第一話「道士と殺人鬼」14
『ROOOOOO!!』
最後の執念か、急激に膨張した黒い影の腕がヴェロニカの腕を掴んだ。
そして引きずり込まれるのをこらえようとしたが、ヴェロニカの行動は更に聖剣の想像を超えていた。
「だったらこれでどうだっ!!」
ヴェロニカはまるで抵抗しないどころか、自ら渦へと身を投げ出した。
『!??』
そうなってはもはやこらえることもできず、呪われし聖剣はヴェロニカごと奈落へ引きずり込まれていった。
「この大馬鹿者!!」
泡を食った玉兎が、右半身を渦に突っ込ませ、強引にヴェロニカを引きずり上げる。
その体を構成する符もまた渦に飲み込まれ、玉兎の半身は食いちぎられるように破れた。
「禁!」
渦の前に一対の武人の札が現れ、その重力がかき消えていく。
後に残ったのは、半身のほとんどを引きちぎられた玉兎と、ヴェロニカだけであった。
「だ、大丈夫なの……それ?」
「問題無い。所詮、俺の体も紛い物だ。そのうち元に戻る。それに――」
玉兎の左手には、黄金の札が握り締められていた。
「それは?」
「金烏の符。封じようとして逆流した鬼門、その力を真正面で浴びた極めて強力な符……」
遠い目をする玉兎。
「……何より、分かたれた恩人の体の一部である符……彼女がいなければ、今の俺は無い」
「なになに? アンタの想い人?」
「……恩人だと言っているだろう。彼女を表すのにそれ以外の言葉は無い」
「そっか、じゃあ、遠慮はいらないね。世話になったし、アンタなら割引するけど?」
にい、と笑う。
「遠慮する」
言った玉兎の口の端は、苦笑に吊りあがる。
だが、嫌悪のそれではなかった。
背を向けた玉兎の体が、ばらけて符になっていく。
そして符はさながら煙が流れていくが如く、空へと舞い上がった。
「なんだよー! 遠慮するなよー!」
ヴェロニカの、どこか陽気な声が空へと溶けて行った。




