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天宮の煌騎士〈ルキフェリオン〉  作者: 真先
【EpisodeⅢ. 神の迷宮】
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26. ビッグ・アイ

《廃兵院》から最奥まで、わずか数分の距離であった。


「……で、何なんですか? 《ビッグ・アイ》とかいうのは?」


《廃兵院》へと向かう道すがら、ヤンセンに向かって訊ねる。


「スベイレン技術開発部が造った機動兵器だ。対人掃討用に実験機」

「搭載武器は何を?」

「武装は無い」

「え? いや、だって対人掃討用の機動兵器なんでしょう? 武器ないのにどうやって攻撃するんです?」

「だから実験機だと言っただろう? 武装なんて取り付けていない。もし、武器を実装していたら、白羊騎士団の連中は全滅していたはずだ。あえて言うならば、頭脳だな」

「頭脳?」

「そう、頭脳だ。《ビッグ・アイ》には試作型の人工知能が搭載されている。あらかじめ言っておくが、いつぞやのように死んだふりしてやり過ごすなんて手は通用しないぞ?」

「……言われなくても、二度とやるつもりはありません」

「まあ、あとは実際に戦ってみればわかるさ」


 話しているうちに、いつの間にか目的地へと到達していた。


 狭苦しい通路を抜けると、広間に出た。

 その奥に最奥へと続く扉があった。

 金庫室のような頑丈なその扉の前に、迷宮の守護者が立ちふさがっていた。


 直径三フィートの球体。

 反重力で浮遊。

 瞳孔に当たる部分には巨大なレンズに覆われた錬光石がはめ込まれている。


「あれが《ビッグ・アイ》ですか?」

「そうだ」」

「……見たまんまですね」


 疑いの余地が無い程に、ヤンセンの証言通りのその姿はまさに巨大な眼球であった。

 巨大レンズに桃兎騎士団の姿を捕えると《ビッグ・アイ》が動き出した。 


「起動したぞ! くるぞ」


 ヤンセンが叫ぶと同時に、瞳孔の巨大レンズに光が収縮。

 リドレック達に向けて解き放つ。


 錬光技〈光条ブラスター


 侵入者たちを排除すべく、光の奔流が襲いかかる。

 いち早く反応したのはヤンセンだった。

《ビッグ・アイ》の攻撃を予測していたのだろう、錬光技を使い偏光防壁を展開。


「ふんっ!」


 迫りくる光条を受け止め、拡散させる。


 次に動いたのはライゼだった。

 得意の火炎系攻撃を《ビッグ・アイ》に向けて撃ち込んだ。


「はっ!」


 気合と共に放たれた〈火矢ファイアボルト〉が、機動兵器に向けて突き進む。

 直撃する直前、《ビッグ・アイ》の目の前に水のカーテンが顕現した。


 錬光技〈水壁アクアウォール


 ライゼの放った〈火矢ファイアボルト〉は、突如出現した水のカーテンに阻まれ霧消する。


「なにっ!」

「俺に任せろ!」


 いとも簡単に攻撃を防がれ唖然とするライゼの横から、サイベルが飛び出した。

 一気に距離を詰め、剣を振りかぶると同時に大きくジャンプする。


「はっ!」


水壁アクアウォール〉を飛び越え、サイベルは《ビッグ・アイ》に襲い掛かる。

 振りかぶったその剣先は、しかし機動兵器に到達することは無かった。

 

 錬光技〈重力制御グラビティコントロール〉。


 強制的に重力を中和されたサイベルの体は、さらに高く宙に舞い上がった。


「ぎゃん!」


 天井に強かに頭をぶつけ、サイベルはそのまま床に転げ落ちた。


《ビッグ・アイ》の連続攻撃に、リドレックは驚愕する。


「どういうことですか、ヤンセンさん!? なんで機械が錬光技を使えるんだ!」


光条ブラスター〉。

水壁アクアウォール〉。

重力制御グラビティコントロール〉。


 これら全ては間違いなく、錬光技であった。


 意志力を具現化する錬光技は、人間にしか使うことが出来ない。

 自我の無い人工知能に、錬光技を使う事はできないはずだ。


「まさか、あの機動兵器、自我があるのか?」

「……そうだ」

「なんてことを!」

 

 『神の領域』に踏み込むこの研究は、帝国法よって禁止されている。


「こんな事がバレたらどんな騒ぎになるか! いいや、それだけじゃない。この学校だってどうなるか」

「わかっている、わかっているからこうして破壊に来たんだろう!」

「じゃあ、とっととぶっ壊してくださいよ!」

「無理」

「早っ! 諦めんの早っ!」

「だって、お前。あんなんどうしようもないだろう! 


 火炎攻撃に〈水壁アクアウォール〉。

 接近戦に〈重力制御グラビティコントロール〉。

 

 相手の攻撃に合わせて、錬光技を的確に使い分けている。

 攻守において、まったく隙が無い。


「想像以上の出来栄えだな。技術開発部も凄い物を作った物だ」


 他人事のように感心するヤンセンを頼るのをあきらめ、部屋の中を見渡す。

 しかし、他に頼れそうな仲間たちはいなかった。

 無尽蔵に〈光条ブラスター〉を連発する機動兵器の攻撃に、逃げ回るだけで手一杯の様子だ。


 桃兎騎士団が総力を挙げて戦う中、負傷したラルクだけは戦闘には加わらず後方に控えていた。

 その手に《紫電の大剣》を握りしめ、仲間たちが戦う姿を口惜しげに見守っている。


「ラルク!」

「なんだ、リド!」

「その剣、バッテリーは入っているか?」

「あ? ああ。一応な。でも使い方がわからんぞ?」


 ランディアンの作り上げた光子武器は強力な反面、使い手を選ぶ。

 ひとたび扱いを誤るとたちまち暴走し、使用者に牙を剥く。

 武器としての構造と効果を把握した上で、内蔵されている複数の錬光石を同時に操らなければならない。 

 そのためには、精密な分析が必要だった。


「構わん、よこせ!」


 ラルクは光子武器を投げてよこした。

 受け取ると、そのまま《ビッグ・アイ》目がけて投げつけた。


「はっ!」


 放物線を描いて迫る光子剣を、《ビッグ・アイ》は〈重力制御グラビティコントロール〉で受け止める。

 人工知能の意志力に反応し、《紫電の大剣》が起動する。

 放出口から、シアンブルーの刃が顕現する。


《紫電の大剣》の名の示す通り、この武器の属性は雷だった。

 シアンブルーの刃に、いくつもの球電が浮かび上がる。

 意志なき機械によって作り出された球電は、ほどなくして暴走を始める。

 

 白い球電が《ビッグ・アイ》に襲い掛かる。

《ビッグ・アイ》の演算能力をもってしても、至近距離からの攻撃には対応できなかった。

 機動兵器の体に 次々と球電が直撃。

 表面にプラズマの奔流が迸る。


 精密機械を狂わせる雷は、人工知能にとって最大の敵である。

 急激な電圧の変化に、人工知能の機能が停止した。


 全身に黒い焦げ跡を残す《ビッグ・アイ》の機体は、重力制動を失い床に転がった。


「やった!」


 リドレックが喝采をあげると同時、最奥への扉が開かれた。



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