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天宮の煌騎士〈ルキフェリオン〉  作者: 真先
【EpisodeⅢ. 神の迷宮】
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27. 聖者ノイシス

 最奥へと向かう扉が開かれた同時刻、機関部に居るメルクレア達の元へ襲撃者が現れた。

 扉を破壊し突入して来たのは、完全武装の機械歩兵だった。

 鈍色の機体の表面に所属を示すものは何も書かれてはいない。

 所属不明の機械歩兵は、けたたましい足音を立て次々と機関室へと突入してくる。

 

「な、なんなの?」

「異端審問委員会。教義に反する者を異端者と決めつけ始末する法王庁直轄の飼い犬よ」


 突然の襲撃に狼狽えるメルクレアに、ソフィーが告げる。


「奴らの狙いも《聖遺物》よ。どうやら、回収に失敗したようね。奴ら《パンドラ・ボックス》ごと破壊するつもりよ」

「あの機械歩兵、〈ハビリス〉だな」


 展開する機械歩兵の一団を見つめ、ゼリエスが呟く。

 ソフィー同様、いたって冷静であった。

 二人ともこの襲撃を予想していたのだろう、落ち着いた様子で腰の剣帯からゆっくりと光子剣を抜き放った。


「〈ハビリス〉って、採用を見送られた新型機の?」

「不採用になったとは言え、性能は旧型の〈エレクトス〉よりも格段に上だ。まともにやり合ったら手強い相手だぞ」

「あら、人斬りゼリエスが随分と弱気じゃない?」


 挑発するように言うソフィーに、ゼリエスが渋面を浮かべる。


「苦手なんだよ、機械歩兵って。斬っても血が出ない相手だと、やる気がおきん」

「わざわざ不採用の機械歩兵を持ち出してきたのは、身元を隠すためでしょうね。騎士学校の足元で異端審問官がテロ活動やってるのがバレたら不味いでしょうから」


 話している間にも、機械歩兵たちは展開を始めていた。

 その規模は一個小隊、合計二十機。


「この数はさすがに厄介ね」

「やるしかないでしょう」


 ソフィーの傍らで、メルクレアが光子剣を抜きながら答える


「五対二十。一人頭のノルマは四人ね」

「やってやれない数じゃないわよね」


 それに倣って、シルフィとミューレもそれぞれ戦闘準備を始める。

 やる気満々の三人に、ソフィーは冷たい視線を向ける。


「……もしかして、あなた達も戦うつもり?」

「当たり前でしょう」


 何を今更、と言った様子でメルクレアが答える。

 メルクレアの頭の中には逃げる、という選択肢は端から無いらしい。

 劣勢であるにもかかわらず、臆した様子も無い。


「《パンドラ・ボックス》にはリドレックが――あたしの仲間がいるのよ。見捨てて逃げるなんてできないわよ」


 そう言う少女の顔には、確固たる意志が感じられた。

 倉庫での戦いで見た、決意に満ちた表情だ。


「わかったわよ。こうなった以上、あんたたちにも手伝ってもらうわよ。くれぐれも無茶だけはしないでよ。あなた達に何かあったら、リドレックに何言われるかわからないんだから」


 それだけを言うと、ソフィーは再び機械歩兵たちに目を向けた。


 機械歩兵たちは二手に分かれた。

 半分はメルクレア達に向かって、

 残り半分は作業用階段を上り、頭上にある重力場発生装置へと向かった。


「連中の狙いは重力場発生装置よ。破壊されたら《パンドラ・ボックス》は制御を失い地上に真っ逆さまに落ちてゆくわ。戦闘よりも、重力場発生装置を守り切ることに集中して」


 ソフィーの指揮の元、メルクレア達は機械歩兵の討伐に取り掛かった。


◇◆◇


 開け放たれた扉をくぐり、リドレック達桃兎騎士団のパーティーは《パンドラ・ボックス》の最奥へと足を踏み入れた。

 直径約10ヤード程ある円形状の部屋の中は、室温が低めに設定されていた。

白一色に統一された内装は、より一層肌寒さを感じさせる。

 

 部屋に入ると同時、リドレックは駆け出した。

 念願であった迷宮の最奥に一番乗りできたことが余程嬉しかったのだろう。

 感極まった様子で、リドレックは叫んだ。


「ついに、ついに、見つけたぞ!」


 中央部に備え付けてある円筒形のタンクに駆け寄り、恭しく表面をなでる。

 冷却用のタンクの表面には、聖十字の文様が描かれていた。


「それが、お前が探していた物なのか?」


 子供のようにはしゃぐリドレックに、背後からライゼが訊ねる。


「ええ。」

「中には何が入っているんだ?」

「《聖遺物》ですよ」

「《聖遺物》?」

「ええ。その辺の故買屋で売り買いされているようなガラクタじゃない。本物の、一級品の《聖遺物》です――そもそも、聖遺物とはどういう物か、皆さんはご存知ですか?」

「聖者にゆかりのある品々の事だろう?」


 当然、といった表情で答えるライゼに、リドレックは注釈を加える。


「より厳密にいうと、聖者の身に着けていた品々の事を指します。さらに言うと、それらの品々に付着している、血や汗、唾液、髪の毛などから採取した聖者の遺伝子データの事とを《聖遺物》と呼びます」

「遺伝子データ?」

「そう。その採取した遺伝子データを分析し、神話の中にある聖者ノイシスの存在を立証するのが聖遺物探索の主目的なのです」


 説明しつつ、リドレックはタンクの開放作業を始める。


「聖者ノイシスは何処から来たのか? いかにして錬光の力を手にしたのか? そして、何処に消えたのか? 聖者の存在を詳らかにすることは、世界の真理を知ることにもつながるのです。錬光教会は設立当初から、《聖遺物》の収拾に力を注いできました。十字軍遠征も、聖地巡礼も、全ては《聖遺物》を収集することにあったのです」


 タンクの脇に取り付けられたコンソールを操ると、円筒からタンクは中央から二つに割れた。

 開かれたタンクの中から、冷気と共に湯気が立ちあがる。


「今から二十年前、イウラヒエ北部にある氷結領域の中に旧世界の遺跡を発見しました。錬光教会とオフェリウス大学の合同調査チームの手によって発掘調査を行い、そして見つけたんです――聖者ノイシスの凍結受精卵を」



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