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白兎の従者~一文字で大きく違う異世界転移~  作者: ゆうき
第5章 やっぱり甘くない異世界の町
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5-9

なんとか掛けましたので、投稿いたします。

「・・・どうぞ、お受け取りください」


「こちらこそ、どうも」


「ふん」


討伐部位を提出してさっそく報酬を受け取り、財布に銅貨を入れたのだが、俺の気分は優れない。


この町に来てやっとまともに稼いだのだが今すぐにでも酒を飲みたくなってきた。


それと言うのもこの目の前の受付嬢の態度の所為だ。


この町に来て初めて対応した眼鏡の受付嬢、たしかキロロとかいう女性なのだが、気が付くと俺たちのチームの担当受付嬢になっていた。


正直俺としては断りたいのだがギルドの意向に逆らう訳にもいかないので、しぶしぶ担当してもらっている。


一応、チームに担当が付くというのは相当ギルドから期待されている証なんだが、それにしても明らかに相性が悪いと思われる人同士でというのはいかがなものだろう?


理由はこのキロロがとても優秀で、町の東側に強力なコネを持っているという事らしい。


何にせよ、納得いかない、と俺は思っているのだが。


「あの、私のギルド証はブロンズになるのでしょうか?」


「ええ、リースさんも規定をクリアしましたからブロンズになれますよ。更新されますか?」


「お願いします」


そんな俺の横ではリースが別の受付嬢、たしかアネットさんだったかな、にギルド証の更新をしてもらっている。


この子は人当たりも良いので、俺としてはアネットさんに担当してもらいたいな、と思っているのだ。


「そろそろ邪魔ですから離れてもらえます?」


「ああ、悪かったな」


「あ、ルナさんだけお話があります」


「あら、何かしら?」


「ルナさんに指名依頼が入っておりまして、詳細をお聞きになりますか?」


「ええ、お願いするわ」


「農家からの依頼なのですが、どうも麦の育ちが悪いらしくなんとかならないか、というものです」


「ギルドメンバーに依頼する内容じゃないだろ、それ」


「あなたには言っておりません。そもそもなぜ聞いているんですか?指名依頼ですよ?除名処分にしますよ」


「チームを組んでいる人間が聞いたら除名処分って、あんたふざけてるのか?」


「秘密厳守が当たり前です、指名依頼なのですから」


「そうかよ。おい、もう行こうぜ、相手する必要ないって、このギルド」


「落ち着きなさい、あなたも。ちょっと興味ある話だから詳しく聞くからリースと一緒に待っていてちょうだい」


「ああ、分かった」


本当に腹が立つやつだ。


兎もたいがいだが、まだ、なんというかこいつには許せるところがある。


でも、あのキロロという受付嬢には一切そういうのがない。


話をするだけ気分が悪くなっていくのが自分でも分かるぐらいだからな。


「えっと、珍しいのです、ナオヤさんがそこまで怒るのって」


「向こうが敵意というか悪意を向けてくるんだから怒ってあたりまえだと思うけどな、俺は」


「その、ちょっと今のナオヤさんは怖いです」


「リースちゃんに当たるつもりはないんだが、そのすまん」


「いえ。あのー、ナオヤさんとのこともありますし、担当を変えてもらえないでしょうか?」


「わ、私に言われても権限がありませんし」


「誰なら権限持っているのですか?」


「本当にキロロ先輩にだけきつい物言いなんですね。あ、その支店長になりますけど、無理だと思いますよ?」


「それは、なぜですか?」


「実は」


うん、なんというか現実を突き付けられたというか、すげえ理不尽な目に遭っている事だけは分かった。


あのキロロという受付嬢はグランドギルドマスターと呼ばれる、総合ギルドの本部、王都にあるらしいのだが、そのマスターの血縁者らしいのだ。


ファーロン王国の政府企業とでも言うべき会社の社長の一族。


たぶん、王家か貴族の血筋でもあろう令嬢だから、そりゃあ一支店の支店長クラスだと命令権もないわな。


あとコネがあるという裏付けもこれに起因するのだろうし、優秀といえば優秀なギルド員だよな。


その令嬢さんがこんなと言うと失礼だが零細支店に居るのはなぜだろう?と疑問に思うのだが、修行の一環とかなのだろうか。


まあ、こんな傲慢というか好き嫌いがはっきりしている性格だと重役ポストに就いたときに組織がダメになりそうな気はする。


理由は分かったけど、これって結構つんでる感じがするなぁ、と思わずため息が出た。


「で、そんなすごい令嬢さんが、うちの兎を贔屓してるのはなんでだ?」


「ナオヤさん、口調変わってますよ」


「あ、もう、面倒だよ、こんなところに丁寧に接するの。正直別のギルドに移籍したくなってる」


「そ、それは、あなただけですか?」


「あ?たぶん俺が移籍したら兎も移籍するんじゃないか?たぶんだけど。リースちゃんは分からんけど」


「ナオヤさんとルナさまが移籍するなら私も」


「こ、困ります!特にルナさまが移籍したらこの支店が回らなくなります!いま、ルナさまを指名する依頼のついでに色々と依頼が増えて過去最高の成績をだしているのですから!」


「それこそ知らねえよ、としか言えないな」


「困るのでしたら、やっぱり担当を変えたらどうですか?もしくはナオヤさんへの態度を改めるとか」


「わ、私に言われても・・・」


俺に言われても知らんがな、と言いたいぞ、本当に。


俺と兎は別に総合ギルドでのし上がろうとか考えてないし、リースにしたって呪いをかけた魔女を探しているだけだからな。


総合ギルドの方が色々と便利だからという理由で利用しているだけで、俺やリースは兎も角兎に関しては他のギルドでも大丈夫なはずだ。


ファンタジー世界に来て冒険ができないのはちょっと寂しいが、まあ、それは仕方ないと割り切ればいいだけの話。


たぶん、商業ギルドなんかに登録して行商人とかになった方がよさそうな気がするんだよな、兎の知識ありきだけど。


ま、その辺りも一度話し合って決めた方が良さそうか、と話が終わったであろう兎を見て思った。





「で、指名依頼とやらはどうなったんだ?」


「受けたわよ。どうしたの、あなた?機嫌がすごく悪そうだけど。もしかしてまだ怒ってるの?」


「あー、あれだ。総合ギルドを脱退して他のギルドへ移籍を考えてたんだよ、理不尽だから」


「私はそれでも構わないわ。でも、理不尽な事なんて世の中に一杯あるものよ。それはあなたも分かっているでしょう?」


「理解はしてるけど、別にこだわる必要がなければそれをなかったことにするのもありだろ」


「あなたの事だから冒険をしたい!って理由で総合ギルドに居続けたいと思ったのだけれど」


「あ、やっぱりナオヤさんはそうだったのですか?」


「リースちゃんが俺をどんなふうに見てるか分かったよ、今ので」


まあ、俺の冒険心は兎も角だ、指名依頼を受けたのならそれを解決しないとだな。


それでその指名依頼、麦の育ちが悪いという件だが今まで見たこともない害虫が作物の育ちを阻害しているらしい。


一応偉い学者に害虫のサンプルを送って調べてもらっているらしいがまだまだ時間が掛かるそうだ。


現在のところ虫を発見次第取り除いたり、天然の殺虫剤を散布したりしているがすぐに増えるし効き目もイマイチらしい。


なので博識としてこの辺り一帯でも有名になった兎に知恵を借りたい、という依頼だった。


そんな依頼を受けて大丈夫なのか?と心配になるのだが、一応解決できなくても罰金を払う必要もないし、報酬の半分や滞在費なんかも出るらしい。


ちょっと気に入らないのだが俺とリースも助手と言う形で参加する事になった。


兎の知恵は確かにすごいが、何が悲しくて人間やエルフが獣の助手扱いを受けなくちゃならないんだ、と憤りを感じた。


うん、たしかに理不尽はここにも転がってたよ!


なお、兎が興味もったのはこの世界の農業基準だったようで、なかなか農業が発展しているようで満足気味だったぞ。







「さあ、きりきり働くのよ、私の従者として!」


「従者じゃねえよ!」


「あ、私もルナさまの従者になったのですね」


「なんでうれしそうなの、リースちゃん!?」


と、いう事で今回の依頼は農業関係だ。

お読みくださってありがとうございました。


次回の投稿は3月30日を予定しております。

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