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2話


翌日 

壁面 ロープウェイ“スパイダーエッジ”最頂部、高度7,500メートル。


この日は風圧が強く、壁に刺しているTRの脚が少し軋む音を立てている。


ゴムベルトと特製アンカーで壁肌を這うように移動する。


いつものように依頼を受けて壁を登っては坑道を作り、鉱石を掘り出していた時だった。

壁そのものが振動し始めた。


「この揺れは…大物だ、準備しろ!」


数秒程揺れた後、壁の中から黒い脈動する何かが飛び出してきた。

それは甲殻に包まれたカブトムシのような姿をしていた。

体は黒く所々にオレンジ色の脈動する血管のようなものが体全身に奔っている。

大きさは10メートルを超えており、光を移さないオレンジ色の目をライナスとエルマの乗るTRに向けているように見えた。

”イノシシ”と呼ばれる大型のアビスである。


「突進タイプだ、下に緊急跳躍!」

「了解!」


ライナスはエルマにそう指示しながら複座から”ショック・ハンマー”の準備を進める。

この装備はTRに備えられた緊急用装備であり、小型に分類されるライナス達のTRが大型に遭遇した際に使う対抗策である。

チャージ式の散弾砲で当たれば大型に多大な損傷を与えられるが、装填とチャージに準備がかかり、また有効射程は5メートルと非常に短く接近して打たなければならない。


兄妹を乗せるTRはアンカーを立てて一気に壁を下に下り、”イノシシ”から距離をとりつつチャージを進める。


「チャージは問題ないな、完了次第一気に距離を詰めて…」

「待って、兄ちゃん!」


放つ刹那、エルマが叫んだ。


「あいつもうこっちに突進してきてる!」

「早い個体だったか、横に跳べ!」


イノシシという個体の特徴は二つ。黒いカブトムシのような甲殻と岩壁を高速で突進する足だ。

他のアビスは自身が取り込みやすい柔らかい肉や木が多いのに対し、ゼブブは逆に硬い岩を取り込んで外骨格としている。

それにより完璧との親和性が高まり,「焼結」と呼ばれる岩と岩の結合を瞬時に行えるようになった。

若い個体ほど岩の焼結が甘く、動きが緩慢だが、時間をかけた個体は焼結時間が短くなり動きが俊敏になっていく。

兄妹たちが遭遇したイノシシはその中でも特に成長した個体であった。

飛び出して獲物を補足した瞬間に突進できるほどに。

間一髪でよけた兄弟のTRだが、すぐにイノシシは突進体制に入る。


「緊急跳躍はリチャージ中だ、ショックハンマーのチャージはどれくらいだ?」

「あともう少しだけど…先にあいつが突進してくる方が早いよ」

「くそっ、どうするか、最悪脚を犠牲にしてでも…」

「…!ねぇ、スピンライナーって充電残ってる?」

「あるが…掘る時間は…」

「こんな時のために用意してる機能があるの!」


エルマはライナスからスピンライナーを受け取り、操作パネルを動かし、”出力最大””5×5”を指定し、TR下部に取り付けて起動する。

瞬間、まばゆい光が下で見えたと思うと、足を収納すればTRが全て入れるほどの穴が開いていた。


「これでイノシシの突進を回避しよう!」

「…それはわかったし助かったけど、後で説教な」

「なして!?」

「仕事道具を勝手に改造」

「そ、それは…ご、ごめん、手が滑って」


しどろもどろなエルマの様子に呆れた様子なライナスだったが、イノシシは突進準備を終えてTRに向かって突進してきていた。

イノシシの突進がTRにぶつかる前にTRの足をたたみ、イノシシの突進を回避したころにはショックハンマーのチャージも完了していた。

イノシシの突進は早いが、成長した個体でも突進後の方向転換には時間がかかる。

穴から脱出したTRが跳躍して距離を詰め,そのままショックハンマーをイノシシにたたきつけた。

ハンマーは硬い岩の外骨格をものともせず、中枢を貫きイノシシを完全に沈黙させた。 「…ん?なんだ?何か光が…?」


ライナスはイノシシが飛び出した穴の内側の壁から光が差し込んでいるのを見つけた。

気になったライナスは手持ちのドリルで穴を広げることにした。


「…!これは…」

「兄ちゃんどうしたの?」

「エルマ…ここは何だと思う?」

「え…!?これって…遺跡?」


そこには壁の中とは思えない光景が広がっていた。

半分以上が岩砂に埋もれているが明らかに人工物を思われる白色の城のような建物。

そして、建物の前には欠けた石碑がある。

古代遺跡自体はこれまでも兄弟は発見しているがそのほとんどは武器の破片や建造物は小屋のようなものでしかも朽ち果てて何も無いことが常だった。

兄妹は戸惑う。

とりあえず探索しようと歩き出す。


「…!これは…!?」

石碑の前にたどり着いたライナスが”それ”を見つけた瞬間走り出した。

”それ”は古代文明の壁画だった

かすれているが「輪郭を持った水平な大陸」と「大陸をつなぐ複数の門」が描かれていた。


兄妹はついに発見したのだ_古代文明が存在していた明確な証拠を。

石碑には《Gate: Aetheris》の記号が刻まれていた。


「ってことはこの先に!」

「あっ、待ってよ兄ちゃん!」


エルマの返事を待たずにライナスは遺跡に駆け出す。

その先に父の持っていた答えがあると信じて。


崩落した遺跡の中には、不自然なほどきれいに形を保つ”門”が鎮座していた。

大きさは10メートルほどでTRが一台入れる大きさのようだ。


「これが”門”…」


ライナスはそのまま門に触れようとする。

突如ライナスの胸元のペンダントが輝く。同時に洞窟が、いや壁そのものが振動し始めた。


「なんだ,突然光って…これは地震?いや地震じゃない……何かが“呼んでいる”!」


”門”から虹色の霧が噴出した。

幸い害はないようだったが、門に変化があった。

渦巻きのような文様が門の内側を漂う。

ペンダントはまだ光り輝いている。


「これは…どうすれば」

「…パパはここを通ったのかもしれないよ」


ライナスに追いついたエルマはそうつぶやく。

ライナスがエルマに目をやるとエルマの耳につけているイヤリングもまた光り輝いている。


「親父がここを通ったって?」

「私、パパの遺していったデータを直してたの、そしたらさこう言ってたんだ『これがアトリスの門か』だって。」

「…!」


『このペンダント/イヤリングと門が親父/パパの手がかり…!』

兄妹は互いを見つめ、頷いた。


「行くぞ、“門”の先へ」

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