混沌と神聖は意外と調和する
作者の信仰嫌いが如実に表れてますね。
教会前で白昼堂々(はくちゅうどうどう)と宗教について論争していたら、遅れて到着したアンネたちが止めるべく割って入ってきた。
「ちょっと、聖女様相手になにやっちゃってくれてんの!?この国での宗教は一般的なものなんだから、国民の不興を買っちゃうわよ!」
最初から見ていたわけじゃないので、俺が聖女マリーに喧嘩を売ったようにしか捉えていない。いや、最初は本当にそんな感じだったが、今は私怨などは全くない。むしろ、ここまで正面からぶつかってこれるマリーを称えているほどだ。
「何だ?今盛り上がっていいトコだったんだぜ?なぁマリーさんや」
「え?」
「ふふっ、ええそうですねアガノさん」
観客もアンネも勘違いしているが、2人の間で起こっていたのは決して喧嘩ではない。神や人間の命と価値に対する論争、いや議論でしかなかったのだ。
理性が高い者同士が話し合うと武力戦争は起きない、はっきり分かんだね。
「また聖職者に挑んだんですか?マリーさんが快く受け入れてくれたから良かったですけど、もしかしたら断罪されてたかもしれませんよ?」
彩綾が阿賀野に注意を促す。彼女の口ぶりだと、地球でも全く同じことをしたことがあるようだ。異世界の感覚では、神の実在は確かなものとなっているため神や信仰の否定をするのは邪教徒ぐらいしかいない。
だから堂々と、ましてや聖女相手に大立ち回りをした人間はハーラル王国の歴史上でも1人たりともいなかったのだ。それをこの男は、異世界に来たその日のうちに、歴史上初の事件を起こした恐ろしい男として、教会前の国民の脳に刻み込まれた。
「あ?関係ないね。発言の自由はどこ行っても一緒だろ。国王が発言するなっつったか?神が口を閉じろっつったか?あれれ〜聞こえないぞぉ?」
馬鹿にするような態度にアンネも民衆もイラッとしたが、普段から慣れている彩綾と短時間で阿賀野の為人を理解したマリーは苦笑いするだけだった。
「それで、本日は聖マリー教会にどのような御用で来られましたか?」
「おぉ忘れてた。観光だよ観光。信仰は嫌いだがよ、教会の芸術とか宗教史はまた別物だからな。中の彫刻とか見たかったんだ」
「あら、そうでしたか。でしたら着いてきてください。この国の教会を案内しましょう」
「よしラッキー!」
少し前まで言い争っていた仲とは思えない。
地球にいた時はかなりの大事になったと噂で聞いたことがあった彩綾は、彼なら大丈夫と思いつつ心の奥底で心配していた。なにせ、ここは地球ではない。世界そのものが全く違うのだから。
「彼、あっちでもこんなことやってたの?」
「はい。その時は、海外の宗教総本山で乱入して勾留されてました」
「知識の宝庫みたいな脳なのにバカじゃないの・・・」
生まれた時代が数世紀違えば、ただ宗教批判して処刑されただけの狂人だったことだろう。阿賀野にとって、それは数少ない幸運の一つであった。
-聖マリー教会内-
マリーに連れられて教会の扉を潜ると、外観に引けを取らないほどの華麗かつ荘厳な内装だった。
ゴシック様式の柱と天井。ツヤのある磨き上げられた席。大きく美しいステンドグラスから差し込んだ日光が照らす祭壇。
私情抜きにしても純粋に美しいと感じた。彩綾も、普段なら何かしらのコメントを言うがその美しさに完全にやられていた。
「おぉ・・・・・・・・」
「ふふふ、意外と芸術とか綺麗なものがお好きなんですね?」
振り返って言葉を掛けてくるマリーに少しムッとした。確かに芸術は好きだ。建築物や幻想の画集・写真集も買うし、西洋美術館だって毎月かならず訪れる。そんな阿賀野に対して茶化すようなマリーに何か仕返しできないかと数秒考えた阿賀野は、彼女に近づいて顎を指先で持ち上げた。
「・・・えっ?」
いわゆる顎クイである。
「御名答。なら俺が何を好きなのかも、分かるよな・・・?」
無言で段々と顔を赤く染めていくマリーに嗜虐心が膨らんだ阿賀野は、もう一歩近づいて追い打ちをかけようとした。
「私の前で何やってんですか!」
急に阿賀野とマリーの間に何かが出現し阻まれた。彩綾が2人の間に防御魔法を使ったのだ。
イタズラを最後までできなかった物足りなさと、良い頃合いでと目に入った彩綾への関心が阿賀野の脳内で混ざり合う。別にあのままキスしてもよかったと思っている。海外へ旅に行った時も、現地での挨拶でキスなんてしょっちゅうあったからだ。
「ナイスタイミング。でも別に止めなくてもよかったよ?あのまま最後まで行くつもりだったから」
「最後までってどこまでですか!私というものがありながら不潔です!」
「いやそーゆー関係じゃねえやん・・・。まあ辞め時なかったからいいけどね」
聖なる場所で何をしているんだ。
まだ入って数メートルしか進んでいないのに。
教会で遠くから見ていた聖職者たちは半分呆れて一部始終を見ていた。
気を取り直して祭壇に一番近い席に腰を下ろす。
さっきまでは内装様式に目を奪われていたが、冷静になって見ると祭壇の上にあるガラスの中を半分ほど満たしている赤い液体が気になった。
「なあ、あの赤い液体なに?もしかして聖人とか神の血とか言うんじゃないだろうな?」
冗談のつもりで言っただけなのだが、どうやらクリーンヒットしたらしい。
マリーが驚いた顔を見せてきた。
「ご存知だったんですか?あのガラスに入っている血は聖女たちの血です。ここの教会に勤めてきた歴代の聖女の血が一滴ずつ捧げられます。ここに就いた際に血を入れますから、私のも既に入れてあります」
「ヘェ〜すげぇな。美少女の血を見るのが好きな変態が群がってきそう」
「瑞樹さん、デリカシー」
「さーせん」
神聖なんだろうけど性癖に刺さる気もしなくもないが、こっちもそんな馬鹿にできたものではない。
実際にイタリアのナポリでも血の聖遺物は存在するのだから。
「他にも血を使った聖遺物を見たことがあるのですか?」
「おう、イタリアって国のナポリ大聖堂にな。聖ヤヌアリウスって聖人が1700年以上前に殉教して、その血を神聖なものとしてガラス瓶に入れた。以降、その血は乾いたり液状化したりする奇跡を起こして、血の状態で災いが起こったり平穏が約束されたりした。俺も一度儀式を見たことあるけど、本当に血が液化したからビビったぜ」
「そんなお人の血があるんですね。・・・あれ?でもこの大陸にイタリアという国はないはずですが・・・」
「あるわけないじゃん。俺とこの彩綾は別世界の生命体だもん」
「ちょ、瑞樹さん!そんなことバラしたら・・・!」
「まあ・・・!そんなお方たちだとは、お会いできて光栄です」
あれ?意外と受け入れてる?
「あら?なんか思ってたんと違うな」
「実は、古い予言があるのです。大地も海も天も超えた先から、異邦の者が訪れて混沌か平和の力を齎すと」
そんな予言があったとは・・・。信仰嫌いの弊害が出てしまったかな。嫌いなものの中にも有効な話や知識は必ずあるというのに。今度からもう少し大らかに受け止めてみようと阿賀野は思った。
「貴方たちが神を滅ぼし混沌を蔓延らせないのならば、教会は貴方達を支援いたしましょう。どうぞこの国を引き続きお楽しみくださいね」
世界一平和な宗教紛争の解決




