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【打ち切り】クラガリのムコウ -当世退魔奇譚-  作者: よぎそーと
十二章

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100話 回想2:対談

「これがこっち側の意見だ」

 そう言って手渡された紙には、要望が書かれていた。

 まとめれば、

『市内に出回ってる化け物をどうにかしてもらいたい』

となる。

 しかし、それに目を通してすぐに問題点を見いだしていく。

「なんだこれ?」

 封印派の内部に探りを入れていて、今は双方の連絡役を任されていた者はすぐに食ってかかった。

「言いたい事言って、見返りはなしかよ」

 ライターを取り出して火をつける。

「ふざけんのも大概にしろ」

 そのまま紙を燃やした。

 相手への意思表示でもあるが、指紋などを残さないための手段でもある。

 もちろん、仲間に持ち帰る事もないから、要望は決して通らない。

 そのあたりを相手に分かりやすく示すつもりもあった。

 だが、相手はそれを意に介した様子もない。

「まあ落ち付けって。

 そっちにとっても悪い事じゃないだろ」

 思ってもいない態度だった。

「なんだと?」

「確かにそこには何も書いてないが、こっちだって手ぶらってつもりはない。

 ただ、表だってだと立場ってもんがある。

 分かるよな?」

 そこまで言われて交渉に立ってる男も理解した。

 相手の思惑を。

「まあ、俺達だってお前らに煮え湯を飲まされ……」

「調子こいてんじゃねえ」

 相手の言葉を遮る。

「そっちがその気なら自分らでどうにかしろ」

 相手を睨みつけて言った。

 声は荒げてないが、押さえつけて抑揚のなくなった声が逆に怒りと憤りを示している。

 しかし封印派の方はそれすらもまともに受け取らなかった。

「おい、待てって」

 交渉役の男の肩に手をかける。

 それが振り払われる……というより、上手く引っかけて体を回転、交渉役の男は振り向きながら相手の腹に蹴りを入れた。

 交渉を任されてるとはいえ、普段は化け物相手にしてきてる交渉役である。

 この程度の事は難なくこなせる。

 ついでに体を折り曲げた相手の顎に拳を打ち込む。

 頭を揺さぶられ、封印派の方は動きを瞬時止められた。

 更に二発三発と打撃をいれ、相手を地面に跪かせる。

「ふざけんのも大概にしろ」

 日頃の鬱憤も合わせて、相手に一撃一撃をお見舞いしていく。

 もちろんそれを相手が黙って見てるわけもない。

 周囲に潜んでいた封印派の連中が銃を手に飛びだしてくる。

 交渉役を囲むようにして銃口を向けていく。

 痛手から立ち上がった封印派の交渉役が痛みを堪えながら立ち上がる。

「ふざけんじゃねえぞ……立場ってもんをわきまえろや!」

 相手の事を考えない居丈高な態度でかみついてくる。

 この場に居合わせてるのが目の前の交渉役だけ、自分には仲間がいるという状況が優位を確信してるからだろう。

 相手も同じように周りに仲間を潜ませてるという事は考えているが、それでも数の上でまだ自分達が上だとも思ってる。

 今あらわれたのはこの場に潜んでる者達の全てではない。

 更に二重三重に人を潜ませている。

 相手がどれだけいても、この人数差があればどうにでもるなると思っていた。

 何せ境界やヨドミの中ではない。

 現実では、物理的な攻撃手段を揃える事が出来た方が有利。

 それは彼等もよく知っている。

 数において劣ってる崩壊派など、封印派からすれば大した事の無い相手だった。

 だが、彼等が見落としてるものがあった。

 確かに現実では封印派の方が有利であっただろう。

 社会的にも組織的にも装備の面においても。

 それを覆されたらすぐにその差は逆転するという事を。



 交渉役が隠し持っていた通信機から、拡大された音声が潜んでいる仲間に伝えられていた。

 衣服に隠してていても音声が拾えるほどの好感度集音器は両者のやりとりをとらえている。

 無線伝いにそれを聞いていた交渉役の仲間はすぐに動き出していた。

 彼等の更に後方で待機していた者達に連絡を入れ、移動を開始してもらう。

 自動車に乗った彼等は、そのまま交渉役のもとへと向かっていく。

 時間にすれば数分も経っていなかっただろう。

 だが、それだけあれば十分だった。

 彼等の移動に伴って動いていく境界が、交渉役達を包んでいくのだから。



 形勢逆転を感じ取っていた封印派の交渉役は、目の前にいた者がいきなり消えた事に驚いた。

「なんだ?!」

 突然目の前から相手が消えた。

 驚き慌てて当然だろう。

 周りを見渡しても姿は見えない。

 隙を突いて物陰にでも隠れたのかと思ったが、そんな事出来る訳がない。

 人通りが少ない寂れた通りの中である。

 周りに隠れられるような物陰はない。

 家の間に路地もない。

 家の周りに壁がこしらえら得てるなら、その向こうに飛び込んだという可能性もある。

 もっとも、どれだけ低くても人の背丈ほどの高さがあるそれを一瞬にして超えるのは難しい。

 崩壊派の能力が人間の上限に達してるという話しはよく聞いているから、そういう無理をこなしてしまう事も否定出来ない。

 だが、それでもいきなり目の前から消えるなんて考えられなかった。

 実際、身体能力で交渉役が消えたわけではない。

 使った手順は単純なものだった。



 後方で待機していた者達は、化け物を捕獲していた。

 生きたままで捕らえていたので、当然ながら境界が発生する。

 そのまま交渉してる者達の所まで向かっていったから、境界もそれに合わせて移動していた。

 境界に取り込んでしまえば現実では大きく威力を減退させる気力を用いる事が出来る。

 封印派の目の前から消えたのはこれが理由だった。

 気力を用いて封印派の目をくらませた事。

 更に、交渉役の周囲に幻影をかけ、彼の姿を消した事。

 どちらが効果があるか分からなかったから、どちらも同時にかけていた。

 これらは周囲で待機していた者達によってなされている。

 化け物が見えない者達がいきなり境界に取り込む事で、何かしらの影響を与える事も含めて対処として考えられていた。

 もっとも、一般人が境界に取り込まれたらどうなるかは分かってない事が多い。

 そこは「ついでに効果があれば良い」という程度のものでしかない。

 交渉役は無事にその場を逃れる事が出来た。

 もちろんそれでは終わらない。

 周囲を見渡して困惑してる封印派に近づき、それらを捕らえていく。

 目の前に接近してもカズヤの仲間達にまったく気づかない彼等は、頭から袋をかぶせられて捕らえられていった。

 また、捕らえた者達から強引に聞き出した情報で、周囲に潜んでいる封印派の位置も判明した。

 それらもついでに捕らえる事となった。

 人数が予想よりも多いので応援を頼む事になったが。



「で、どうするよ」

「どうするってもなあ……」

 決裂した交渉から帰る途中、車の中でそんな会話が始まっていく。

「向こうがこういう調子なら、こっちも考えるしかないだろ」

「考えるって?」

「そりゃあ……俺が決められるわけないだろ」

「まあ、そうだな」

「でもまあ、それなりにやるしかないんじゃないか。

 あんな態度とってきたんだし」

「だよな……」

 具体的な言葉は用いてないが、誰もが大まかな方向性は想像していた。

 今回、相手からそれなりの妥協案なり対価が出てくるなら協力もあり得たのだが。

 ほぼ一方的な要求しかなされてないならどうにもならない。

 見返りを用意すると言ってもそれは口約束でしかないから話にもならなかった。

 口約束という事は、後から幾らでも誤魔化す事が出来るという事なのだから。

 そこまで相手の善意に期待するわけにもいかない。

 一度は試しに、というのもありえなかった。

 これが次回も続くならまだ可能性はあるが、今回限りで終わるかもしれないのだから。

 継続しない関係の中で、善意による約束など何の意味もない。

 言いように利用されて終わるのが関の山である。

 信用してくれというのは、相手を騙す者の常套手段でもあるのだから。

 こういう場合、最低でも前金なりを持ってくるのが最低線であろう。

 終わったあとの成功報酬・後払いなど、信用がなければ成り立たない。

 そして封印派と崩壊派(封印派らによるカズヤ達の呼び方)の間にそんなものはない。

 払うものも払わずに利用しようというなら、それなりの態度をとるしかなかった。

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