3話
兄弟たちが門をくぐると,そこは白く薄暗い部屋であった。
前には門の前に置かれた石碑と何かの壁が見える。
ライナスは手元のペンダントを光らせ、石碑を読み始める。
これを読む次の世代よ
私たちはした
どうか君たちがことを願う
文章を最後まで読み終えた直後,小さな地響きとホラ貝のような音が石碑の後ろで鳴る。
そこに現れたのは壁一面に古代文字と絵が記された巨大な石碑だった。
絵には
/巨大な蛇の足を持つ大きい生き物が横たわる絵/宇宙船のようなものにまたがる後頭部が下に伸びる人型の巨人/蛇,巨人,魚,小人が書かれた進化設計図のようなもの
「何なんだこれ・・・」
「私も何が何だか・・・」
突然現れた石碑に困惑する2人だが、さらにホラ貝のような音が鳴り、振動が起きた
今度は自分たちの乗るTRの内部からだった。
「大変、内部のコアパッケージが開いてる!」
二人が乗るTRは失踪した父親から受け継いだものだ。
その中には二人が開けられない場所があり、それが内部のコアパッケージだった。
突然開いたコアパッケージに驚きながら、パッケージに何かが入っているのが見えた。
「これは制御基板?」
どうやらTRに直接つながっているようで、ライナスは基盤を見ながらそれに触れる。
「あれ……?」
制御基板の奥、普段は見ることのない深い部分に、見慣れない配線パターンがあった。
「エルマ、ちょっと照明を」
エルマが持つ作業灯の光が、回路の奥を照らし出す。
そこには、今の技術では説明のつかない、異常に精密で複雑な回路パターンが刻まれていた。まるで芸術品のような美しさで、それでいて明らかに機能的な設計で、二人が乗るTRとは明らかに異質な基盤。
「これは……親父の設計じゃない」
ライナスの父親は優秀な技術者だったが、この精密さは現在の技術レベルを遥かに超えている。彼は急いでTRの製造記録を端末で確認した。
「製造年月日は五年前。設計者は……親父の名前になってるが」
「お兄ちゃん、これ見て」
エルマが指差したのは、回路基板の端に刻まれた小さな記号だった。複雑な幾何学模様で、どこか古代文字のような印象を受ける。
「これって、お兄ちゃんの持ってる古文書とパパの作業場にあった設計図の端に書いてあったマークと似てない?」
ライナスは息を呑み、持っている古文書を取り出して比較する。マークは完全に一致していた。
そして父が残していった設計図。普段は触れることを避けていたが、今なら確認する理由がある。
二人は巨大な石碑を記録に収め、TRを軽く点検するとすぐに門をくぐり、遺跡を脱出した。
その後二人は急いで住居区画の自分たちの部屋に戻った。壁に埋め込まれた収納庫の奥から、父の残した設計図の束を取り出す。古い紙の匂いと、かすかにインクの香りが漂った。
「あった! これだよ」
エルマが見つけたのは、複雑な機械設計図だった。そこに描かれているのは、現在のTRよりも遥かに高性能な採掘ロボットの設計。そして図面の隅に、先ほど見た記号と同じマークが刻まれている。
「これは……」ライナスは設計図を詳細に検討した。「現代技術では実現不可能な機構が描かれてる。動力効率が現行機の三倍以上、採掘能力は五倍……」
「でも、パパがこんな技術を持ってたなら、どうして普通のTRを作ったの?」
「分からない」ライナスは設計図を見詰めながら呟いた。「だが、この技術があれば……」
設計図の最後のページに、彼は重要な記述を見つけた。「上層部アクセス用特殊機構」という文字と共に、壁の構造図が描かれている。現在の住民が知る壁の構造とは明らかに異なる、より複雑で立体的な内部構造。
そして、それは二人が遺跡で見た壁画の地図とそっくりだった。
「これは、地上への道を示しているのか?」
エルマが身を乗り出した。「本当に? 地上は本当にあったってこと?」
「可能性はある」ライナスは興奮を抑えながら答えた。「だが、この技術を理解し、実現するには……」
彼は設計図を見詰めながら考え込んだ。父は何を知っていたのか。なぜこの技術を隠していたのか。そして、なぜ今になってTRを通じて、この秘密が明らかになったのか。
「お兄ちゃん」エルマが不安そうに声をかけた。「これって、私たちだけで何とかできるの?」
ライナスは妹の顔を見た。彼女の瞳に映る期待と不安。自分一人でも何とかできる、と言いたかったが、設計図の複雑さを前にして、その言葉は喉に詰まった。
「まずは、この技術を理解することから始めよう」彼は慎重に答えた。「必要なら、信頼できる技術者の助けも借りるかもしれない」
エルマの表情が明るくなった。「それなら、技術区画のフレアさんを頼ろうよ。あの人こういうの目がないでしょ?」
「フレア……」ライナスはその名前を聞いたことがあった。地底でも屈指の技術者として知られている女性で、二人もよく世話になっていた。
夜が更けていく中、二人は設計図を前に話し合い続けた。地上への希望が、初めて具体的な形を持って現れた瞬間だった。
だが、設計図の最後のページに記された警告文に、ライナスはまだ気づいていなかった。「この技術は危険を伴う。使用者は十分な注意を――」
その文字は、長年の保管で薄れ、判読困難になっていた。
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翌朝、地底の人工太陽が薄明かりを投げかける頃、二人は技術区画と呼ばれる場所を目指してTR専用通路を走行していた。ライナスは設計図を慎重に筒状のケースに収め、エルマは大きなゴーグルを額に上げ、作業灯の電池残量を確認している。
「フレアさんのところに行くの楽しみだなー」エルマが振り返った。「あの人の売ってくれるもの面白いのが多いし」
「それで散財して怒ったの覚えてるからな」
「うっ……今日は気を付けます…」
「技術力は確かなのは確かだけどな」ライナスは端末でフレアの工房の位置を確認した。「それに、この設計図を理解できる人は限られている」
技術区画への道は壁の内部に掘削された通路を進む。TRが十分通れるように整備された通路をTRの駆動音が反響して響く。金属を叩く音。エンジンの唸り。そして時折聞こえる爆発音。
「…んー、ねぇお兄ちゃん、なんかTR変な感じじゃない?」
「そうか?朝に点検してデータもとったが特に何もなかっただろ」
「うーん…でもなんか違うんだよねぇ…」
「故障か?気になるなら一緒にフレアさんに見せようか、コアパッケージも見せたいしな」
数十分運転し技術区画に到着した。乱立する工房群が眼前に広がる。
この区画はほかの区画と比べて窮屈さが目立ち、空いている隙間に無理やり建物が入っているような感覚を覚える。
様々な工房品が並び、その品質は玉石混交。
一握りの宝物と信頼できる技術屋を見つけるため、ここには多くの壁堀り人と客がやってくる。
「うわあ、すごい匂い」エルマが鼻をつまんだ。「機械油と……これ、焦げた電線?」
「また雰囲気が変わったなここ」ライナスは端末の地図を見ながら歩いた。「確か『フレア・テック・ソリューションズ』という看板が――」
「あった!」エルマが指差した。
看板は確かにあったが、半分が黒焦げになっていた。工房の入り口からは白い煙がもくもくと立ち上っている。
「……爆発したのか?」
「フレアさん、大丈夫かな」
二人が躊躇していると、工房の奥から女性の声が響いた。
「ちくしょう! また回路がショートしたじゃない! この管理局製のコンデンサー、品質管理がなってないのよ!」
続いて、何かが壁に叩きつけられる音。ガシャン!
「……元気そうだな」ライナスが苦笑した。
工房の扉をノックすると、足音が近づいてきた。扉が勢いよく開かれ、白髪のショートカットに大きな帽子をかぶった女性が現れた。顔には煤が付き、機械の腕輪が火花を散らしている。
「何の用? 今忙しいんだけど」
「お久しぶりです、フレアさん!エルマです!」
フレアは二人を見回した。「あらぁ!ライナスとエルマ、久しぶりだねぇ。噂は聞いてるよぉ、採掘区画の若きエース兄妹!ごめんねぇお見苦し所見せちゃって、今日は何の用で?」
矢継ぎ早に話すのは『フレア・テック・ソリューションズ』の店長「フレア」
白髪のショート、長身でスリムな体形をしており、海賊帽子のような大きい帽子と機械の腕輪が特徴的な女性である。
「実は相談が」ライナスは設計図のケースを見せた。「古い技術文書の解読をお願いしたくて」
フレアの目が鋭くなった。「技術文書? どこで手に入れたの?」
「親父のものです」
「……とりあえず中に入って。煙は換気すれば消えるし」
工房の内部は、想像より広く、壁一面に工具が整然と並び、作業台には分解されたロボットの部品が散乱している。天井からは複数のアームが垂れ下がり、精密作業用のレンズが光を反射していた。まるで巨大なクモが獲物を狙っているようだった。
「やっぱ凄いなぁここ……」エルマが目を輝かせた。「ここ以外でこんな設備、見たことない」
「当然よ。管理局の研究所並みの機材を個人で揃えてるんだから」フレアは誇らしげに胸を張った。「で、その文書を見せて」
ライナスが設計図を取り出すと、フレアの表情が一変した。
「これは……もしかして」
彼女は設計図を作業台に広げ、拡大レンズを当てて詳細を調べ始めた。数分間の沈黙。フレアは深いため息をついた。
「信じられない。この制御回路の設計、現在の技術レベルを少なくとも五十年は先行してるわ」
「やはり、古代の技術ですか?」
「古代どころか、これは……」フレアは言いかけて口を閉じた。「とにかく、この設計を実現するには特殊な素材と高度な加工技術が必要。それに」
彼女は設計図の一部を指差した。「この部品、管理局の機密技術に酷似してるの。なぜ君の父親がこんなものを」
「父は普通の採掘技術者でした」ライナスが答えた。「でも、失踪する前に何かを調べていたようで」 (編集済)2026年5月21日 木曜日 10:19
[23:16]2026年5月20日 水曜日 23:16
フレアは腕を組んで考え込んだ。「この設計図、実現可能よ。ただし、相当な費用がかかるけど」
「費用?」
「素材費、加工費、設備使用料、そして私の技術料」フレアの目が金貨の形に光った。キラーン!「全部で……そうね、500万クレジット」
「500万!?」エルマが驚いた。「そんなお金、私たちには」
(500万って、壁堀り人の年収をはるかに超えるじゃないか!)ライナスの心の中でツッコミが炸裂した。
ちなみに壁堀り人はTRの整備代を考えても高給取りの職業である、特に貴重な鉱石を採掘できる坑道を発見できれば億万長者も夢ではない、それを考えても異常な値段であった。
「まあ、分割払いでもいいけど」フレアは肩をすくめた。「それより、なんでこの技術を実現したいの? 単なる好奇心?それとも一攫千金?確かにこれ使えば今より何倍も稼げそうだけど」
ライナスとエルマは顔を見合わせた。地上への希望を他人に話すのは、まだ早すぎるかもしれない。
「親父の意志を継ぎたいんです」ライナスが慎重に答えた。「親父が何を目指していたのか、知りたくて」
フレアは設計図を見つめながら頷いた。「わかった。とりあえず、この回路の基本部分だけでも組んでみましょう」
「本当ですか?」
「ただし」フレアが人差し指を立てた。「材料費は前払い。それと、作業中に何が起きても責任は負わないわ。この技術、かなり危険な可能性があるから」
「わかりました、それとフレアさん、TRの制御データも見てください、前と比べてなんか変になってて」
「TRが? どんな感じ?」
エルマがTRの制御データを見せると、フレアは興味深そうに聞いていた。
「振動パターンが変化してるね。実機を見せて」
二人は工房の外に置いたTRを運び込んだ。フレアは慣れた手つきで外装を外し、内部回路とコアパッケージを調べ始めた。
「これは……」
突然、フレアの手が止まった。TRの制御基板に組み込まれた回路を見つめている。
「この回路パターンと振動パターン……設計図の図面とは違うけど機構はほとんど同じね、回路をつなげればそのまま機構を動かせるわ」
ただ起動するだけだから500万クレジットは取れないわねぇとフレアは笑っていたが、ライナスとエルマは息を呑んだ。
「親父はTRにこの機構をずっと入れていたのか?だったらなんで親父は…」
その時、エルマが小さな声でつぶやいた。「あの振動パターン、もしかして……」
「どうした?」ライナスが振り返った。
「ううん、なんでもない」エルマは首を振ったが、その目は確信に満ちていた。
彼女は昨夜から感じていた違和感の正体を、ようやく理解していた。TRの振動は単なる故障ではなく、古代回路が遺跡のあの音に反応していたのだ。そして、その反応パターンには規則性がある。まるで言葉のように。
だが、それを兄に言うべきか迷っていた。自分の直感を信じていいのだろうか。
フレアが立ち上がった。「とりあえず、TRの修理は今日中にできるわ。設計図の解析には時間がかかるけど」
「ありがとうございます」ライナスが頭を下げた。
「お礼はまだ早いわよ」フレアが不敵に笑った。「この技術、実現すれば地底の常識を覆すかもしれない。それに_」
彼女は設計図の最後のページを見つめた。薄れた文字の中に、かろうじて読める一行があった。
「『アクセス用特殊機構』……これって、まさか管理局の」




