30話 出動要請 → 合流/突入
「それじゃ、行くぞ」
最後にやってきた者達も含めてヨドミに入っていく。
最終的に十四人が集結し、その中で最も経験の長い者が指揮を執っていく。
率いられたユウキとアヤナも、先に入っていく者達に続いて続々とヨドミに入っていった。
「行こう」
「はい……」
緊張しおののいてるアヤナの手を握り、ユウキは中に入っていく。
引っ張られつつゆっくりとアヤナも続く。
ごく普通の住居の庭にある物置のような小さな小屋。
その戸を開いて踏み込むと、空間の中に消えていく。
まるで水面に入っていくように、入っていく者達の体の縁から波紋が生まれる。
それでいて物置小屋の中に人影はない。
見ていたアヤナは、おののきが怖じ気に変わっていくのを感じる。
だが、引き返すことも出来ない。
つないだ手に引っ張られながら、アヤナもその中へと入っていった。
「え……」
「驚いた?」
驚いてるアヤナに声をかける。
始めてヨドミに入った者はたいてい同じような反応をする。
外から見たのと違った景色がひろがるヨドミである。
最初は戸惑うのが当たり前だった。
今回もそれは変わらず、中はかなりの広さをもっている。
物置、という基本は同じだった。
工具や普段使わない道具が床や棚におさまっている。
だが、広さが違う。
倉庫のように棚は高く何段もある。
天井まで、高さは何メートルかある。
それが暗がりの中で続いてるのが見えた。
「棚で通路みたいに仕切ってるようね」
灯りをつけて先を見渡すユウキが周囲の様子を口にする。
その言葉通り、棚が並んで通路のようになっていた。
その棚もよくよく見るとほとんど空のようだった。
道具や木材などは、時折見るが全部を埋めるほどではない。
「これって」
「まあ、こんなもんよ。
ヨドミってのは」
説明にもなってない説明がアヤナにされる。
「どうしてこうなってんのかは分からない。
けど、ここのヨドミは物置を元にして出来上がってるみたいだから。
それがこれだけ大きくなってるって事なんだと思う」
「はあ……」
何とも不可解な話だった。
「でも、やる事は同じだよ。
奥にいって、この場所の中心になってる奴を封印すりゃいいんだから」
かなり乱暴だが、その言葉はそれなりに納得させる何かはあった。
ヨドミがどんな場所で、何の為にあるのかは分からない。
ここがどうしてこういう形になってるのかも。
だが、やらねばならない事はユウキの言葉の通りに単純だ。
中心であるユガミを倒すだけなのだから。
だが、単純であっても簡単なわけではない。
懐中電灯などで照らされる通路は先が見えない。
その先に続く暗がりに、闇への本能的な恐怖が呼び起こされていく。
「じゃ、これお願いね」
言われて渡されたのは、細長い懐中電灯だった。
長さは五十センチくらいありそうだった。
かなり硬い物質で出来てるらしく、緊急時には殴りつける棍棒の代わりになると言う。
ただ、出来るだけそういう使い方はしないようにとも言われてる。
先端についてる電球が壊れるからだ。
その電球も変わった形をしていた。
いわゆる懐中電灯の豆電球ではない。
電球状のREDライトが取り付けられるようになっていて、それが周囲を明るく照らしている。
一般的な懐中電灯のように、一方向に光をあててるのではない。
ヨドミの探索のために特注で作ったという。
遠くまで照らす事はできなくなるが、周囲数メートルを明るく照らし、視界を確保出来る。
この照明を持つ者を中心にし隊列を組んでいく。
今回、新人のアヤナがこれを持つ事となった。
特に役立つ能力を持ってないのだから当然である。
また、守るにしても全体の中央にいる方がやりやすい。
そのため、自然とこの役目を任される事となった。
他にも、簡単に使える道具を幾つか渡されている。
お清め用の塩をはじめ、ほとんどがアヤナに任される事となった。
他の者もある程度は所持してるが、基本的にアヤナがかなりまとめて持つ事となった。
「よろしく頼むよ」
ユウキの言葉にアヤナは硬い顔で頷く。
何も出来ないから回されてきた道具であるが、それらも貴重な戦闘手段である。
荷物の重みがそのまま責任の重さでもある。
時折よろけそうになるも、任された事はやりきろうと思った。
持ってきた道具の一つである線香を焚いて、香箱に入れる。
魔除けの効果があると言われてるそれは、化け物の接近をある程度防いでくれると言われてる。
効果時間は短いが、貴重な防衛手段である。
これを絶える事無く継ぎ足していくのもアヤナの仕事である。
選考を入れた香箱を腰に巻き付ける。
他にも何人かが同じように線香を入れた香箱を腰に巻き付けていた。
遠距離攻撃を任され、隊列の中心に位置する者達である。
それらを中心にまとまり、陣形を作っていく。
「じゃあ行くぞ」
リーダーの声に従い、十四人は奥へと進んでいった。
「探知を」
ある程度進み、曲がり角などに出くわすと、そういう指示が出る。
言われて、香箱を吊した者が探知のために気を周囲に張り巡らしていく。
探知の術を身につけてる者が暫く様子を伺い、その結果を口にしていく。
「右の道は、奥に部屋がある。
そこから先がどうなってるかは分からない。
まっすぐいったら、突き当たりを左に曲がるようになってる。
分かるのはそこまで」
「化け物は?」
「右の部屋の方には気配がある。
まっすぐいった方は分からない」
あまり遠くまで響かないように声は潜めている。
それでも言ってる事は全員の耳に入る。
邪魔にならないように皆が音を立てないようにしてるために。
誰もがどちらに行くのかを気にしていく。
定石通りなら、右に進んでいくだろう。
敵のいる方にヨドミがたまってるというのは基本である。
また、敵を放置してると前後からの挟み撃ちや帰りに遭遇する可能性も出てくる。
無理をしてはいけないし、無駄な戦闘は避けるべきではある。
なのだが、片付けられる脅威を放置するのも同じくらい問題であった。
だからこそ悩むものがあっと。
話しを聞いてから数十秒。
待つには長く、決断するには短い時間だろう。
「行くか」
リーダーは決めた。
「全員用意しろ。
右の方を先に片付けるぞ」
全員がそれにならう。
全員が自分の持ってる攻撃手段を用意していく。
接近専用の武器を手に取る者もいる。
猟銃や散弾銃を手にしてる者もいる。
支援団体がいるおかげで、所持が難しかったり許可がいるような武器も手に入れている。
同士討ちにならないように隊列を変え、目的の方向へとむかっていく。
殺傷力のない電動ガンなどのオモチャではない。
正真正銘の銃器を持ってる者達がいる。
それらが味方に向けて発砲したら大惨事になる。
この中にも治療の術を心得てる者はいるが、それでしっかり治療できるかもあやしい。
当たり所によっては即死になる。
それを避けるために、銃を構えてる者の前に人が立たないように注意をする。
それでいて接近戦を担当する者達は、すぐに前方に出て後方を守れるような位置にいる。
日頃から集団で行動する事を念頭に考えてきた結果である。
それらの後ろに、灯りを手にしてる者達が続き、最後尾を奇襲に備えた者達が固めている。
ユウキも手に投げつけられる道具を持ってアヤナのそばにいる。
アヤナも塩などの道具を手に取ってそれを投げつけられるようにしている。
それ以外の道具も、肩にかけた鞄から取り出せるようにしている。
目的の部屋までの間に、一行はすぐに戦闘に突入出来る状態に入っていった。
続きは明日の17:00予定。
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