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【打ち切り】クラガリのムコウ -当世退魔奇譚-  作者: よぎそーと
七章

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63話 回想:出会い

 路上に倒れ、意識が朦朧としていく中で、一つだけ疑問を抱いていた。

(誰も、いない?)

 人通りがそれほど多いわけではないが、全く誰もいないというのはおかしなものだった。

 なのに周囲に人の気配が全く感じられない。

 物音一つしない、という言い方がしっくりくる。

 周りに、それこそ周囲の家の中にも誰もいないように思えた。

(あれ……?)

 明らかに何かおかしかった。

 何が、というのは明確に出来ないが、とにかく違和感を感じる。

 体のだるさと、そこからくる重みもいつもと違う。

 普段は体の中に重石が入ってるように感じていたのだが。

 今はそれが体に覆い被さってるように思えた。

 俯せになった背中にのしかかってるような。

 それに気づいて、背中に目を向けようとした。

 だが、体が動かない。

 体調の悪さだけではない。

 何かがのしかかっている。

 背中に確かな感触がある。

(なんだ?)

 疑問を抱くも振り返る事も出来ない。 

 押さえつけてる何かが重くて、体を動かす事も出来ない。

 かろうじて首を回すも、それで全体像をとらえられるわけもない。

 ただ、かすむ視界と意識が、不気味な何かをとらえた。

 蔦のような何かを。

 それが体にのしかかっている何かから伸びていた。

 背筋が冷たくなった。

 得体の知れない物体だから、というだけではない。

 生理的な、本能的な嫌悪感と恐怖をおぼえた。

 決して相容れる事のない何かである。

 それが背中にのっかっている。

 悲鳴が口からほとばしりそうになった。

 だが、喉はそこまで動いてくれない。

 空気がヒューヒューと出て行くにとどまる。

 腹に力が入らない。

 声と呼吸は分ける事は出来ない。

 そして呼吸は胸を使うだけではない。

 腹も用いて音にしていく。

 その腹を動かすだけの気力も体力もない。

 小さな声を出すことは出来るかもしれない。

 だが、助けを求める叫び声は出せない。

 出来る事は、もう何もなかった。



「あらま」

 耳に声が入ってくる。

「なんてこった……」

 その声に続いて足音。

 うっすらと開いたままの目が何かをとらえる。

 近づいて来る靴が目にとまった。

 と、それがカズヤの手前で止まる。

 何でと思った次の瞬間、体が軽くなった。

「……え?」

 驚いて周りを見る。

 無意識に体をねじったが、それも無理なく出来る。

 まだだるさは残ってるし、体力は無いが、先ほどまで感じた重さはない。

 頭痛や体調の悪さも大分消えている。

 体を難なくよいる事が出来た。

 その目が、状況をとらえていく。

 近づいてきていた人物と、その人物が手にしている化け物を。



 近づいてきていたのは男だった。

 まだ若い、と言ってもカズヤよりは年上なのが伺える。

 二十歳くらいに見えるその男は、手に表現に困る物体を握っていた。

 花と言ってよいだろうか。

 葉と茎と、その先端にある花。

 そして、根っことおぼしきうごめいてる細くて長いもの。

 先ほど視界にとらえた蔦のようなものがそれだと分かる。

 鞭のようにしなるそれは何本もあり、男に絡みついていった。

 男はそれを気にする事もなく、声をあげる。

「こっちの兄ちゃんを治してやってくれ。

 なんか、大分疲れてるみたいだから」

「はいはい」

 そこでこの場にいるのが、その男だけでないのに気づいた。

 声のした方に目を向けると、女が立っている。

 こちらもまだ若い。

 男と同年代くらいだろうか。

 その女がカズヤの横に膝をつき、掌をかざしてくる。

「じっとしててね」

 そう言うと、女の掌が光り出した。

 驚いたが不気味さは感じない。

 ありえない現象なのに、なぜか安堵を覚えた。

 その手がカズヤに触れると、体に活力がわいてくる。

「どう、効いてる?」

「え、あ、あれ?」

 言われてる意味は分からないが、体はかなり軽くなった。

 ここ何年か感じた事の無い程に。

「戻ってる……?」

 こうなる前の状態を思い出した。

 当たり前になっていた病気のような状態になる以前を。

 体や頭が軽い。

 靄がかかったような状態から解放されている。

 思わず手足を動かしていった。

 まだ本来の調子ではないようだったが、今までに比べれば格段に体の調子は良くなっていた。

「大丈夫みたいね」

 それを見て女も笑顔を浮かべる。

 絶世の美女というわけではないが、十分魅力的な顔立ちをしていた。

 その事に気づいて緊張していってしまう。

「あ、ありが、とうございま……す」

 礼の言葉もそんな風に震えてしまう。

 それを見て女は笑みを苦笑じみたものにしていく。

「その調子なら大丈夫そうね」

 それから男の方を見る。

「あっちもすぐに終わるから」

 その通りだった。



 絡みつく蔦、あるいは根だろうか。

 それが男の体に巻き付いてるが、気にしてないようだった。

 それどころか、太い茎をしっかり握り、化け物じみた花をしっかり捕らえている。

 ただ、それを植物として見てよいのかは悩ましい。

 赤黒い茎と葉、かろうじて赤と言えるほどどす黒い花。

 カズヤの知る限り、そんな植物は地球上に存在しない。

 もしかしたらこの世のどこかに存在してるのかもしれないが、この近所には存在しない。

 おそらく日本国内にも。

 そもそも花の部分だけで直径五十センチ以上ある。

 茎の長さは一メートルくらいだろうか。

 曽於代わり蔦のような根は数メートルくらいの長さがある。

 こんなのが果たして自然に存在するのか疑わしい。

 どこから出て来たんだと思ってしまう。

 そして、そんなものが自分に絡みついていたのかと思うと怖気がはしる。

「妖花かな」

 隣で女が呟く。

 それが男の手にした化け物の事らしい事を何となく感じた。

「大分育ってるみたい」

「はあ……」

「たぶん、君に取り憑いてたんだろうね」

「はあ……」

 生返事をしてから、「えっ」と驚く。

 トリツイテイタという言葉がすぐに頭の中で本来の意味に変換されていく。

「取り憑いてた……?」

「うん。

 君に絡みついてたし。

 たぶん、ずっと養分を吸われてたんだと思うよ」

 言われて納得してしまう。

 原因不明の体のだるさなどの原因が、目の前の不気味な花にあるというのを。

「あれなんですか……体がだるかったのって」

「たぶんね。

 君がどんな風だったのかは分からないけど」

 何ともいい加減な答えである。

「でも、もう大丈夫だから」

 その声に応じるように、男の手から何かが閃く。

 男に絡みついてる蔦のように、それはのたうち回るように妖花と呼ばれたものにまとわりついていく。

 鈍い銀色のそれは、ヒュンヒュンと音をたてて茎や葉を打っていく。

 触れた所から鋭利に切り裂いていきながら。

「あれって……」

 それを見て、風切り音を聞いて悟る。

 男が握ってるあたりから出ているそれが、よくしなる金属なのだと。

 それが妖花を切り刻んでるのだと。

 妖花はそれによって体を刻まれていく。

 それに蔦状の根をからませていくも、触れた部分からすぐに切り裂かれていく。

 寸断された部分は、その瞬間から塵状に消えていく。

 最後に残った花の部分も刃のように薄く細長い金属鞭にまとまりつかれる。

 それらが花にくいこんでいった。 瞬きをするうちに花も細かく刻まれる。

 その時、何か硬いものを打ち砕く音が聞こえた。

 それが、カズヤが初めて目にした、核を破壊する瞬間だった。

 化け物が完全に消散していく。

 男はそこで、

「終わったぞー」

と間延びした声をあげた。

 光る掌から金属鞭を何本も出しながら。 

 その言葉通り、花の形をした化け物は霧のように消えて消滅していった。

 続きは明日の17:00予定。

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