65話 回想:自宅にて
知らない人間を家に連れていってよいものかは迷う所だった。
だが、放置するわけにもいかない気がした。
もしかしたらノボルが何かしら企んでるかもしれなかったが、それでも連れていった。
どうせ最悪な状態になってる。
これ以上悪くなったところで高が知れてると思った。
なのだが。
「こりゃ、酷いな」
車でたどり着いた家を見て、ノボルはそうもらした。
家を見たカズヤも同じ事を思った。
今朝まで見えてなかった色々なものが見えている。
家全体に停滞・沈滞した空気がまとわりついているのが感じられた。
それを象徴するように赤黒い蔦が家に絡みついている。
その蔦のあらゆる所に、先ほど取り憑いていた妖花が咲いている。
「これ、家が取り憑かれてるって事ですか?」
「まあ、そうなるだろうな」
そう答えたノボルはため息を吐く。
「けどなあ、これヨドミになってると思うぞ」
「そうよねえ……」
言ってる意味は分からなかったが、酷い事になってるらしいのはカズヤにも伝わった。
「悪い、一度準備するわ」
そう言ってノボルは車を走らせる。
「ついでだ、お前もついてこい」
そうも言う。
助手席から、
「いきなり?」
と非難めいた声があがる。
が、ノボルは「しょうがねえだろ」とその声を押しとどめた。
「この後の事もある。
どのみち、いつか相手にしなくちゃならなくなるかもしれねえんだし」
「そうかもしれないけど」
「だったら早めの方がいい。
何がどうなってるのかを知る良い機会だ」
そう言ってからカズヤの方にも声をかけてくる。
「悪いけど、これから俺と一緒に付き合ってくれ」
「はあ、あの、どこに?」
「さっき見ただろ。
お前の家だ」
「家の中ですか?」
「そうとも言えるけど、家ってわけでも無え」
「それ、どういう意味なんですか?」
「お前の家にある、化け物の巣に入るんだ」
「え?」
さすがにすぐには理解出来なかった。
言ってる事が唐突すぎる。
先ほどこういう存在がいる事を知ったばかりで、ろくろく対処方法すら知らない。
なのにいきなり化け物の中に入っていくと言うのだ。
驚くのが普通であろう。
しかしノボルは、さも当たり前のように言う。
「どうせいつかはやるんだ。
早いか遅いかの違いだ」
そんな簡単な事では無いと思ったのだが、何となく感じる勢いにカズヤは納得してしまう。
「簡単にできるやり方も教えるから、それだけでもついでにおぼえておけ。
実戦でやり方をおぼえる事も出来る」
「そんな上手くいくんですか?」
「さあな」
「さあなって……」
「やってみなけりゃ分からんよ、何でもな」
それがノボルの答えだった。
「けど、それがこれって……」
渡された物を見て、カズヤは呆れるやら驚くやら。
「塩と日本酒と、手鏡……?」
いずれも近所のスーパーや百円ショップで買ったものばかりである。
こんなもので上手くいくのかと思ってしまう。
「あと、これね」
「……えっと、なんすかこの細長い棒」
「杖だよ、杖。
武器にだってなるぞ、杖道って武術もあるくらいだから」
「いや、俺そういうの全然やった事ないんですけど」
「振り回して化け物に当てれば良いだけだから気にすんな」
「それ、御神木から作ったものだから。
結構効果はあるよ」
「はあ……」
それにしても、である。
こんなそこらにあるような物でどうにかなるのかと思ってしまう。
「あと、線香もですか……」
「供養の基本だから。
鈴の音とかも結構効くぞ」
「もうなんでもアリですね」
「そういうもんだって。
それだけ色々なものを、ご先祖様は見つけてきたんだよ」
「化け物を退けらるようにね」
「はあ……」
確かに、言われてみればそうだ。
いずれもお清めやらなにやらで使われてるものばかりである。
塩にお酒に線香もそうだし、鏡は神棚に飾ってあるもの。
鈴も、神社にある。
「いっそ、注連縄とかも用意します?」
「あると便利なんだよな、それ。
なかなかないけど」
「注文しないといけないしね」
「……あるんだ」
色々と驚く事ばかりである。
「でもまあ、それがあればどうにかなるから」
かなり気楽な調子で言う。
「あの中ではね」
買い物帰りに再びやってきたカズヤの家を見ながら。
「んじゃ、早速やってみようか」
「はあ……」
言われてカズヤは家の方へと向かっていく。
あらためて見えるようになった事で、自分の家がどれほど酷くなってるのかは先ほど見た。
まさかすぐにそれへの対処を行う事になるとは思わなかったが。
それでも言われた通りに塩を持って家に近づく。
おかげで、絡んでる蔦がよりはっきりと見えてきた。
壁一面、とまではいかないが、日の当たらない北側を中心にして半分くらいは覆われている。
そこに塩をなげかける。
効果はすぐにあらわれた。
かかった所から蔦が溶けていく。
溶けるというか、消えていく。
壁の一角に蔦のない部分が生まれた。
半信半疑であったが、実際に効果を見て疑いははれた。
とはいえ、まだ実感が伴わない。
「凄え……」と呟いて呆然としてしまう。
まさかここまで効果があるとは。
「そうそう、その調子」という後ろからの声もあり、塩をどんどんまいていく。
壁にある蔦が消え、花も散っていく。
地面も覆われていたが、それらも塩で消えていく。
さすがに二階までは届かないが、一階の部分は塩でどうにかなった。
「ついでに家の中もやってこいよ。
塩も盛っておいて、これ以上蔓延しないようにしておきな」
「はい」
言われた通り、一度家の中に入る。
入ってまたびっくりした。
「うわあ……」
そう言いたくなるほど中も酷かった。
どこから入ってきたのか、蔦が壁を覆っている。
「酷え……」
こんな所に今で住んでたのかと思うと泣けてくる。
それでも塩をまいて、妖花の蔦を消していく。
要所要所に塩を盛りながら。
一階が終わって二階に。
ついでに窓から二階の外側なども片付けていく。
全ての部分に届くわけではなかったが、見える所は大分片付いた。
それだけで空気が変わるのが分かる。
今までの淀み具合というか、湿っぽさというか、妙な肌寒さが消えるのを感じた。
「……屋根とかどうなってんだろ」
どうにかしたいが、さすがにそこまではどうにも出来ない。
仕方ないので、部屋の中に塩を盛っておいた。
それだけでも大分変わってくるので。
「終わりました」
二階から外に出て来てノボルに伝える。
その言葉通り、家の中はほとんど片付いた。
外側の届く部分もかなり綺麗になっている。
「ご苦労さん」
ノボルも文句はなかった。
「じゃ、あとは中だけだな」
「はい?」
その中を片付けてきたのになんで、と疑問が浮かぶ。
が、「中」の意味が違うのは次の言葉で分かった。
「あとは巣に入って片付けてこよう」
まだ作業は終わってない。
続きは明日の17:00予定。
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