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天宮の煌騎士〈ルキフェリオン〉  作者: 真先
【EpisodeⅡ. 狂戦士の帰還】
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19. 【回想】 免許皆伝


 ゼリエスがスベイレンに入学して一年が経とうとしていた。

 同期入学のリドレックは相変わらずであった。

 授業はサボりがち。たまに訓練に顔を出せば、同級生たちのサンドバックになるだけ。

 試合ではまともに戦おうともせず、連敗を重ねて行った。

 早々に年度最下位が決定した彼には《白羽》の二つ名で呼ばれるようになっていた。

 臆病者の象徴である《白羽》の呼び名は、その年の最下位成績者に送られる蔑称である。

 闘技大会で逃げ回る彼の姿にぴったりのあだ名であった。


 学校中の生徒達が彼に侮蔑と嘲笑を向ける中、最も身近にいたゼリエスだけがリドレックが着実に成長を続けていることに気が付いていた。


 闘技大会という疑似戦場で、他の生徒達が『戦う』ことを目的としていたのに対し、リドレックは『生き延びる』ことだけに専念していた。

 敵から逃げるための方法、そして負傷を最小限に止める防御技術を習得しつつ、神学校で学んだ治療技術や医学に関する知識を、自らを実験台にして磨きをかけていった。


 多くの脱落者がこの学校を去ってゆく中、試練の一か月を過ぎ、苦難の半年が過ぎてなお、彼はスベイレンに在籍し続けた。

 戦うことなく、傷つき、倒れ――それでも戦場に立ち続ける彼の姿に、ゼリエスは密かに脅威を感じていた。


 人知れず実力を身に着けてゆくリドレックとは対照的に、ゼリエスは日々を無為に過ごしていた。

 ゼリエスがスベイレンにやって来た目的は剣術修行であった。

 剣術道場では味わうことの出来ない、実戦の場で己の技に磨きをかけるのが当初の目的であった。

 にもかかわらず、修行は遅々として進んでいない。

 期待していた強者と戦う機会にも恵まれず、修行は行き詰まっていた。

 

 ゼリエスが目指しているのは、最強の剣技だ。

 より迅速に、より確実に敵を屠る。

 いかなる敵も、いかなる状況にあっても、その力を如何なく発揮する技。

 その手に握る剣と一体となり、自在に操る。

 活人剣などというたわごとでは無い、純粋に人を斬る為だけの剣技。

 それがゼリエスの思い描く理想の剣技であった。

 

 完成まであと少し、しかしその最後の一片を掴むことがどうしてもできない

 剣を振れば振るほどに、理想からかけ離れてゆく。

 今では剣を握るその手すらもどかしい。


 思い悩んだ挙句、ゼリエスはリドレックに相談することにした。

 剣術に関しては門外漢のリドレックに相談した所で何が得られるとも思わなかったが、悩みを打ち明ければ少しは気が晴れるだろうと思ったからだ。


「『最強の剣技』なんてあるわけないだろう」


 ゼリエスの悩みを、リドレックは一笑した。


「そもそも、剣自体が最強の武器じゃない。間合いの広さでは槍を始めとした竿状武器に負けるし、威力では斧や槌に劣る。射撃武器である弓や銃の前では、白兵戦武器なんか相手にもならない――最強の武器は何だか知っているかい? 石だよ、ただの石っころだ。掴んで殴れば鈍器になるし、投げれば射撃武器になる。扱いやすいし、壊れることも無いし、何よりタダで何処でも手に入れることが出来る。最高だね」


 剣術の事など碌に知らないくせに、したり顔で説教まで始める。

 彼の発言は剣一筋に生きて来たゼリエスの半生を完全否定するものであった。


「その目的が人体の破壊にある以上『最強の剣技』なんてものは存在しえない。剣を振り回さなくたって、人間を殺す方法何ていくらでもある。一番安全で確実な方法は毒殺だ。最小限の労力で、最大限の効果――殺人の手段としては理想的だ。人殺しがしたければ薬剤師になれ。刃物を振り回したいなら料理人になれ。それでも剣士であり続けたいと言うのならば、剣術という枠組みにとらわれない発想を取り入れるしかないんじゃないか?」


 リドレックの素人意見には抗しがたい説得力があった。

 彼の乱暴なアドバイスは果たして、効果的であった。


 騎士学校に入学して一年が過ぎた。

初めての夏休みを迎えたゼリエスは、ベイマンの宗家道場に帰省した。

 その際、ゼリエスは昇段試験を受け合格。真耀流免許皆伝の免状を手にした。


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