猫の呪い(2)
「マニアさん、一つゲームをしましょうよ」
そう言ったマリーに対し、大岡はすぐには応えなかった。何かがおかしい……そう考えた大岡は、マリーに問う。
「なあ、マリー。これって、私たちがすでに経験したやり取りだよな?」
「あら、経験とはどのような?」
「私が屋敷についてから、ここまでのやり取りの全てだ。たぶん、私たちはこのやり取りを何度か繰り返しているぞ」
「そう言われると……そのような気もしますわね」
マリーは何か思い当たるものがある様子、逆にサクヤやナガヒメは、なんのことかピンと来てはいない様子だ。もしかしたら、個人によって感覚がことなるのかもしれない。大岡は慎重な気持ちでマリーに言う。
「もしかしたら、私たちは何らかの呪物の影響を受けているのかもしれないぜ」
「もしかしたら、わたくしたちは時間のループ……もしくは……何度も夢から目覚めるかのような……そんな状況になっていますのね」
「私も、そう考えてる。これが時間のループか、幻覚のようなものか、定かじゃあないが。感で分かる。今は異常事態だぞ」
「マニアさんの直感は信頼していますの。となると、わたくしたちは今どのように行動をするべきかしら……?」
今どうするべきか、それが問題だ。ただ、このままじっとしていても何も変わらない。大岡は、そう考える。冷静に、かつ迅速に動くべきだろう。
「ひとまずだ。屋敷内を探せば異常が発見できるかもしれないぜ。この屋敷には、呪物の保管庫があったよな?」
「ええ、呪物の保管庫。ありますわ。けれど……」
「けれど……?」
「まずはトワさんの到着を待ってから動く方が、より安全ではありませんか?」
意見が割れた。こういう時、多数決……は分が悪そうだ。きっとサクヤとナガヒメはマリーの味方をする。大岡としては一刻も早く、異常の原因を発見したいところだが……どうしたものか。
「異常の原因を発見しないことには、対策の立てようもないぞ。そして、何か異常が起きているとしたら、呪物の集まっている場所から調べてみるべきだ。特級探索者に加えて一級探索者が二人居るこの状況で、動かない理由はないだろ」
「でしたらここは、わたくしとサクヤで動きます。マニアさんはナガヒメとここに待機していてくださいな。大切なお客人を危険に晒すわけにはいきませんわ」
大岡にとって、大切な、という言葉は嬉しいが、それはそれとしてマリーの提案を受け入れるわけにはいかない。皆で固まって行動した方が良いと大岡は思う。
「マリー、この状況で分かれて行動するのは良くない……気がする。安全というのなら、ナガヒメも居た方が良い。それに、私も呪物に関しては気付けることがあるはずだぞ」
大岡の言葉にマリーは難しい顔をする。
「わたくしは……いざという時のために二人はこの場に残るべきだと考えますが……でしたら、こうしましょう」
そう言ってマリーが取り出したのは一枚のコイン。さっきも使ったコインと同じものだ。彼女が何を提案するのか、大岡は理解し、まじかよと呆れてしまう。
「マリー、今は緊急事態だぞ。運任せで動くような状況じゃないと思うが……」
「緊急事態だからこそ、ですわ。こういう状況でこそ、運というものは馬鹿にできません」
特級探索者がそう言うと、謎の説得力がある。大岡としては、この状況は不安だし、なんとしても皆で固まって行動したいが……ここは一旦マリーの提案に乗ることにした。説得しようと思えば、コイントスの後でだってできるのだ。
「……分かった。コイントス……しようじゃないか。じゃあ、表だ。私は表を宣言するぞ」
「分かりました。ではマニアさんの予想が当たったなら、わたくしたち皆で行動しましょう」
マリーの指からコインが弾かれる。その結果は……表! 大岡の予想が当たった! 相手を説得する手間も省け、大岡としてはホッとした気持ちだ。
「……あら、まあ。これも思し召しですわね」
マリーは肩をすくめ、大岡に「行きましょう」と言う。大岡はマリーたちと四人で屋敷の保管庫に向かい、そこで異常が起きていないかを調べた。保管庫は広く、呪物の数も多い、異常が起きていないかを確かめるだけで三時間が経過。大岡はくたびれつつも、保管庫で問題が起きていないことを確認できた。
保管庫での異常無しを確認した。そこで異常が無かったということは、別の場所に原因があるということ。当てはないが、屋敷の創作を続けるべきか、それとも……そこから先、大岡の記憶は曖昧だ。彼女が気付いた時には、場所は屋敷の玄関に移っていた。
「あれ……?」
「どうしましたか……?」
不思議そうな顔をするサクヤの顔を見るに彼女はこのループに気付いていない。やはりこの異変に対する認識には個人差がある。その差はいったい何が関係しているのか。大岡はいぶかしむ。
それに加えて、気になることが大岡にはあった。玄関に戻ってしまう前、大岡はマリーから何か大切なことを言われた気がするのだ。それが何だったのか、そこがはっきりしない。
とにかく、マリーと合流するべきだ。そう思い、大岡は動く。問題を解決するために。




