猫の呪い(4)
なんとしても猫の呪いによる問題を解決しなければならない。そう考えて大岡は再びマリーと相対した。意外にも、マリーの方から「二人きりで話がしたい」という言葉が出て、メイドたちは部屋を出た。彼女たちに面倒な説明の必要が無いのであれば大岡にとっても都合が良い。座ったままのマリーを見下ろしながら、大岡は言う。
「……暴力が禁止されているのは、マリーに対してだけでなく、私や他の屋敷の人間に対してもだろ? そういうルールなんだと思うが、どうなんだ?」
大岡の問いにマリーは「ええ」と短く答える。今のマリーはまるでゲームでも楽しんでいるかのようで、大岡の気分を嫌なものにさせた。
「……随分と楽しそうだな……?」
「もちろんですわ。わたくしの好きなマニアさんと二人きりなんですもの」
「こんな閉じられた空間に居るのに?」
「もちろんです。この空間は、わたくしとマニアさんがフェアに話し合える空間です。むしろこの空間を作るためにこそ、猫の呪いを使った甲斐があるというもの」
「フェアね……人をループ空間に閉じ込めといて、フェアというか」
「あら、わたくしだって。この空間に閉じ込められているのは同じですのよ。むしろ、不利な状況を作っているくらいですわ」
マリーはコインを取り出し指で弾く。彼女の手の甲に落ちたコインは裏面を上にしていた。そのマイペースな行動が大岡の神経を逆撫でする。
「……そのコインも、この異常な状況を作るための縛りなのか?」
「ええ、そんなところでしてよ。その質問だと、詳細は教えられません。が……」
マリーは少し考えるような素振りを見せる。それから「大岡さんは、わたくしからの愛の告白を覚えていて?」と妙な質問をした。大岡にはマリーから愛の告白された覚えはない。今の状況なら、まず間違いなく、そんな告白をされても大岡は断るのだろうが。
「覚えてないな……愛の告白と、この呪いとが関係あるのかよ?」
「実を言うとですね。あなたが心から、わたくしの告白に答えてくれたのならば、この呪いは解除されるのですわ」
「……冗談だろ。私のことを閉じ込めて、マリーへの好感度はむしろ下がってるとは思わないのかね?」
大岡からの指摘に、マリーは「ふふっ」と笑う。そんな余裕の笑みが、大岡から見て、かなり不気味だ。
「すぐには、無理でしょうね。けれど、わたくしたちは何度だってループできるのです。何度も、何度でも同じ時間を共有して、こうして話し合って、わたくしはあなたを、マリーのものにしてみせます!」
マリーは力強く宣言した。彼女はこの状況を使って、なんとしても、大岡を手に入れるつもりのようだ。そんなワガママを聞くつもりの大岡ではない。それに、ここまでの会話で、大岡には分かったことがある。
「……マリー。私は、大岡マニアだぞ。特急鑑定士の大岡マニアだ。少し、私のことを見くびりすぎじゃないか?」
「見くびってなどいませんわ。それより、時間はいくらでもあるのですし、席についてゆっくりとお話でもしましょうよ」
「時間がいくらでもある? 馬鹿言え。ループはこれで終わりだ。今回のループで、私はこの馬鹿げた状況から出ていく」
「……それができるとでも……」
マリーが、うろたえたのが大岡には分かった。やはり、この状況は抜け出すことができるのだ。それが分かれば大岡の心にも希望が沸いてくる。後は、この状況から出口に向かうだけだ。
「もちろん、この状況から抜け出すためには、呪いを解くための条件を満たさなければならない。私が今すぐ屋敷の出口に向かっても、また時間がループするだけだろうさ」
「……やっぱり、抜け出せないではないですか」
「いや、マリー。抜け出せるよ。この状況から抜け出すために、必要なピースは、ほとんどそろっているはずだぜ。なら後は、そのピースを組み合わせていくだけだぞ」
「はったりを……」
「果たしてはったりかな? マリーにそのつもりは無かったんだろうけど、ここまでの発言で君はペラペラと私の知りたいことを喋ってくれたぞ」
「そんなわけがありません。そんなわけが……ありえませんわ」
大岡の言葉をマリーは信じようとしない。けれど、もしかしたら……という思いは彼女の中にあるのだろう。先程まであった彼女の余裕はもう感じられない。そんなマリーに大岡は容赦をしない。大切な友達だったとしても、大岡を勝手な都合で閉じ込めるような行為は、許さない。
「一応、再度確認だ。マリーはヤエ先生の元から猫の呪いを盗んだ。それは間違いないな?」
「間違い……ありませんわ」
「これは私の予想だが、マリーは猫の呪いをここでない何処か、あるいは君自信の側に隠している。だから、私たちは呪物の本体を探しても絶対に見つけられない。そうだろう?」
「ええ……そうでしてよ」
「ならやっぱり、猫の呪いを解いて、この屋敷を出ていくしかないな。マリー、私は君の望み通り、話し合いをしてやるよ。そのうえで、私は君の元を去る」
大岡の言葉に、マリーはひどく怯えたような、それでいて悲しそうな表情を見せた。大岡だって彼女のそういう表情は見たくない。けれど。
「マリー、悪く思わないでほしい。私は、ここから出ていきたいから」
ここから出たいだけだから、それを邪魔するのなら大切な友達にも容赦しない。
「この呪いは、解かなきゃならない」




