43話 現地 → 襲撃
(そのまま進んで来るか)
もうちょっと警戒するかもと思っていたが、そうでもない。
それだけの実力があるのか、無謀なだけなのか。
見つめてる方からは計りかねてしまう。
愚かであるならそれに越したことはないのだが。
ただ、何らかの考えや策があってのことなら、という警戒はしている。
何の考えもなしに突っ込んできてるとしても、油断が出来る連中ではない。
これまで幾つものヨドミが、目にしているこの者達に破壊されているのだから。
単純な戦闘力なら封印派など比べもにならない。
彼らの中でも、それは共通する認識だった。
簡単に倒せるとは思えない。
だが、どれほど犠牲をはらっても倒せるならそれで十分である。
今日をもって脅威が失われるのだから。
自転車を止める。
ヨドミまであと少し。
二百メートルはきってる位置にまで来ている。
だが、そこから先に進むのを躊躇った。
「どうしたの?」
同行してる者が尋ねる。
とはいえ、聞いた方もその理由はなんとなく察している。
この場にやってきた彼らは、この場における異様な雰囲気を既に察知している。
ヨドミがあるとか、そこから出てきた化け物が周辺に出回ってるとかいう話ではない。
それを超えるほどの圧迫感やおぞましさを感じていた。
「囲まれてる、たぶん」
カズヤははっきりと口にした。
指示器に反応は無いが、確かに何かがいる。
迫ってきている。
それを無視することは出来なかった。
「戻るぞ」
向きを変えてやってきた方向に進もうとする。
どんな敵が出てくるか分からないだけに、無理をするわけにもいかない。
無理して進む必要は無い。
相手がどんなものなのかを見極める必要も無い。
最初に決めたとおり、危なければ逃げるだけである。
無理して戦う必要はないし、何かを掴むまで粘ることも無い。
腰抜けといわれようと生き残るのが最優先だった。
その理由が確証のない直観であったとしても。
むしろ、直観を信じて行動していく事が望まれている。
見えない聞こえない感じない、気力を用いても検出できない事もある。
だが、それでも何かしら感じるものがあればそれに従う。
不思議とそんなものがこれまで彼らを生きながらえさせてきた。
理論や理屈よりも確かな生存手段といえる。
ただ、それに従うにしても遅すぎたかもしれない。
嫌な感覚はずっと続いていたし、ここに来るまでに引き返そうと思ったことは何度もある。
にも関わらず、あと少しの所までやってきた。
引き返し始めた彼らが数十メートルも進まないうちに境界化に巻き込まれたのは、そのせいであったかもしれない。
自転車をおりてすぐに武器を手に取っていく。
携帯可能な様々な武器を握った一同は、やってくるであろう脅威に備えて背中をあわせていく。
その中の一人が、周辺の様子を探るために探知を始めていく。
他の者も指示器に目をむけ、どちらの方向からやってくるのかを確かめる。
「おいおい……」
その結果に唖然とする。
「これ、どういう事だよ」
「あっちこっち指してるぞ」
ヨドミや境界ではない現世において能力が限られる指示機などであるが、異空間と言える場所では本来の能力が発揮される。
あまりに拡大しすぎるので細かな探索や捜索には使いづらくなってしまうが、大雑把に相手の位置を把握するには十分な場合もある。
しかし、今回はそういうわけにもいかなくなっていた。
「針が回ってるよ」
おそらく敵をとらえてるのであろうが、方向が一定しない。
西を指したと思えば北を指し、また西に戻ったら今度は南を指す。
そんな調子であちこちを不規則に指していく。
「…………まずいぞ」
周辺に気を張り巡らせて探知をしていた者が、その理由になるであろう事実を口にする。
「囲まれてる。
かなり多いぞ」
指示機が混乱してるのはそのせいだったのだろう。
探知範囲の様々な場所に化け物がいるのだ。
「どうする?」
「やるのか?」
その声がカズヤに向けられる。
この中で最も長く活動を続けてきていたので、何人か集まった場合は自然とリーダー的な役目になっている。
そんな柄ではないと本人は思っているが、それを投げ出すつもりはない。
今回もすぐに決断を下す。
「逃げるぞ、行ける所まで」
そう言って自転車を起こした。
武器をすぐに取り出せる位置にしまってから。
戦うのも一案であるが、それはここで無くてもよい。
とりあえず退けるだけ退いて、それから応戦するかどうかを決めればよい。
そもそも今いる場所は道のど真ん中である。
こんな所でやってくる敵を素直に迎える意味が無い。
動き回って少しでも有利な状況を作る。
うまく逃げ出せれば儲けものだった。
「数が一番少なかったのはどっちだ?」
「右斜め前の方」
探知していた者が答える。
「じゃあそっちだ」
まず少ない所をたどっていく。
その上で逃げられなければ応戦する。
何も敵が来るまで待つ必要もないし、数の多いところを狙うことも無い。
倒しやすいところからやっていく。
動き回ることで、それを選ぶ自由を手に入れる事も出来た。
「でも、逃げられるのか?
化け物がいるうちは境界からは出られないんじゃ」
移動途中でそう聞かれる。
「まあな」
難しいのはカズヤにも分かってる。
基本的に化け物を倒さない限り境界からは逃れられない。
だが、それは相手が追ってくるからである。
ヨドミがそうだが、固定されてる場所などからは脱出も出来る。
化け物も追跡をしてこなえれば逃げ出すことは出来る。
境界化がはじまるのは、人と化け物の距離が一定以下に近づいたときなのだから。
もっとも、たいていの場合化け物は人間に迫ってくる。
境界から逃げ出すことが出来ないのはそのためだった。
事実上、化け物を倒さなければ境界から逃げ出せない。
来た道を戻っているのも、それを考えれば意味のある事ではない。
それでも、もしかしたらという可能性もある。
ある程度敵を撃破する必要もあるだろうが、全部を相手にしなくても良い。
何はともあれ動き回る事。
それが今出来る最善の手段だった。
(へえ……)
相手の動きを見て少しばかり感心する。
少し奥に入りこんでるように思うが、撤退していくのは意外だった。
多少は頭を使ってるように思える。
おかげで全体の動きを少しばかり変えねばならなくなった。
彼らを少しでも止められるように。
犠牲は仕方が無い。
上手くいくかは分からないが、やってみるしかなかった。
続きは明日の17:00予定。
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