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天宮の煌騎士〈ルキフェリオン〉  作者: 真先
【EpisodeⅡ. 狂戦士の帰還】
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Epilogue. そして、また平穏な日々

「それでは、全て総督の思惑通りというわけですか?」

「総督とリドレックの思惑通り、よ」


 試合の翌日。

 場所は桃兎騎士団寮の寮長室。


 アネットの質問に、エルメラは事務処理の手を休めて答える。


「まったく、あの二人は! 私に一言も相談しないで!!」

「……一体、どこからどこまでが、彼らの策略だったのですか?」

「全部よ、何から何まで全部!」


 怒りに任せてエルメラは机を叩く。

 自分を無視して事を進めた二人に、エルメラは立腹していた。

 

「ゼリエスを自由にするために、リドレックは密輸組織の証拠集めに奔走していた。一方、総督にとってもゼリエスは利用価値の高い存在だった。彼を手に入れることは最強の剣士を手に入れると同時に、《無銘皇女》の命を狙う真耀流への牽制になる。二人の利害が一致したとき、この企てが始まったと言うわけよ」

「……計り知れない話ですね」

「まったくよ。ついていけないわよ、あの二人」


 友人を救うため、

 最強の剣士を手に入れるため、

 全てはたった一人の男を救うため為に、二人が用意した策略であった。


 結果として、密輸組織は壊滅。シシノ教官は逮捕された。

 スベイレンの裏社会を取り仕切っていたシシノ教官が逮捕されたことにより、この天空島にも再び平穏が訪れた。

 騎士学校も校長が主権を取り戻した。

 今後は学校運営も健全化の方向へと向かうだろう。


「まあ、とりあえず丸く収まったんだから良しとしましょう」


 そう言うと、エルメラは窓の方を振り返る。

 耳を澄ますと、窓の向こう側から少女達の元気な声が聞こえてきた。


 ◇◆◇


「ねえ、リド~っ! もうやめようよ……」

「やかましい!」


 泣き言を言うメルクレアを一喝する。


「うさぎ跳びって、体に悪いんじゃ……」

「うるさい!」


 シルフィが抗議も一蹴する。


「せめて、水だけでも……」

「だまれ!」


 ミューレの意見も受け付けない。


「お前たちが覚えるべきことは力の加減の仕方だ! 馬鹿の一つ覚えみたいに全力攻撃ばかりしていると、対戦相手を殺すことになりかねん。それに、力の配分が出来ないと相手を怪我させるばかりか、いざという時動くことも出来なくなるぞ。戦う時は常に余力を残し、最小限の力で倒す様に心がけるんだ」


 ひとくさり説教すると、リドレックは模擬剣を振りかざし少女達に命令する。


「文句ばかり言ってると、いつまでたっても終わらんぞ! ラスト、後一周。ピッチ上げて行くぞ!」

『ふぇぇぇぇ~んっ!』


 桃兎騎士団寮の中庭に、少女達の悲鳴が響く。

 三人は中腰の姿勢で後ろに手を組み――所謂、うさぎ跳びで、芝生の上を飛び回っていた。

 このスポーツ医学を無視したトレーニングを、彼女たちはかれこれ十分以上、休憩も水分補給も無いまま続けていた。


 こんな前時代的な訓練に意味など無い。

 ただの憂さ晴らしだ。


 苦労して刑務所から連れ出した友人を――総督の仕事を手伝わせようと呼び寄せた同僚を、病院送りにした彼女達を簡単に許すつもりは無い。

 悲鳴を上げながら跳ね回る少女達の姿を嗜虐的な笑みを浮かべ見つめていると、リドレックの懐にある光子力通信の呼び出し音が鳴った。

 ホロ・モニターを展開すると、総督のか細い声が聞こえて来た。


『リドレックぅ~っ。……血が、血が落ちないよぉ~ぅ』

「……知らねぇよ」


 半泣きの総督を無視して、即座にホロ・モニターを切る。

 闘技場の掃除はまだ終わっていないらしいが、どうでもいい。

 再び少女達の方を向くと、リドレックは叫ぶ。


「この後は、模擬剣を使った訓練だ! 実戦で鍛えた剣術って奴を、その体に叩きこんでやる! 覚悟しろ!!」

『ふぇぇぇぇぇぇぇぇ~んんっ!』


 再び、少女達の悲鳴が響く。

 模擬剣を構え満足そうにうなずく鬼教官に、背後から声をかける者がいた。


「……リドレック」

「うん? 何の用だ、サイベル?」


 振り向いた先には、サイベルが居た。

 声をかけてきたにもかかわらず、何も言おうとはしない。

 右手に模擬剣を持ち、何かをためらう様に顔を俯けている。

 やがて、意を決したように顔を上げ、口を開く。


「……その、俺にも剣術を教えてくれ。……いや、下さい! リドレック、……先輩!」

「……え?」


 新人王に初めて先輩と呼ばれ、リドレックは面くらう。


「俺も参加させろ」


 困惑するリドレックの元へ、さらにラルクがやって来た。

サイベルと同様、右手には模擬剣が握られている。


「何だよ、ラルクまで?」

「この間は結局、手合せできなかったからな。その分も含めて、たっぷりと相手してもらうぞ」

「私も加えさせて貰おうか」


 その後には、ミナリエがいた。

 同じく、模擬剣を構え、リドレックに突き付ける。

 

「先日の借りを返させてもらうぞ」

「……? 何かあったっけ?」

「私をベッドに押し倒したじゃないか! 何という破廉恥な!」

「人聞きの悪い事を言うな! あの時は何もしてなかっただろう!?」

「それが悪い! 婦女子をベッドに押し倒しておいて、何もしないとは何事だ!!」

「もう、何が何だか……」


「まあ、いいじゃないかリドレック。せっかくだから、皆で訓練しよう」


 言い争う二人の間に入ったのはライゼだった。

 彼もまた訓練をするつもりだったらしく、模擬剣を持ってきていた。


「昨日の試合は中断のまま、引き分けに終わってしまった。今度の試合は絶対に勝たないとな。そのためには、訓練だ!」

「……わかりましたよ。お前達、もういいぞ」


 監督生のやる気に水を差すわけには行かない。

 うさぎ跳びを続ける少女達に止めるように告げると、次の訓練に移る。


「予定を変更して乱取り稽古を行う。先輩たちがお相手してくれるそうだ。お前達、光栄に思え!」

『ふぇぇぇぇぇぇぇぇ~んんっ!』


 少女達の悲鳴は何度聞いても良いものだ。

 鬼教官役がすっかり板についてきたリドレックは、涙目の少女達を見て楽しそうに微笑んだ。


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