29話 封印派 → 出動要請
「ちょっと、どういうつもりよ!」
かかってきた電話に出たユウキが、携帯を握ったまま怒鳴った。
何事かと思ってるアヤナの前で、ユウキは言葉を更に続けていく。
「まだそんな状態じゃないでしょ」
荒げた声はそのままに、話しは進んでいく。
電話の相手が何を言ってるのか分からないので、内容は不透明だった。
だが、あまり良い事でないのは伺える。
(何があったんだろう)
そう思いつつ電話が終わるのを待つ。
数分して話しを終えたユウキに、「あの」と声をかける。
「今の電話、何かあったんですか」
「ああ、ちょっとね」
電話をしてる時と違い、声は落ち着いている。
ただ、憤りはまだ残ってるようだった。
アヤナにそれを向けてないだけで。
「ごめん、アヤナ」
「はい?」
「悪いけど、これから付き合って」
「え?」
「仕事が回ってきた」
そういうユウキは、アヤナの方を向こうとはしない。
ただ、言ってる事から何が来たのかは分かった。
目的地まで歩いてる途中で、教団の車がやってきた。
どこにでもあるような乗用車。
その助手席から出て来た者が、ユウキとアヤナを手招きする。
「行こう」
アヤナの手を引き、ユウキがそこに向かっていく。
道路脇に停められた車に、アヤナも向かい後部座席に入っていく。
二人が乗り込むのを確かめて、車は動き出す。
「急に呼び立ててすいません」
助手席の男がまずそう言ってきた。
「なにぶん、急に見つかったものなので。
予定がまったくたたなかったんです」
「それで非番の私たちに?」
「はい。
動ける他の人達も駆けつけてもらってます」
「そう」
ため息を吐くユウキに、助手席の男は「申し訳ありません」と言って頭を下げた。
アヤナもただ事ではないと嫌でも実感する。
「でも、道具とかはどうするの。
用意はしてあるの?」
「出来るだけ持ってきました。
トランクに入ってます。
足りない物も、現地に運び込んでる最中です」
「本当に急なのね」
「ええ。
最近、崩壊派の動きも活発なので。
急いで封印しておかないとどうなるか分からないんです」
「まったく……」
ため息だけでなく舌打ちまで出て来る。
「あいつら、本当に碌なことしないわね」
「まったくです」
助手席の男もうんざりしている。
「今月に入ってから結構なヨドミの崩壊があったようですし。
どこで見つけたのか、封印していた所も破壊されたみたいです」
「はあ?」
寝耳に水だった。
「何それ?!」
「我々も詳しい事は分かってないんですが、調査中の専門家の方々がそれに気づいたようで」
「ちょっと、それって」
「おそらく、周囲にも変化があったでしょう。
どのくらい崩壊してるかは我々には分かりませんが」
「…………何してくれるのよ、あいつら!」
頭をかかえ、髪をかきむしる。
「それで、急いで封印に回るって事?」
「はい。
破壊されるより先に封印をしてこれ以上の被害を防ごうと。
そうすれば発見は遅らせる事が出来るはずです」
「焼け石に水ね」
それは否定出来ない。
今回、封印された場所すら特定されて破壊されている。
なら、先回りして封印をしてもいずれは見つけられるだろう。
封印すれば発見が困難になるが、時間の問題でしかない。
それでも、何もしないでいるわけにもいかない。
「……やるしかないか」
「お願いします。
今、我々に出来るのはそれくらいでしょうから」
「分かった」
仕方なく、本当に仕方なくユウキは納得した。
「でも、この子まで連れて行くのはどうなの」
隣に座るアヤナについてである。
「まだ何も知らないのよ。
それなのに?」
「人がいないんです」
答えは短かった。
だが、全てを物語っていた。
「今、同時進行で十二のヨドミに対処してます。
人員はそれらに振り分けられていて、こちらに対処する余裕がありません」
封印派は確かに人数が多い。
だが、それだけの場所に対処してるのだから人手も足りなくなる。
そんな所に、新たに対処する場所が一つ二つ増えたら、それだけで手におえなくなる。
「やるっきゃないか」
やむをえない。
状況を考えれば多少は無理をしなくてはならない。
「どれだけ回ってくるの?」
「今連絡をとれてる方だけで八人。
お二人を入れて十人。
あと五人ほど予定はしてますが、時間までに集まらなければその時にいた人数で対処するしかありません」
「時間って?」
「状況を鑑みて、あと一時間以内に行動を開始していただきたいと考えてます。
ですので、それまでに集まった方々で封印を施してもらう事になるかと」
「きついわね」
アヤナのような、現在全く戦力として数えられない者も含めてである。
上手くやれる自身はなかった。
やるしかないが。
「アヤナ」
「はい……」
「悪いけど、頑張ってもらうよ」
もうどうしようもない。
無理矢理引きずり込むわけにはいかないが、人手が絶望的に足りない。
「出来るだけ助けるから」
根拠のない言葉である。
ヨドミに突入したらどうなるか分からない。
だが、出来るだけアヤナを守れる位置にいようと思った。
ヨドミの発生現場で既に集まってる者達と合流する。
とはいっても、実際には少し離れた所にあるコンビニで顔合わせとなった。
そこも住宅地の中なので、大勢で集まると不審に思われてしまう。
なので、ある程度の人数があつまっていてもそれ程目立たないコンビニが集合場所となった。
必要になる道具はこれから運び込まれる。
気力を込めた道具や、塩など簡単に使えるものなどがやってくる予定だった。
それらはヨドミに入る直前に渡される事になる。
増援も、おそらくはヨドミの前で合流する事になるだろうと思われた。
移動にかかる時間などを考えればそうした方が無駄がない。
ただ、追加で人が集まるかは悩ましい所だった。
誰もが忙しいし、休息をとってる者もいる。
遠くに出ている者もいるだろうし、簡単に集まれるわけがない。
こればかりは祈るしかなかった。
「どうなるんですか、これから」
コンビニの外、自販機で買ったジュースを飲みながらアヤナが不安を口にする。
これが初めてなのだから無理もない。
しかも、本来ならまだまだ実戦は先のはずだったのだ。
ヨドミではどういった行動をしていくのか、という事までは伝えきれてない。
ユウキもそれはさすがに懸念していた。
「まあ、無理はしないで。
他の人と絶対に離れないで」
最低限の注意としてそれを最初に伝えた。
「中に入ったら、どこから出て来るか分からないから。
なるべく他の人と一緒にいること」
そういって頭に手を置く。
「私も出来るだけ傍にいるから」
あらためてそう言う。
実際、そうしないとまずいと思えた。
ユウキとて余裕があるわけではなくなるだろうが、それだけは果たそうと思っていた。
「危なくなったら逃げるからね」
何より大事な事である。
封印作業は一回で終わらない事もある。
突入と撤退を繰り返し、内部の様子を探りながら進む事もある。
人数がどれだけいても、それだけ厳しいのが封印作業である。
特にユガミへの対処となると、どれだけ人数がいても足りなくなる。
だからこそ、まだろくろく力も使えないアヤナを連れ回すわけにはいかない。
(逃げ出す事も言わなくちゃいけないな)
誰がリーダーになるか分からないが、危なくなったら進言しなくてはいけない。
でなければ、無理して奥まで進む事になりかねない。
今までだって、逃げ出す機会を見逃したり無視して帰って来れなくなった者はいる。
そうなるわけにはいかなかった。
(話しを聞いてくれる人ならいいけど)
そういうリーダーであって欲しいと切に願った。
変にやる気のある人間はいらない。
続きは20:00予定。
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