が完成した。


名前から「暫定」が消えた。


『王国国政協議憲章』


ただし、恒久不変とはどこにも書かなかった。


最後の条文には、こうある。


年に一度、制度運用上の問題を確認し、必要に応じて改定すること。


各領代表が順番に署名する。


ヴァルデック公爵。

グライゼン侯爵。

アルヴェスト侯爵。

ローデンフェルト侯爵。

そのほかの伯爵、子爵、男爵。


王領代表として、ルーヴァン。


最後に、議長エルダーラ・レグランド。


王璽を押す直前。


書記が声を上げた。


「お待ちください!」


全員が止まる。


エルダーラが見る。


「何でしょう」

「第17条第2項ですが、参照先が第12条となっておりますが、第13条ではないでしょうか」


沈黙。


何十人もの視線が文書へ落ちる。


確認する。


書記が正しかった。


ヴァルデック公爵が額を押さえる。


「最後の最後で」

「半年かけて直した文書だぞ」


誰かが言う。


グライゼン侯爵が笑い始めた。


ルーヴァンも苦笑する。


「どうする、議長」


エルダーラは誤記を見た。


それから、何でもないことのように答えた。


「直してくださいませ」

「署名をやり直しますか?」

「必要な箇所は」


書記が頷く。


ルーヴァンが聞いた。


「最初から間違っていていいのか?」

「よくはございません」


エルダーラは答える。


「ですが、見つけたのに直さない方が、もっといけませんでしょう?」


誰も反論しなかった。


訂正される。


確認される。


もう一度署名する。


今度こそ、王璽が押された。


完璧ではない。


半年後には、また別の問題が出るかもしれない。


そのときは、また話す。


分けて考える。

使えるものは使う。

必要なら、変える。


倒す必要のない相手は、倒さない。

壊す必要のないものは、壊さない。


そして。


間違えたら、直す。


エルダーラ・レグランドは、完成したばかりの憲章を閉じた。


「では」


次の議題書を手に取る。


ルーヴァンが嫌な顔をした。


「まだあるのか?」

「ございます」


エルダーラは当然のように答えた。


「国は、今日で終わりではございませんもの」

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


第1話の前書きで、


「悪役令嬢でアクションジャンル。

行けるのかなぁ?

とりあえず、やってみます。

始まります。」


と書いて始めた本作。


……行けたのでしょうか。


第1話では120対120の模擬戦をやって、第2話では一騎打ちまでしています。


ここまでは間違いなくアクションだったはずです。


それが気づけば領地経営をして、王家に疑われ、なぜか3万人が王都の外に集まり、兵站と物流が動き、商人が動き、人まで動き、最後には国の制度まで変わりました。


どうしてこうなった。


ただ、全部書き終えて振り返ってみると、エルダーラ本人がやっていることは、最初から最後まであまり変わっていなかった気がします。


相手が何を得意としているのかを見る。

何を守るべきなのかを決める。

絡まった問題は分ける。

倒す必要のない相手は倒さない。

壊す必要のないものは壊さない。

使えるものは使う。

そして、間違えたら直す。


第1話では、それを模擬戦でやりました。


最後は、それを国全体の問題でやっただけでした。


途中から政治改革ものになったように見えますが、考えてみれば最後までエルダーラの戦術の話だったのかもしれません。


王家も滅びませんでした。

王都も落ちませんでした。

諸侯も誰一人処刑されませんでした。


ルーヴァンも敗者として退場せず、いろいろ考えた末に王になりました。


そして新王と初代議長が最初に真面目に話し合うのは、王都西街道の修繕です。


さらに半年後。


作った制度には普通に問題が出ました。


なので直しました。


たぶん、そこまで含めてこの話なんだと思います。


完璧な制度を最初から作るのではなく、使ってみて、駄目なところが見つかったら直す。


国というものは、格好いい演説だけで動くのではなく、冬になっても道が通れて、食べ物が届いて、人が暮らせて、間違ったところをまた直して。


そうやって続いていくものなのでしょう。


なお、エルダーラ本人は、


王都を包囲するつもりも、

派閥を作るつもりも、

3万人を集めるつもりも、

議長になるつもりも、


一切ございませんでした。


半年経って議長を辞めるつもりではありました。


再選されました。


本当に迷惑ですね。


そしてルーヴァン。


最初は「自分が中心であるべき」と考えていた彼も、最後には、


「納得はしていない。でも理解はできる」


ところまで来ました。


そこまで来たなら、たぶん王としても何とかやっていけるでしょう。


ただし復縁は別です。


そこは別です。


謝罪を受け取ることと、関係を元へ戻すことも別。


エルダーラにはエルダーラの人生があります。


そしてルーヴァンにも、ルーヴァンの人生があります。


半年後には、2人ともそれぞれ別の相手と婚約しました。


昔婚約していたことも。

傷つけたことも。

謝ったことも。

許せるところと、戻せないところがあることも。


全部なかったことにはしません。


そのうえで、別の場所へ進みました。


それでいいのだと思います。


そんなわけで。


「悪役令嬢でアクションジャンル。

行けるのかなぁ?」


から始まった本作。


アクションだったのかと聞かれると、途中からかなり怪しい気もしますが。


少なくとも、


「損害を出さずに勝つ女の戦い」


では、最後まであったと思います。


そして勝って終わりではなく。


その後、問題が出たら直していく。


そんなところまで含めて、エルダーラ・レグランドの戦い方でした。


最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

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