神はもう、死んでいる
角川武蔵のミュージアム天国だったぜ
今度は友人でも連れて行ってみようと思う
絶対できないけど、あんな書斎作りたいなと思いました
時を遡ること約10分
阿賀野は先に聖マリー教会に来ていた。
美術の中でも特に自分が好きなバロック芸術にテンションが上がっている最中である。信仰が嫌いなのが玉に瑕だが。
「ふおお・・・!これが教会かぁ。宗教はどこ行ってもクソだが、やっぱり宗教画や宗教彫刻は信仰関係なく素晴らしいな」
イタリアの芸術家ベルニーニのファンでもある阿賀野は、教会が崇めている神様そっちのけで、ただひたすらに教会という名の芸術に感動していた。
彩綾たちもまだ来ていないようだし、中にも入ってみようと正門まで近づくと、丁度ここのシスターであろう女性が神の教えを説いていた。
ほぼ白に近い金色の長い髪が日光を反射し、長い睫毛や蒼い目と整った顔立ちを外に晒している。黒を基調としたゴシック調の修道服が、美しい人形のような風貌を際立たせていた。
「皆様、神は何時でも貴方達を見守ってくださっています。ただし、全てを見守っているわけではございません。神の寵愛を受けるためには、清き心や善行が必要不可欠なのです」
キリスト教で聞いたことあるような、いかにもな説法だ。やはり神に対する認識や解釈はどの世界でも大して変わらないということだろうか。仏教が普及していた当初の日本ですら、自分が極楽浄土に行きたいという欲がために寺やお堂を建てたというのに。
その後も群衆に対して演説を続けているが、このままここにいると嫌な予感がする。あのキリスト教的哲学を聞き続けると、絶対どっかで俺の発作が始まるような気がした。
そそくさと民衆の横を通り過ぎ、一足先に聖堂で待とうとしたところに、正しく神様の悪戯が起きてしまった。
「清く正しいのは当然のことなのです。人間とは全て命あるもので、その全てが尊く価値があるのです」
「あ?」
前言撤回。むしろ邪神の囁きだった。
シスターの何かが阿賀野の琴線に触れてしまい、方向転換して彼女にずけずけと迫っていく。
「うぃーす、ところでアンタ」
「?いかがなさいましたか」
「命は尊く価値がある。いや〜さすが神の信奉者は違うねえ」
おどけるような態度にシスターは顔を崩さないが、民衆はどうやらシスター側らしい。
「おいテメェ急に入ってきて何様だ!」
「聖女様のご高説に割り入って来ないでよ!」
民衆からのバッシングがすごい。だからなんだという感じだが。
阿賀野は意にも介さず聖女とやらに言い続けた。
「その理論でいくとよぉ、悪人と善人が同じく価値があり尊いことにならね?おかしくね?」
「悪だろうと命があることに変わりありません。神が生んだ命である以上、悪であろうと神の前では我が子なのです」
「命の有無で人見てる時点でダメだろもう。大事なのは命の質だ。国に大金を納税している慈善活動家と、夜な夜なレイプして回る極悪性犯罪者が同じ人権と価値があるわけねーだろーがよ」
「それは誤解です。勿論、悪は悪。神の名の下に裁かれなければなりませんし、正さなければならないのです。しかし、神が善悪関係なく人に赦しや裁きを与えるということは、全ての人間を平等に見ているからに他なりません」
「ほうほうほう、平等ね・・・。全員が全員まともに生きているわけでもないのに?盗まなきゃ生きていけないような環境だったりするのに??殺さなきゃ確実に殺されていた状況だって世の中にはあるのにぃ???」
「神の世界でも人の世界でもそれらは悪です。しかし、善を成して救えなかった者たちでもあります。そんな彼らを見捨てることがないように、神と私達は祈り、施しを与え救うのです」
民衆が聖女さまに拍手と声援を行う。確かに、施しや許しとか、救済が保証されていたらどれだけ良いか。裁きを神が下してくれるとすればどれだけ良いか。
だが、それが人間が長年を懸けて培ってきた弱さそのものなのだ。
「いや、それ差別だろ」
「・・・え?」
ここに来て、ようやく聖女の表情が変わった。民衆も突然のパワーワードに呆気てしまっているが、阿賀野の理論武装は止まらない。
「弱者って誰が決めるん?神か?教会の神父か修道女か?それとも教会に来たそいつ本人か?」
「それは・・・」
「仮にお前らじゃないとして、本人がわざわざ言うのかよ。『私は飢えて弱っている惨めな弱者です。施しください』ってヨォ〜」
「そうであれば私たちは施しと癒しを与えるべきではありませんか」
「ただの乞食じゃねーかァ!人から集って強者に縋り付く弱者の何が尊い?どこに価値がある?いいか?価値ってのは本人の努力や周りの助けがあって上がり下がりするもんなんだよ。頭が良くなりたいから勉強する、力持ちになりたいから筋トレする、異性に魅力的に思ってもらいたからオシャレする。これも自分の価値を上げる為に行われることだ。親が子供の教育したりするのだって同じだぜ?そんなに神の名の下に赦しや裁きが欲しけりゃ、神だけにやらせろよ!
だがよぉ、神が直々に人前に降りてきて許したり救ったりしてんのか?結局人間が全部やってんじゃねーか!」
阿賀野の宗教嫌いでありながら暴論とも言えない論理に、民衆の一部も考え始めたり、納得する態度を表し始めた。
「努力したり、何かを生み出したり、それらをしない・できない人間は無意味。確かに人間は平等だよ。平等に不平等で無価値なんだよ」
「.・・・それは聞き捨てなりませんね」
遂に聖女の人間味のある感情が垣間見えた。
そう、それだ。神とか信仰も気に食わないが、何より人と神のために被ったその仮面が気に入らなかったんだ。
「私たちは神によってこの世に生まれました。その母であるルミスが善悪や人間の在り方を説いたのであれば、それに従うべきではありませんか?それが善いものであれば尚更です!」
「・・・・・・いい面構えになったじゃん」
この世界に神がいる以上は、確かに神はより身近だし尊いものなのだろう。だが、人間には理性がある。他の生物より遥かに高い知性と理性を持っているのなら、一人で立つべきなのだ。
「神に従うとか善いものとか・・・。親離れできないガキかこのヤロー!そんだけ善がいいんなら善だけの世界にしろよ!悪がある時点で瓦解してんじゃねーか。確かに神は世界を作っただろうが、人は作ってねーんだよ!独立した存在なんだよ。実在する神を否定する気はさらさら無いが、これだけは言っておく。ニーチェ風に言うなら」
「お前達の神は死んだんだよォ!!!」
「な、ななななな!」
教会前での爆弾発言に、聖女はパニック状態だ。俺がけしかけといて何だが、聖職者なら屈しられては困る。
寧ろ本番はここからだ。
そして、一歩も引かずに数分後
「神の名の下に人は尊く価値があるのです!」
「人の名の下に人は不平等に無価値なんだよ!」
公衆の面前で宗教論争を繰り広げる今に至る。
ミステリー小説を別で書いてて、今ちょうど2話の推理パートまで来るんですけど、投稿しようか迷ってます。
てかそれ以前に動画作んなきゃ!!!