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天宮の煌騎士〈ルキフェリオン〉  作者: 真先
【EpisodeⅢ. 神の迷宮】
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11. 探索開始

 迷宮探索を開始するにあたって、最初に隊列を決めなければならない。


 迷宮探索においてフォーメーションは非常に重要である。

 迷宮内の通路は非常に狭い。

 道幅一杯に並んで歩いたら、いざという時身動きが取れない。

 奇襲を受ければ、あっけなくパーティーが全滅するなんてこともある。

 迷宮探索では戦う事よりも、いち早く敵の存在を発見し、何より敵に見つからない事が重要である。


 こういったことは普通、迷宮に入る前に決めておかなければならない事なのだが、前述したように桃兎騎士団は何も対策しないまま試合に臨んでいた。

 泥縄、と思いつつリドレックは、どのようなフォーメーションで迷宮に挑むべきかを考える。

 フォーメーションは大まかに分けて、前衛、中衛、後衛の三つに分かれる。

 どこに誰を配置するかで、戦術は大きく変わる。


「俺が先行しよう」

「ライゼさんがですか?」


 意外なことに、前衛を買って出たのはライゼであった。

 言わずと知れず、パーティーの前列は最も危険で重要なポジションである。

 敵と接敵した場合には真先に戦闘に巻き込まれるし、進路上に設置されている罠に最初にひっかかるのも前列である。

 斥候役でもある前衛は戦闘力だけでなく、観察力と高度な判断力が求められる。

 ライゼは生粋の戦闘員である。

 体得している錬光技も火炎系の攻撃技ばかりで、感知系の錬光技は全くと言っていいほど使えない。

 戦闘力という点では申し分ないが、そのほかの分野では全く頼りにならない。

 繊細さなどかけらも持ち合わせていない彼に、前衛が務まるとは思えなかった。


「何だ、不服か?」

 

 不安そうな様子のリドレックを、ライゼは睨み返す。


「俺は迷宮攻略戦の経験者だぞ。《パンドラ・ボックス》についてはこの中で最も熟知している。前衛」

「それは、そうですが……。じゃあ、お願いします」


 せっかくのやる気に水を差すのも気が引ける。

 ここは一つ、経験者であることを尊重してライゼに一任することにした。


 前衛が決まれば、残りのポジションを決めるのは簡単だった。

 メンバーに向かって矢継ぎ早に指示を出す。


「中衛にヤンセンさん。後衛はラルクに任せる」

「了解」

「オッケー」


 一番戦闘力が低いヤンセンだったが、彼は感知系の錬光技を複数使える。

 隊列の中央に置けば、パーティーのレーダー役として活用できる。

 また、ヤンセンは迷宮内の地図を持っているため、マッピングの仕事も彼の役目となる。

 高い戦闘力と適格な判断力を兼ね備えたラルクは、パーティーの最後尾に置いた。

 戦闘バカのライゼと違い、ラルクならば安心して殿を任せることが出来る。


「サイベルとミナリエは隊列の中央、両サイドに展開してくれ」

「おう!」

「わかった」

 

 この二人も、戦闘力が高く感知系の錬光技も使える。

 ヤンセンを護衛しつつ周囲を警戒してくれれば、隊列はより強固なものとなるだろう。


 リドレックの指示通り隊列を組むと、桃兎騎士団のパーティーは迷宮探索を開始した。


 迷宮内の通路には、照明など点いてない。

 ヘルメットのバイザーを暗視モードに設定し、薄暗い通路を進む。


 入り口からしばらくは一本道が続く。

 先の見えない暗闇をかき分けるように、隊列の先頭を行くライゼは歩いてゆく。

 それから一歩遅れて、リドレックが続く。

 

「リドレック、前に出過ぎだ」


 ぴったりと後ろについてくるリドレックをライゼが制する。

 話ながらも、警戒は怠らない。

 視線は前を向いたまま、リドレックに向かって話しかける。

 

「お前はリーダーだろうが、後ろに控えていろ」

「リーダー自ら率先して危険な仕事をしませんと、部下はついてきませんので」


 それらしいことを言って、リドレックは誤魔化した。

 経験を考慮して前衛を任せてみたものの、やはりライゼ一人に頼るのは不安だった。

 通路は狭いが二人ぐらいならば問題なく動けるし、咄嗟の時にも素早く反応できるはずだ。


「そんなに俺が信頼できないか?」

「いえ、決してそう言うわけでは……」

「まあ、無理もない事だな」


 そう言うと、ライゼは自嘲めいた笑みを浮かべる。


「お前とは色々あったからな。信用されなくても当然だ」

「まあ、色々ありましたよね」


 今季から同じ寮になって以来、ライゼとは事あるごとに衝突を繰り返していた。

 監督生としての立場上。


「新入生の説明会じゃ散々嫌味を言われて、その後いきなりぶん殴られましたし」

「ああ、そんなこともあったな」

「ギンガナムの事では言いがかりつけられたし、その後で橙馬騎士団に引き渡されそうになるし、丸コゲにされそうになるし」

「あの時は悪かったな」

「あー、それと追いかけていた密輸船の船長を真っ二つにされたこともありましたね。あの時は本当に迷惑でしたよ。折角の証拠を台無しにされちまったんですから」

「……すまん」


 どうしたことか、今日はやけにしおらしい。

 ライゼが大人しく訊いている事をいいことに、リドレックはますますつけあがる。


「いや、謝ってくれっていってるわけじゃないんですよ。ただね、もうちょっと後輩に対する気遣いとかいたわりとか、そういったものがあってもいいんじゃないかなぁと……」

「そう言う意味じゃなくてだな……」


 そう言うと、ライゼは足を止めた。

 リドレックを振り向いたその顔に、一筋の汗が浮かんでいた。


「トラップに引っかかった」

「……え?」

 

 言われて、ライゼの足元に目を向ける。

 床から約三インチ。廊下を横切るように細いレーザー光が横切っていた。

 恐らくは何かの感知用センサーに違いない。

 赤いレーザー光を、ライゼの右足が遮っていた。

 

「……やばっ!」


 短い悲鳴を上げた瞬間、隊列の後方から重苦しい機械音が響いた。


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