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【打ち切り】クラガリのムコウ -当世退魔奇譚-  作者: よぎそーと
三章

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35話 中心部 → 封印

「ひ……」

 倒れた男の目の前に、巨大な口がある。

 それが開いた直後、前歯が男の体に突き刺さった。

 鋭い前歯に強烈な顎の力が加わった。

 歯といっても鉄と同等の硬度を持ち、刃のような鋭さを持っている。

 いとも容易く男の体を貫通し、胸に突き刺さった。

 肺に集まっていた血液があふれていく。

 空気を取り入れる場所であるそこに液体が満ちていく。

 地上にいながら男は窒息をし始めていった。



「急げ!」

 リーダーの声で、呆然としていた者達が気を取り戻す。

 男に食いついてる巨大ネズミに飛びかかり、手にした武器を叩きつけていく。

 日本刀に手斧にマシェットなどが巨大ネズミに打ち込まれる。

 気力を込めた一撃は、ネズミの体表を削っていく。

「ネズミを引きはがすんだ。

 治療の準備を」

 攻撃する事で体を突き破られた者から引き離し、その間に治療をするつもりである。

 なのだがネズミが動く様子がない。

 攻撃は当たってるが、さほど効果が出てないようで、はじき飛ばすまでにはならない。

 それどころか、攻撃してきた者の一人にのしかかっていく。

「うあっ!」

 体の大きさが違う。

 体重が違う。

 力が違う。

 気力を用いてすら補いきれない差が近くにいた一人を襲う。

 のしかかられたそいつの頭を前歯が遅う。

 犠牲者が二人になった。



 最初の一人から巨大ネズミがはなれたのは良いが、状況は好転しない。

 倒れた一人に治療が使える者が駆け寄り、気力を用いていく。

 しかし、体を貫通するほどの傷を治すには、治療の効果は小さすぎた。

 自然回復に頼らない、瞬時に体の損傷部位を修復する治療術であるが、一度に治せる範囲はレベルによる。

 治療を施してる者のレベルでは、体の貫通を治すほどの効果を出す事は出来ない。

 何回も気力を治療に用いていけば傷をふさげるだろうが、その前に出血多量か窒息で死にかねない。

 そもそも、まだ化け物の近くである。

 落ち着いて治療するには、怪我人を移動させねばならない。

 しかし、そんな余裕は無い。

 二人が戦闘不能になったので、その分の負担が他の者達にかかっている。

 ここで人を減らすような事をしたら、それこそ化け物に良いように蹂躙されてしまう。

 リーダーをはじめとした前衛達が必死にとりかかって、ようやく足止めが出来てるくらいなのだから。

 そうしてるうちに、更に一人がネズミに吹き飛ばされた。

 体当たりで文字通り飛ばされた男は、すぐさまよってきたネズミに前歯を突き立てられる。

 腹に食い込んだそれは、背骨まで食い込んでいった。

 内臓にも当然突き刺さり、いくつかの器官が破壊される。

 これで三人が戦闘不能となった。

 頭を砕かれた二人目の犠牲者はともかく、他の二人は治療が早ければ助かるかもしれない。

 しかし、怪我があまりにも大きすぎて、即座に治療する事も出来ない。

 それでも治療を続けてはいるが、既に手遅れといっても良い状態だった。

 そうしてる間にも化け物は他の者達に襲いかかっていく。

 リーダー達もどうにか戦っているが、不利なのはどうにもならない。



 ユウキやアヤナもそれは見えていた。

 後方からやってくる化け物を相手していたが、後ろを振り向く余裕はある。

 状況が最悪になりそうに思えた。

(まずいよね)

 倒れてる者がいるのを見て、非常手段をとる事を考える。

 回りにいる者達とアヤナ。

 それらと共に、このヨドミを脱出する。

 もし、封印が無理ならばそうするしかない。

 かなり厳しい事になるが、やってやれない事はなさそうではある。

 ただ、そうなる前にどうにかなって欲しいところだったが。

(頑張ってよ、リーダー)

 形勢がどうなってるのかは分からないが、まだ自分達に勝ち目が有るよう願っていった。

 儚い望みかもしれなかったが。



 幸いにも、続けていた攻撃がかなりの功を奏していた。

 巨大ネズミの体はかなり損壊し、核が見えてきてる。

「あと少しだ」

 声をあげて全員に希望を抱かせる。

 まだこれからなのだが、気分を少しでも高めておきたかった。

 最後に必要に鳴るのは、必ずやり遂げると言う意志になる。

 これがなければ、途中でくじけて逃げ出しかねない。

 今は逃げるのが最善なのかもしれないが、ここまで来てそれは避けたいところだった。



「足を狙え」

 定石通りの指示が飛ぶ。

 巨大ネズミの手足もそれなりに傷を負ってるが、まだまだ動きを止めるにはいたってない。

 動きは鈍っているが、まだ予断をゆるさない状況だった。

 まだ動き回れる者達が手足を狙って武器をふっていく。

 ネズミの方もそれを避けて攻撃しようとするが、それもままならなくなってきている。

 今まで受けた傷のせいで動きがどうしても鈍くなってしまっている。

 攻撃にしろ回避にしろ、どちらも上手く出来なくなっていっている。

 それでもどうにか動き回れているが、戦闘が出来るほどではない。

 取り囲む者達はこれを好機と一気に攻撃をしかけていった。

 剥き出しにした核の周囲を更にひろげていく。

 ネズミの体が更に消えていった。

 悲鳴を上げてのたうち回るも、ネズミもまともに行動が出来る状態ではない。

 振りおろされる武器によって核は更に剥き出しにされていく。

「封印するぞ」

 ここに来てようやく目的に手がつけられるようになる。



 封印の能力を持つ者が、核に直接触れて活動を停止させていく。

 気力で核をくるみ、周囲に与える影響を遮断させていく。

 核は周囲に影響を与えていく根源であり、同時に周囲から気を吸い取ってもいる。

 その気の流れを遮断する事で、活動を停止させる事が出来る。

 ただ、一回でどうにかなるわけではなく、効果が出るまでこれを続けていかねばならない。

 核の周囲に気力の壁を作る形になる。

 その為に、核の表面に気の膜を作っていく。

 それが進むごとに、巨大ネズミの体も少しずつ消えていく。

 ユガミも核で成り立ってるのだから、気力が遮断されていけば体を維持出来なくなる。

 気力の遮断が完全なものになるまでそれを続ける。

 封印はこうしてなされていく。



(いけるか……?)

 不安がリーダーの胸にわいてくる。

 戦闘でかなりの消耗をしてしまったので、 封印を完了できるほど気力が保つかが分からない。

 それが出来る者が次々に核に触れていってるが、少しばかり心許ない。

 三人が倒れたために、戦闘で消費してしまった気力がかなりのものになっている。

 もしかしたら、という思いを抱いてしまう。

 それに、ここで封印が出来たとしても、帰りをどうするかが問題だった。

 倒れてしまった者達を放置するわけにもいかない。

 一人は即死、残り二人も致命傷。

 生還は絶望的である。

 それらを担いで入り口まで戻れるか悩ましい。

(仕方ないか)

 覚悟を決める。

 一人でも多く生還するためには、ある程度の割り切りも必要になる。

 自分達にとりうる最善の手段を考え、リーダーはこの先の事を考えていった。

 その三人がアヤナに言いがかりをつけていた連中であったのが、多少はリーダーの気持ちを救った。

 いくら仲間であったとしても、いや、仲間であるからこそ仲間を侮辱するような輩を許してはおけない。

 今回の死が、巡り巡ってやってきた自業自得なのだろうと思う事にした。



 封印はギリギリのところで成功した。

 気力が核をくるみ、気のやりとりを遮断している。

 それを持ってきた木箱に入れて、封印の効果を持たせた札を貼り付ける。

 札は周囲の気力をとりこみ、核との間にある気力の膜を維持していく。

 これでユガミが気力を回復させて復活する可能性を大分減らせる。

 また、ヨドミの活動はかなり凍結できたはずだった。

 この化け物達の拠点であり、住まいであり、生まれてくる場所を停止させる。

 それだけで化け物の動きをかなり抑える事が出来るようになる。

 少なくともここから新しい化け物が出て来る事はほとんどなくなる。

 だが、あくまで封印なので、時間の経過と共に効力が弱まってしまう。

 そういった小さなほころびがユガミの復活につながる事もある。

 封印はあくまで一時しのぎであって、恒久的に化け物を払いのける事は出来ない。

 それでも、ユガミを倒してヨドミと共に周囲を変化・崩壊させるよりは良い。

 そう思って彼らは封印を施していく。

 あと残った化け物を倒せば終わる。

 新たな化け物が誕生しないのだから、残ったものを倒せばこのヨドミが脅威になる事はない。

 しかし、今回はそんな余裕がない。



「帰るぞ」

 気力も体力も道具も消耗している。

 ここから更に敵と戦う事など不可能だ。

「塩をかけておけ。

 化け物が封印を剥がそうとするかもしれないからな」

 敵が残ってる場合、それもありえる。

 だからこそ、封印後の残敵掃討が必要になる。

 封印そのものが化け物を弾くようなものなので、簡単に解かれる事は無いが。

 それでも、念には念を入れておいた方がよい。

「あと、そいつらにかけてやってくれ」

 ユガミの攻撃を受けて深手を負った者達を指して言う。

 頭を潰された者はもとより、胸と腹を突き刺された二人ももう息をしていない。

 本来なら持ち帰らねばならないが、そうしている余裕もない。

「後で回収に来よう」

 こんな所に放置するのは忍びない、というだけではない。

 死体などが残っていると、それはそれで厄介な事になる。

 なので犠牲になった者も、可能な限り連れて帰るようになっていた。

 今回、そうも言ってられないので塩をまいておく。

 これも化け物が簡単に手を出せないようにするためだった。

 次に来た時のために。

 次があればだが。

「じゃあ、帰るぞ」

 中心であるこの部屋に至る道にはまだ化け物がいる。

 それらを突破せねばならない。

 封印をしても全てが終わったわけではない。

 万全にはほど遠い状態でやらねばならない。

 銃を持った者達に道をふさぐ化け物を撃たせていく。

 残弾も少ないが惜しんでる場合ではない。

 そうやって道を切り開き、無理矢理にでも突っ込んでいく。

 他に手段はなかった。

 続きは20:00予定。

 誤字脱字などありましたら、メッセージお願いします。

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