対の神(中編)
「マニアさん、他に聞きたいことはありまして?」
「もちろん、あるぞー」
マリーと大岡の鑑定は続く。その中で、確認しておかなければならないことがある。呪物の正体を当てるために。そしてなにより、大岡たち自身の安全のために。ここがダンジョンでないとしても、呪物の扱いを誤れば、最悪命を落とす。だから大岡は気を緩めずに、鑑定にのぞんでいる。
「マリー、これは特に重要な確認だ」
大岡の言葉を聞き、マリーの手に力が入る。緊張しつつ、大岡は質問した。
「……マリーは、この呪物を祀ってはいないよな?
神棚に配置したり、してないよな?」
「ええ、祀ったりしていません。私は、この呪物を発見してすぐケースにしまい、そのままの状態で、探索者協会を経由し、あなたの場所まで届いたはずですわ」
「……ありがとう。ひとまず、聴取は終わりだぞ。後はマニアちゃんに任せてくれ」
「ええ、お任せしますわ」
マリーからの信頼が大岡に伝わってくる。それが、大岡にはとても嬉しい。肩に力が入るものの、ここから先の仕事には繊細さも必要だ。
大岡は深呼吸し、机に置かれていた呪物に手を伸ばした。美しい生地に巻かれたそれを持って、手の感触のみで中身を推測する。それは決して簡単とはいえない。大岡も緊張していた。推測を、外したらどうしよう……いつも、そんな不安が頭をよぎる。
「たぶんだけど、布の中には木材でできた何かが入っている。細長いものだ……その先端が、特徴的な形をしているな……馬の頭みたいだ」
・今回の鑑定は、医者の触診みたいだ
・馬の頭?
・触っただけで良く分かるね
・さあ、当たるかどうか
・これって、そのまま布をほどいたら危ないのかな?
「……ふう、緊張するぞ」
大岡は一度呪物から手を離した。リスナーたちからのコメントに目を通す。今、手で呪物を調べて、正体は、ほぼ確定した……と思う。未確認の呪物だとしても、その正体を当てる自信はある。
大岡の推測が正しければ、この布を剥がしても、大丈夫なはずだ。この呪物から布を剥がすことは、タブーではないし、祀っていないのならば、その力が発揮されることはない。そんな呪物の正体は。
「……オシラサマ」
「おしらさま?」
聞き返すマリーに大岡は頷いた。この呪物の正体は、東北地方に伝わる神の木像で間違いないはず。
「大丈夫だと思うから、布を剥いでいくぞ。正体を確定させるためには、そうするしかないし。良いよな? マリー」
「呪物の鑑定に関しては、全て大岡さんに一任していますわ」
「おう……じゃあ、やるぜ」
正体を確かめるため、大岡は呪物から布を剥がしていく。まるでミイラの包帯を剥いでいるみたいだ。次の瞬間にも、それが襲いかかってくるのではないかと嫌な想像が働いた。
呪物が大岡に襲いかかってくる……なんてことはなかった。布の一部が剥がれ、あらわになったそれは、馬の頭を持つ木像だった。
もうひとつの木像も同じように、手で調べた後、布を剥ぐ。そうすると、今度は人の女の頭を持つ木像だと判明した。
木像からは、ほんのりと控えめで落ち着いた香りがする。おそらく、桑の木なのだろう。これだけの情報が揃えば、正体は確定したと言って良い。
「……こいつの正体はオシラサマだ。とりあえず、今このままにしていても、私へ、ただちに害が起きたりすることは無いよ」
「なるほど……それは、どういった呪物ですの?」
・オシラサマ?
・聞いたことない
・日本の神様?
・人馬一対なの?
・マニアちゃんの解説に期待
「……じゃ、まずはオシラサマにまつわるストーリーを語ろうか。簡単にね」
マリーやリスナーたちからの注目が集まっているようで大岡は、さっきまでとは違う種類の緊張感を覚えていた。でも、こっちの緊張感は望ましいものだ。
「コメントにもあったようにオシラサマは人馬一対の神様だ。昔、あるところに恋仲の娘と馬とが居た。けれど、娘の親は、人と馬の恋を良く思わなかった。だから、その親は怒りに任せて馬を殺してしまった。首を跳ねたんだ」
「悲劇ですわね」
「ああ、悲劇だ。そして、その時不思議なことが起こった。跳ねられた馬の首が動きだし、娘をさらってしまう。そんな物語をルーツに持つのが、オシラサマという呪物なんだぞー」
「なるほど」
・恋の悲劇はどこの地域にも伝わるよなー
・対の像を祀ることで力を発揮するタイプの呪物?
・これ、祀るとどうなるんだ?
・やっぱ、メリットとデメリットがあるのかな
・人と馬の恋かあ……
マリーの相槌やリスナーたちからの反応があって、大岡の説明に熱が入る。やっぱり自分は、この分野が好きなのだなあと、大岡は感じていた。
「まあ、そういう話があって……東北、他にもいくつかの地域で、オシラサマは信仰されているんだな。興味深いのは、これらの信仰は土地に根付いたものというより、家庭に根付いたものだということ」
「家庭に?」
「そう、オシラサマの信仰は家庭に根付く。それがこの呪物の興味深いところであり、そして厄介なところなんだぞ」




