第九話:数多ノ信ニ顕現サレル
「おはようございます〝ご主人様〟――これからは我が渇望を成就するための道具として、精一杯この私に尽くすようよろしくお願いします」
待て……これはいったい何だと言うのだ。
そしてまず状況に、一言物申したい――可笑しいだろ、と。取りあえず、この少女が目を覚ましたまでは良かった。何らかのイベントが始まりわけだからな。その点については大いに評価して信ぜよう。
だがしかし、これはいったい何なのだ?
先の少女の言動はまだ良しとする。事実、そういうところに惹かれたからこその顕象だと思っているから。ゆえに、そこに対しての文句を言うつもりはない。
それでもだ。一つだけ、言わせてもらいたいことがある。
「どうしておまえは俺の服を脱がしているんだ……!?」
コイツ、まさか睡姦派なのか?
寝ているところを無理矢理犯すのが好きなのかっ!?
「……ん? 見て分かりませんか? 生殖行為――もとい、魔力供給を行おうと思っていた所存ですが」
これはガチだ。まるで獲物を狙う捕食者の目つきをしている。
「いやいや、まてまて! いったん落ち着こう!」
グッと少女の身体を押し返し、ベットの上に正座をさせた。
「はて? 主さまは犯されるが好きではないと? ならば仕方ありません、主さま直々に私を犯し倒して下さいまし」
ダメだコイツ……早く何とかしないと――
「こないなら、私からいきますけどよろしいですか?」
「待て! するのは一向に構わんが、いったん落ち着け!」
「ふむん……そこまでおっしゃるのでしたら。――分かりました。ご命令に従い、待つことにしましょう」
「ああ、それじゃあ取りあえず服を着てくれるか?」
「……? どうしてですか? なるほど、主さまはそういうプレイがお好きなんですね。……えーと、なんて言うんでしたっけ? 着衣セッ――」
刹那。少女の口をキュッと塞いだ。
もちろん、俺の人差し指でだが――
「……取りあえず服を着てくれないか?」
そうやって真摯にお願いすると、少女はこくこくと頷いてくれた。
「では主さま。魔力供給でないとすると、私にいったい何の用なんですか?」
普通に考えて、魔力供給以外の用事もあるだろう。と言いたいところだがしかし、この少女には俺たちの〝普通〟が通用しないのだ。
そして俺はコイツの正体もある程度は掴めている。これから共に戦い、生活し、そして一生のパートナーとなるこの子の名前を――
「俺に……君の名前を教えて欲しい」
少女の澄み渡った瞳に照準を合わせた。
そして優しく肩に触れると、少女は困ったような笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。
「申し訳ありません……どうやら私には己を名乗る名前すら持ち合わせていないようなのです」
なん……だと……名前がない?
いやはや何となく予想はしていたが、まさか本当に無銘の剣だったとは……ある意味で予想を裏切られた。
「ゆえに、主さま……私に個を宿すための名前を与えてはくれないでしょうか……?」
尊い、それと同時に儚い存在。
おまえが死ぬまで背負う覚悟があるのなら、勿論喜んでつけてあげよう―――などといった上からの物言いは一旦辞めようか。
彼女に対してそのような言葉は言ってはいけないような気がする。だから俺は、その秘めた想いをグッと心の奥底へとしまい込み、頭を捻らせ少しばかり考え込んだ。
銀に揺られる美しい髪。
人形のように整った顔立ちと、繊細な四肢。
そして赤色に染まる紅蓮の瞳は魔性の輝きを放っていた。
こんな文字通りの美少女に、俺は人生を左右する名前をせがまれている。
言ってしまえば、この先一生変わることのない愛すべきパートナーとなる少女なのだが……
如何せん、選択を憚られる事態であることには変わりない。
だがそれでもこんな幼気な少女が顔を埋め、申し訳なさそうにしているのを見ていると、なんとも不思議な罪悪感に苛まれる。
その顔を見るだけで、一刻も早くこの少女に適応する名前をつけてあげなければといけないという気持ちが沸々と沸き上がっていく。
ああ、どうしよう。この俺にセンスを求めるのは間違っている。そうだ、しょうがない。銀髪に赤目、そして人形みたいに整った容姿。
それに伴った名前と言ったら……
「……ヘルヘイム。今日から君の名前は――『ヘル』だ」
勝手なこじつけ、及び偏見によるネーミング。でもなぜだろう、この少女を見たときからパッと頭に出てきた名前がそれだったのだ。
ヘルヘイムとは、死ノ国という意味。
彼女から発せられるのは死の気配、そして気概に風格。まさに文字通りにピッタリだと思うのだが……どうだろうか。彼女の様子を見る限りなんだが自身がなくなってきたぞ?
「ヘルヘイム、ですか……?」
おまえがその名前に納得してくれるのならば、死ノ国の女神も真っ青なくらいの神器に育ててやる。それが今の俺のできる、精一杯の善行なんだから。
「何だよ不満か? ――それでもおまえが委ねたんだ、もちろん文句は受け付けないぞ」
「……いいえ、主さま。私は嬉しいのです。名前をもらえるということは、個人としての存在を容認されたようなものですからね」
「そ、そうか……? まあ、気に入ってもらえたなら良かった」
俺個人として何とも心臓に悪い体験。
まあ一つの難関を乗り越えたとして、俺はもう一つ訪ねてみたいことがあった。それは、
「なあヘル……この、"神器適合率"ってのは何だ……?」
それはディスプレイに表示されてから、ずっと気になっていたものでもある。神器適合とはつまり、何も考えず予想すると、これは単純にヘルとの相性ってことなのか否か。
頭を撚る俺の横で、ヘルはなんとも不思議そうな顔を浮かべており、続く言葉を悪意の無い純粋な表情で禁忌の行為を紡ぐのだった。
「はい。そのことでしたら簡単ですよ? 主さまが――私と肌を重ねればいいのです」
というか結局やらなきゃいけないのは確定なワケですか……分かります。
「ヘル……それ本気で言ってるのか……?」
これは行為に及ぶ為の最終確認。
「はい。主さま、ヘルは最初から本気でしたよ」
真っ直ぐな瞳で見つめ返される。
「あぁ……もう分かった……後悔するなよ――」
そうして、俺は自分の衣服をはだけさせる。
喧嘩によって鍛えに鍛え抜かれた漢らしい裸体を、幼さを残した淫靡な躯体に重ね合わせた。
「はい――主さま、どうか私を……楽しませて下さいね?」
※※※※※
そうして、俺とヘルの身体は深く結ばれる。
互いのことを深く知るためにと、俺たちは獣のように互いの身体を求め合った。
くちゅくちゅとやらしい水音が部屋中に響き渡り、○○○が蕩けてしまいそうな脳を突き抜ける快感に俺は情けなく身をよじってしまう。
ただひたすらに己が欲求を満たすためにと、ヘルの子宮をめがけて何度も何回でもと腰を太ももに打ち付けた。
ときには緩急をつけ、ヘルの膣内を優しく○○○が出たり挿いったり。生温かく、粘り気のあるヘルの愛液が俺の太ももにぴちゅぴちゅといやらしい音を立てて跳ね返る。
ぷっくりと可愛らしいピンク色の唇に優しく舌を潜り込ませ、勢いよくヘルの口内へと俺の感触器が犯したてた。これはキスとは言わない、ただ単純に快楽を求めるためだけの唾液を交換しているだけに過ぎなかった。
そして俺は更に激しく、回数を増やして腰を振り続ける。とぷとぷと淫穴からはヘルの愛液が溢れ出していた。
「あ、や、あっ……主さまぁっ、いく、いく、イク、イッちゃいますぅぅっ!」
その瞬間、ヘルの腰はぷるぷると震え、やがてがくりと崩れ落ちるように身体から力が抜けた。
「あああああぁっ、ああああああっ――!」
そのままもたれかかるようにしてヘルは俺の胸元へと身体を預ける。そして俺はそれを尻を掴んで支えてやった。
「はぁ、……はぁ、……ふふっ、主さまは見かけに寄らず床上手なんですね……?」
盛大にイかされたにも関わらず、俺への態度は改まらない。むしろさっきにも増して挑発的な笑みが強くなっているような気がする。
それにしても、まさかこんな風に崩れ落ちるとは思わなかった。
そしてさっき絶頂したせいもあって、相当量の愛液がヘルの膣内には溜まっているようだった。再び俺は陰茎を擦り付け、たっぷりと馴染ませていく。
見る間にぬるつく感触が俺の○○○を包み込んだ。
「私の膣内から、たくさん……熱くてえっちなおつゆが……、溢れてきてしまいます……ああぁっ、気持ちいい……」
愛液を漏らすだけでヘルは快楽に支配されている。
俺たち二人の身体は魔力供給による快感で頭が真っ白になるくらいの快感を共有していた。
どろりとした感触、ビクつく膣内。ヘルが感じているのが直に伝わってくる。
「はあ、……んっ! うあぁっ、いい。そ、そこっ……あ、熱いっ……ふあっ!? ああああっ!」
ヘルの淫靡な声にどんどん歓喜の色が乗ってきた。
実にいい、最高の魔力供給ができていると思っていいのだろうか。
「主さま、……ヘルの膣内は気持ちいい……ですか?」
そんなこと、わざわざ口に出す必要はないだろう。それ相応の態度で示せばいいだけなのだから。
実際、俺の方は限界をとうに超えていた。ヘルの膣内からの感触は、締め付け、痙攣と異なるアクセントが引き金となり、ほどよい開放感に包まれ脳天を突き上げるような鋭い感覚に襲われる。
そして遂に――
迸るのは熱くて白い魔力の子種。それは、どろどろとした感触。支配するのは白く濁った生命の源。
「イイですよ……主さま……来てください。ヘルを主さま専用の雌奴隷にさせてくださいまし――」
幼さを感じさせない内なる母性に酔い痺れ、俺は勢い良く己の魔力をヘルの膣内へと勢い良くぶち撒けた。
「――〜〜……ッ!」
その後も、ギシギシとベット上での激しい運動会を繰り返す中で、熱に当てられた俺は波のように襲い来る快楽に身を委ねるとぱっと意識は狩り取られた。
そして、そのままヘルの身体に自分の身を預け、ぎゅっと抱かれるようにして目を瞑る。
何時間にも及ぶ行為の果てに、疲れを隠せない俺はそのまま深い眠りへと落とされて逝くのだった。