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天宮の煌騎士〈ルキフェリオン〉  作者: 真先
【EpisodeⅠ. 白羽の騎士と無銘皇女】
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7. ミーティング

 夕食の時間が終わると桃兎騎士団の学生たちは一階大広間に集合した

 普段は新入生用の食堂として使われている大広間だったが、週末の夜には翌日に行われる闘技大会のミーティングが行われる。

 普段は出場選手の発表だけで終わるミーティングだが、新年度最初の今回は新入生を対象とした寮生活の説明も行われる。


『……以上が寮生活の主な注意事項です』


 大広間には生徒たちの姿であふれかえっていた。

 その半分以上が今年入学したばかりの新入生だ。真新しい制服姿の生徒たちが、緊張した面持ちでエルメラ寮長の話に耳を傾けている。


『それでは次に、監督生のライゼ・セルウェイから学生生活の概要を説明していただきます』


 エルメラ寮長と入れ替わりに、監督生のライゼ・セルウェイが壇上に立つ。

 監督生とは読んで字のごとく、日常において寮生たちの生活を、試合においては選手達を監督する立場にある生徒である。

 新入生たちにとってはある意味、寮長よりも恐るべき存在であった。


『監督生のライゼ・セルウェイだ。まずは新入生の皆さん入学おめでとう。

これからスベイレン騎士学校における学生生活の概要を説明する。よく聞いておくように。

 スベイレン騎士学校のカリキュラムは、通常授業と週末に行われる試合に分けることが出来る。

 まずは通常授業から説明しよう。

 通常授業のカリキュラムは単位制で行われる。

 授業内容は剣術や騎術といった武芸全般と、一般教養を学ぶ基礎学科などがある。

 他にも舞踊や、詩吟、楽器演奏といった騎士として必要不可欠な教養を育む授業も用意されている。

 これらの授業の選択は生徒自身の判断で自由に選択することが出来る。

 だが、欲張って色々な授業を選択したりなどしないように。

 毎年、無理がたたって体調を崩す生徒が出てくる。個々人の習熟度に合わせて無理のない時間割を作るように。

 通常授業は君たち自身の自主性が試される場でもある。……通常授業を全てサボって、遊びほうけている生徒も中には居るが、向学心溢れる君たちはそんなことは無いと私は信じている』


 広間の後方、上級生たちの座る席に居るリドレックを一瞥してから、ライゼは説明を続ける。


『次に、闘技大会について説明しよう。

 この学校では毎週末、各寮から選抜された代表選手たちによって闘技大会が行われている。

 中でも十二騎士団寮対抗リーグは有名だ。光子力通信網で中継されているのを、みんな一度は見たことがあると思う。

 それ以外にも騎上槍試合や戦車競走などがある。代表に選ばれればそれらの競技に参加することが出来る。

 闘技大会で好成績を収めればポイントが入る。これは個人の成績だけでなく、所属する騎士団寮にも加算される。シーズンを通して最も多くのポイントを得た騎士団寮が最優秀学生寮として表彰される。

 闘技大会は授業で学んだ成果を披露する場だ。実際、この学校では授業の成績はあまり評価されない。闘技大会での成績が全てだ。訓練の成績がいくら良くても、実戦で通用しなければ意味がない。

 逆に授業の成績が悪くても、闘技大会での成績が良ければ高い評価を得られるというわけだ。試合には各国騎士団のスカウトが観覧に来る。彼らの目に留まれば、卒業後の進路に大きく有利に働くだろう。

 闘技大会で行われる戦闘は実戦形式で行われる。実戦そのものと言ってもいい。使用される光子力武器は全て真剣で行われる。安全フィルターをかけられてはいるが、骨折や内臓破裂は日常茶飯事。気の抜けた試合をすれば長期入院を余儀なくされる怪我を負うこともある。

 ……くれぐれも試合中逃げ回った挙句、死んだふりをしてやり過ごすなどという恥さらしな真似をしないように』


 その恥さらしが誰の事なのか、広間に居る誰もが皆知っていた。

 そこかしこからクスクスと失笑が漏れ聞こえてくる。


『以上が学生生活のおおよその概要だ。来たばかりの新入生は何から手を付ければ良いかわからないと思う。そこで先輩である私から、諸君がなすべきことを教えよう』


 そう言うとライゼは人差し指を突き出した。


『一月だ。一月の間にこの部屋にいる新入生の内、四分の一が消える』


 監督生の宣言に、広間に居た一年生たちが一斉にざわめく。


『一月の間に四分の一。そして半年の間に二分の一が消える。さらに半年の間に残りの半分――つまり、一年後には四分の三が消えるというわけだ。この数字は毎年、どこの寮でも同じようなものだ。新入生の部屋が何故、四人部屋なのかわかってもらえたか? 一年頑張れば個室が手に入るということだ』


 ライゼが説明を続けると、今度は水を打ったように静まり返る。


『平日の授業にくわえて、週末の試合。この学校の生活は諸君らが思っている以上に過酷だ。まず諸君らが学ぶことはこの学校の生活になじむことだ――そして何より重要なことだが、死なないことだ。

 昨年度、スベイレン騎士学校では試合中の事故で一名の死亡者を出した。 試合では安全性に十分注意して運営されているが、それでも気を抜けば命を落とすことになる。間抜けが死ぬのは勝手だが、試合中に死亡されると周りが迷惑する。この学校についていけないと思ったら即刻退学届を出して学校を去れ』


 そこまで言うとライゼは広間に居る新入生たちを見渡した。

 騎士学校の厳しい現実を突きつけられ、新入生たちは皆、怖気づいたようだ。

 青ざめた騎士候補生たちの姿を確認すると、最後の締めに取り掛かる。

 

『ここを学校だと思うな。戦場だと思え。授業、試合、寮での生活、すべてにおいて常在戦場の心持で臨むように。……くれぐれも二年連続最下位の成績を叩きだして平然としているような事など無いよう、学校生活は真摯に取り組むように――以上だ』


 最後に笑える冗談で締めくくる。

 会場から沸き起こるまばらな拍手に送られて、ライゼは演壇から降りた。

 

 入れ替わるようにしてエルメラが再び壇上に立つ。


『それでは、明日の開幕戦の出場選手を発表します』


 待ちかねた選手発表がはじまると、会場から歓声と拍手が巻き起こった。


『まず中央闘技場で行われる開幕第一試合。十二騎士団寮対抗リーグ、対橙馬騎士団戦の出場選手を発表します。大将は私、エルメラ・ハルシュタットが務めます』


 自ら名乗りを上げると、エルメラは壇上で手を上げる。


『次に、アネット・メレイ』

「はい」


 名前を呼ばれたアネットが静かに答える。

 副寮長を務めるアネットは寮内において寮長を補佐する立場にある。選手としても成績も高く、エルメラ寮長の信頼も厚い。


『ジョシュア・ジョッシュ』

「はい」


 次に金髪巻き毛の少年が答える。

 ジョシュア・ジョッシュは実績も年齢も若手だが、ここ桃兎騎士団では主力選手を務めている。彼のような若手選手を主力に据えているところを見ても桃兎騎士団の選手層がいかに薄いか窺がえる。


 寮長のエルメラに副寮長のアネット、そしてジョシュア。この三人は桃兎騎士団の中核を担う主力選手である。いずれも開幕戦に出場するに妥当な人選であった。


『メルクレア・セシエ』


 しかし、四人目の選手の名前が呼ばれると、会場内からどよめきが上がった。


「はい!」


 周囲のどよめきにも構わず、名前を呼び上げられたメルクレアは元気よく返事をする。


『シルフィ・ロッセ』

「はい!」

『ミューレ・エレクス』

「はい!」


 立て続けに読み上げられる名前に、会場内のどよめきはさらに深まる。


『以上、六名に加え、陣地構築にヤンセン・バーグ。連絡要員としてソフィー・レンクの二名に就いてもらいます。よろしいですね?』

「……承知」

「……はい」


 開幕戦選手の紹介が終わると、会場は騒然となった。

 周囲の騒ぎを気にとめもせず、エルメラは発表を続ける。


『続きまして、野戦グラウンドで行われる戦列歩兵戦のメンバーを発表します』


 戦列歩兵戦は十一人で行われる集団戦闘競技である。横一列に並んだ歩兵たちが正面からぶつかり合う様は勇壮で、対抗リーグ程ではないが人気の競技である。

 勝利によって得られるポイントも高い。

 年間総合優勝を目指す騎士団寮ならば無視することのできない大事な試合である。


『大将にライゼ・セルウェイ』

「……はい」


 名前を呼ばれたライゼが複雑な表情で返事をする。

 続けて他の十人の名前を一気に読み上げると、エルメラは次の競技の発表に移る。


『次に騎行兵器訓練場で行われる騎上槍試合にはラルク・イシュー』

「はい」

『屋内運動場で行われる女子槍術競技にミナリエ・ファーファリス』

「はい」

『第三格技場で行われる長剣競技にサイベル・ドーネン』

「はい」


 次々とエルメラは選手を読み上げてゆく。

 主要競技の発表を一通り終え、特別競技の発表へと移る。長距離走、徒手格闘技戦といった開幕戦ならではの趣向を凝らした競技の選手を発表してゆく。


『最後に、休憩前に行われるエキシビションマッチ。十二騎士代表戦にリドレック・クロスト』

「……はい」


 競技種目と名前が呼ばれると、リドレックは複雑な表情で返事をした。

同時に、会場からどよめきと苦笑が湧き上がった。


『以上で選手発表を終わります。それではこれでミーティングを終わります。選手の皆は明日の試合に向けて十分に英気を養ってください』


 最後にエルメラが締めくくると、ミーティングは解散となった。


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