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【打ち切り】クラガリのムコウ -当世退魔奇譚-  作者: よぎそーと
八章

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76話 回想:悪縁/不幸の重複

 体育倉庫に屯していた子供が消えた。

 ユガミの消滅に伴う変化も、それをもって終わったのだろう。

 カズヤ達以外の人はいない。

 消え去った者達がいた所を見つめていたカズヤは、それでもまだその場所を見つめ続けている。

 先ほどまで誰かがいた所を。

 その肩にノボルが手を置く。

「行くぞ」

 返事はない。

 だけど、構わず続ける。

「まだ一カ所回る。

 移動するぞ」

 返事は、やはり無い。

 それでもカズヤは頷いた。

 ノボルはそんなカズヤの肩を叩き、先に外に出る。

 少し遅れてカズヤが続いた。



 化け物を倒す、ヨドミを壊す。

 それによって新たな被害を減少させる。

 必要な事だと分かっているが、それに伴う変化がどういうものかを甘く見ていた。

 そういう事になるとは聞いていたが、どこか現実感の無かった。

 それが今、具体性を帯びて頭の中を駆け巡る。

 事前に聞いてはいたが、実際に人が消えていくのを見たのは大きかった。

 本当にこれで良いのか、もっと別の道があるんじゃないかと。

 身内が消えていくのを見て、猛烈にそう考えてしまう。

 そんな事を悩んでるうちに次の場所へと到着する。

 今度もカズヤに縁のある場所である。

 母が努めるスーパー。

 それを前にして躊躇いが生じる。

(また、消えるのかな)

 可能性はあった。

 何がどれくらい消えていくのか分からないが、そこに母が加わる可能性はある。

 特に気にかけるほど家族仲が良かったとは思わない。

 それなのに、今は先ほどの事で大きく動揺している。

 目の前で弟が消えていく所が何度も頭の中で繰り返される。

 同じような事が今後起こったらどうしようかとも考える。

 それでカズヤの日常に悪い変化があらわれる事は無いだろう。

 ノボル達の説明通りなら、変化によって今まで以上に悪くなる事はないという。

 だったら、今より悲惨な事にはならない。

 現状維持は最低でも保障されるだろう。

 しかし、それで良いとも思えない。

 今までより悪くはならないにしても、変化は必ずあらわれる。

 全てが今まで通りというわけにはいかない。

 先ほど目の当たりにした出来事がそれを表していた。

 確かに弟が消滅してもカズヤの日常に支障はないだろう。

 決して悪くはなるまい。

 だが、それで割り切ってしまえる事でもない。

(どうすんだよ、また誰かが消えたら)

 その時自分は冷静さを保っていられるかどうか……そんな疑問が浮かんでくる。

 無理だろうと思った。

 今だってかなり揺らいでいる。

 再び同じような事が起こったら、平静を保っていられるとは思わなかった。



 それでもやる事をやっていかねばならない。

 カズヤがどう思っていようと周囲の状況が変わるわけもない。

 化け物はカズヤの都合を考えてくれるわけでもないし、ヨドミは化け物を吐き出し続ける。

 それらを破壊しない限り、もっと酷い状況が生まれていく。

 何があろうとこれらをどうにかするしかない。

「大丈夫か?」

 ノボルが声をかけてくる。

「大丈夫」

 短く答えた。

「……やります」

 自分の意志を少しだけ添えていく。

 分かった、というノボルの声を聞きながら、カズヤは目的地へと向かっていった。



 既に店は閉まっているが、中での作業が終わってるわけではない。

 閉店後の作業もある

 全員が残ってるわけではないにしても、誰かしらいる。

 表はともかく裏の出入り口はたいてい開いてるものだった。

 その中にノボルは構わず入っていく。

 部外者である事など全く気にもしてない。

 後ろに続くカズヤの方が心配してしまっている。

 しかし中はがらんとしていて人気がない。

 客や店員が誰かしらいる店内とは様子が違う。

(こうなってんだ)

 新たな発見といった調子でカズヤは歩いていく。

 指示機を片手に、針の指し示す方向へと向かう。

「ここか」

 休憩室と書かれた部屋の前でノボルが呟く。

 おそらくそこにヨドミがあるのだろう。

 ノボルに続き、カズヤとマキも中に入っていく。

 中は誰もおらず、静かなものだった。

 それだけに、奥から聞こえてくるくぐもった声が耳にはいる。

(なんだ?)

 気にはなったが確かめにいくのも難しい。

 店の関係者がいるのは確実だろうし、だとしたら見に行くのは危険だった。

 無断でこんな所に入ってるのだから、咎められても文句は言えない。

 このまま無視してヨドミに入るのが得策だろう。

 そもそもヨドミは休憩室にある。

 わざわざその奥まで行く必要はなかった。

 なのだが、ノボルが物音のする方へと向かっていく。

(ちょっと、何やってんですか!)

 そう思うも声を出すことも出来ない。

 気がつかれたら元も子もない。

 やむなくカズヤはノボルの後に続き、その袖を引っ張る。

 しかしノボルは気にする事無く置くの部屋へと向かっていった。

 表札のかかってない部屋だったが、かすかに開いた扉から中が倉庫のように使われてるのが分かる。

 店で使う様々な道具が置いてあるのだろう。

 そんな部屋から押し殺した声が聞こえてくる。

 中の様子を除いたノボルは、すぐに何かを察したようだった。

 何度も小さく頷いてそこを離れる。

 すぐ後ろにいたカズヤは、何なんだろうと思いながら中を見た。

 開いた戸からは全体を見渡す事は出来ない。

 けど、中で行われてる事を察するには十分だった。

 さして広くもない部屋の中、男と女が立ったまま体を重ねていた。

 壁に手を突いた女と、その後ろに被さるような格好の男。

 何をしてるのかは明白だった。

(うわあ……)

 始めてみる生の情景に、カズヤは否応なく赤面していった。

 様々な情報にあふれる現代とはいえ、こういった場面に慣れるほどそれらを閲覧してるわけではない。

 例えそれらを幾つも目に通していたとしても、映像ではない現実の迫力はそれらの比ではなかった。

(すげえ)

 思わず見入ってしまいそうになった。

 しかし、女の方を見てすぐに愕然とする。

 見てる事が信じられない。

 覆しようのない事実であるが、それを認める事が出来なかった。

 興奮で頭に上っていた血が、一気に引いていくのを感じた。

 頭も体もふらついていく。

 それでもどうにか立ち上がり、ノボルとマキの所まで戻っていった。

 そんなカズヤを見て二人は怪訝そうな顔をする。

 何かがおかしいのはすぐに察した。

 カズヤの手を取り、すぐにヨドミに入る。

 何かを聞き出そうにも、休憩室の中では難しい。

 奥の倉庫らしき部屋にいた者達に気づかれる可能性が高い。

 ヨドミに入ったのは、そこなら声が外に漏れる事が無いからだった。

「どうした、何かあったのか?」

 奥の部屋の事が関係してるのだろうと思ったが、何が問題なのかが分からない。

 顔面蒼白、表情も消え失せてるのを見ればただ事ではないとは感じ取れるが。

「カズヤ、大丈夫か?」

 そうやって何度か尋ねるが返事はなかなかこない。

 とりあえず落ち着くのを待つしかないか、と思った二人は化け物が迫ってこないのを願いながら様子を伺った。

 カズヤが気を取り戻すまで。

 だが、そうなるより先に化け物があらわれる。

「……こんな時に」

 言いながら刀を抜く。

 どのみちやらねばならない事である。

 カズヤが気を取り戻すまでの時間つぶしと思って向かっていった。



 ノボルが化け物に向かっていくのを見る。

 目に飛び込んで来るその光景も、今は色あせて見えた。

 何かしなくてはと思うが、頭が働かないし体も動かない。

 先ほど見た事が大きな衝撃になっていた。

 それでもノボルが化け物を倒す時には幾分混乱もおさまっていた。

 戻ってきたノボルが心配そうな顔をしてるのが分かるくらいには。

「どうだ、まだ休んでおくか?」

 そう言われて首を横にふる。

「いや、もう大丈夫です」

 そんな事はこれっぽっちも無かったが、嘘でもそう言った。

 見てしまった出来事にこれ以上引っ張られたくはなかった。

 例え嘘であろうとも、大丈夫、やれると言えば気分が変わってくる。

 まずい感情に押し流されたくはなかった。

「でも、何があったんだ?

 そんなにショックだったのか、あれをやってるのを見るのは」

「いえ、そうじゃ……」

ないんです、といいたかったが声にならない。

 声が喉でつかえてしまう。

「何があったんだ、本当に」

 問いかけに答えるのがつらい。

 それでも目にした事実を口にする。

「あれ、母さんです」

 それを聞いて二人は愕然とした。



 悪い事は重なるというが、弟に続いて母までこんな事になってるとは思わなかった。

 色々とあったのかもしれないが、認めたくない事実である。

 何があってあのような関係が出来たのかは分からないし、分かりたくもなかった。

「これも、化け物が取り憑いたからなんですかね」

 思い浮かんだ疑問が口から出てくる。

 なんでもかんでも化け物のせいにしても仕方ないかもしれないが、そう思わねばやってられなかった。

 ノボルは、「かもな」と言うに留まった。

 事実関係がはっきりしないのだからそう言うしかないだろう。

 それでもカズヤは信じた。

 全ては化け物のせいだと。

 でなければ、わき起こる憤りをぶつける相手がいなくなる。

「行きましょう。

 ここを潰しに」

 そう言って二人を促す。

 どのみちここをこのままにしておく訳にはいかない。

 母の事とは何の関係がないかもしれないが、他の多くに悪い影響を及ぼしてるかもしれない。

 それを見逃しているわけにはいかない。

「そうだな」

 ノボルも頷く。

 少しばかりカズヤの調子が気になったが、やるべき事をちゃんと理解してる事に安堵して。

「行くぞ」

 そう言って前に立って歩いていく。

 その後ろにつきながら、カズヤも奥へと向かっていった。

 さっさとこんなものを破壊するために。

 それで起こってる問題が全て消えてしまえばよいと考えて。

 自分の手でそれが出来ないのが悔しかった。

 続きは明日の17:00予定。

 誤字脱字などありましたら、メッセージお願いします。

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