対の神(後編)
「家庭に根付く信仰が厄介なのですか?」
マリーからの問いに大岡は「そうだ」と答える。彼女のためにも、ここからの話はしっかりと、相手に伝えないといけない。今回の話の中でも大事なところだ。
「オシラサマってのは家の中で祀ることで、その家に益をもたらすと言われているんだ。その益がどんなものかは諸説あるけど、農耕だとか病気に関係するって話を聞くな。おそらくは、このオシラサマも、そのような益を与えてくれる」
「なるほど?」
「マリーも畑を耕したり、病気を防ぎたいってのなら、この対の神を信仰しても良いかもしれないな」
「ふむ……病気に対する耐性を持てるというのは、私にとっても悪い話ではありませんわね」
・どの程度の病気を防げるかにもよるけど便利そう
・うち農家だからオシラサマ祀りたいかもしれない
・呪物だから良い話ばかりではないんだろうな……
・メリットの話に諸説あるってのが怖いな
・畑を耕すマリー様は想像できないw
「ただ……呪物である以上、メリットとデメリットは両方存在するんだ。ここからは、デメリットの話をしていくぞ」
「呪物を扱う上では、そこが特に大事な話ですわね」
「ああ。大事な話だから、しっかり聞いてくれよな」
大岡は真剣に、それでいて場の空気を重くしすぎないように気をつけて話す。これは、鑑定の仕事であると同時に配信というエンタメなのだ。そう意識するのは結構難しい。というか、なかなか慣れない。こういう感覚は配信を繰り返して、ものにしていくしかないだろう。
「何度も言うけど、オシラサマの信仰はそれを祀る家に根付くんだ。その家系に根付くと言っても良い。つまり……一度オシラサマを祀り始めたのなら、その信仰は末代まで続けなければならない」
「末代まで……私の家系の終わりまで、ですか?」
「そうだぞー。だから、オシラサマを軽い気持ちで祀ろうなんて思わないことだぞ。信仰するならば、その人だけでなく、末代の人間にまで責任が生じる。それが、オシラサマを祀るということなんだ」
・とんでもないデメリットで草も生えない
・子孫にまで責任が生じるタイプの呪物かー
・うち農家だけどオシラサマを祀るのは一考するわ
・信仰を止めないことがルールの呪物なんだね
・デメリットがかなり大きい分、得られるメリットは大きいんだろうか
「……ちょっとコメントを拾うけど、呪物はメリットが大きければデメリットも大きい……とは限らないんだ。メリットが小さくてデメリットが大きい呪物はあるし、その逆も存在するぞ。大抵の呪物は面倒なルールを持っているものだがな」
「だからこそ、鑑定士の存在が探索者にとって重要ということになりますわね」
「マリー。褒めたって何もでないぜ……けど、ありがとう」
「ふふ、こちらこそ。いつも感謝してますわ」
・あら^~
・二人の中がとっても良いですわね
・友情!
・キマシタワー
・そうか、メリットとデメリットのバランスは呪物によった異なるのか
「……それで、デメリットの話に戻るんだけど、良いかな?」
「よろしくてよ」
「オシラサマの前では肉や卵を食べてはいけない。片方が馬の神様だからかな? とにかくオシラサマの前では肉や魚を食べるのはダメだぞ。面倒なことになる」
「面倒なことについて、詳しく訪ねても?」
「簡単に説明すると、顔が変形する。他には視力を失うとかいう話もあったかな。だから、マリーたちはダンジョンで肉や卵を食べてなくてセーフだったぞ」
「……後から知る、恐ろしい事実ですわね」
呪物を発見し、持ち帰る道中でなんらかのタブーに触れてしまった探索者の話を大岡は聞いたことがある。だから今回もマリーが無事にダンジョンから戻ってきたことに安堵している。
「……さて、マリー。オシラサマは一旦マリーの元へ送り返すけど、これどうする?」
「どうしましょうか。肉や卵を食べず、祀っていなければ、力が働くことは無いのですよね?」
「呪物と、その物語についての知識には自信がある。未確認の呪物といえども、逸話を知っていればタブーに触れることはないはずだ。だから私の知識を信用してほしい」
「もちろん、マニアさんのことは信用していますわ」
今回の鑑定も無事に終わった。とりあえずオシラサマに布を巻きなおしておこう。大岡は丁寧ながらも素早く手を動かす。呪物を元の状態に戻し、それをケースに戻した。危険物の取り扱いには、いつもヒヤヒヤするし、終わったら安心する。
「ちょっと……一息つかせてくれ」
「お疲れさまです。マニアさん」
ふぅ、と息を吐く大岡に「ところで……」とマリーが言う。なんだろうかと思う大岡に、マリーはいつもと変わらない口調で、その情報を伝えた。
「最近、ダンジョンの深層にて新たなルートが発見されたのはご存知かしら? これから、そこで多くの呪物が発見されることが予想されますわ」
「それはつまり……マリーも私も忙しくなるってことかな?」
大岡の返事にマリーは頷いた。それは、大変そうだなあと、大岡は疲れた頭で考えていた。
「ええ。マニアさんの配信、これからもっと忙しくなっていくと思いますわ」




