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天宮の煌騎士〈ルキフェリオン〉  作者: 真先
【EpisodeⅠ. 白羽の騎士と無銘皇女】
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27. 叛意

 正門前の騒ぎを、リドレックは三階の窓から見下ろしていた。

 寮生は全員部屋で待機するように命じられているため、周囲に人はいない。誰もいない廊下で一人、リドレックは自分を殺しに来た騎士たちの数を数えていた。


 さすがに橙馬騎士団の騎士全員を相手にするのは無理がある。

 数で勝る敵と戦う場合、相手指揮官を狙うのが定跡だ。

 算段を立てていると丁度、庭を歩くハスレイ・ラバーレントの姿を見つけた。

 単身桃兎騎士団に乗り込み直談判に来たようだが、どうやら物別れに終わったらしい。

 肩を落とし、一人歩くハスレイの姿は隙だらけだ。

 またとない好機に、今すぐ庭に下りてハスレイに切りかかるべきか、否かと思案していると、

 

『何を考えている?』


 不意に、足元から声をかけられた。


『あいつらを倒す方法か? それとも逃げる方法か?』


 耳障りな合成音に振り向く。

 リドレックの足元に、いつの間にか一匹の猫が居た。

 半透明の光子の輝きを放つ青い猫は、通信用の〈錬光獣〉だ。

 錬光の力でもって生み出された青い猫は、まるで感情があるかのようにリドレックを見上げおかしそうに笑った。


『どちらを選ぶにしてもままなるまい? いかに地上帰りの英雄といえども、あの数は倒せまい。逃げるにしても同様。八方塞がりだな《白羽》?』

「何者だ?」

『お前達の、お探しの人物さ』


 リドレックの誰何に青い猫は愉快そうに答えた。

 寮内部の何処かに居るテロリスト達の内通者が、この〈錬光獣〉を操っているのだろう。

 寮内にある監視機器をかいくぐり、直接リドレックに接触してきたのだ。テロリストは大胆にして腕の立つ術者であることを示していた。

 

『長話をしていると、身元がばれてしまうのでな。手短に要件だけ伝える――おまえの手で皇女を殺してくれないか?』

「断る」


 単刀直入に切り出されたテロリストの要求を、一時の逡巡も無く撥ねつける。


『何故だ? 先ほどの話では帝を敬う気は無いようではないか? それとも、婦女子を手にかけるのは騎士道精神が許さぬか?』

「殺さない理由は無いが、殺す理由があるわけでも無い。シルフィを殺して僕に何の得がある?」

『理由があれば殺してくれるのだな? よろしい、ではお前を助けてやると言ったらどうする?』

「助ける?」

『そう、このままではお前は殺されるぞ。この寮の連中は表で騒いでいる橙馬騎士団にお前を差し出すつもりだ――これを見るがいい』


 青猫が言うと同時に、リドレックの足元に立体映像が浮かび上がる。

 場所はいつもの談話室。

 立体映像は激しく言い争う生徒達の様子を映し出す。


 ◇◆◇


『……つまり、リドレックを奴らに引き渡せって言うんですか?』


 まなじりを吊り上げでミナリエが叫ぶ。


『そんな理不尽な要求、のめるわけが無いでしょう!』

『引き渡して、彼らはリドレック君に何をするつもりなんですか?』


 声を荒らげるミナリエに続いてソフィーが続く。

 二人がかりで詰め寄られたライゼは、苦渋に満ちた表情で答える。


『……命まではとらんそうだ』

『つまり、命以外はあきらめろって事か?』


 ラルクが皮肉の効いた言い方をすると、ライゼは慌てて付け加える。


『それなりの見返りは用意すると言っている。……万一の場合、遺族の補償も負担すると言っている』

『万一って、殺る気満々じゃねぇか!?』


 激しく言い争う上級生たちに、サイベルが割って入る。


『でも、これってチャンスなんじゃねぇ?』

『チャンスって、何が!?』


 場をわきまえない発言にラルクが激すると、サイベルが噛みつく。


『だって、このまま内通者が見つからなかったら、俺たちはリドレックに殺されちまうんだぜ! あいつらが始末してくれるって言うなら、理想的じゃないか!』

『一理あるな』


 サイベルの意見に、ヤンセンが同調する。


『ヤンセンさんまで何てことを言うんだ!?』


 二人の身勝手な言い分に、ミナリエが激怒する。


『経緯はどうあれ、リドレックは同じ寮の仲間だぞ!』

『その仲間に対して俺達は何をした? 地上で戦い、毛の色変わるまで憔悴し、帰還したリドレックを、俺達は侮辱し、蔑み、罵倒した。今更、仲間などという資格が俺達にあるのか?』

『……う』

『それに、問題は既にリドレック個人の問題ではない。このまま騒ぎが長引けば、ハスラム公国はスベイレンに派兵することになる。対応を一歩間違えると戦争になる。そうならないためにはリドレックを奴らに引き渡し、一刻も早く事態収拾を図る必要がある』

『……しかし、リドレックには何の非もないんですよ!?』

『だから、誰が悪いとかそういう問題ではないと言っている。ここまでこじれてしまっては、今更話し合いで解決することは不可能。暴徒と化した橙馬騎士団の連中を宥めるには、明確な形の生贄が必要なんだ』

『…………』


 ヤンセンの説明に、ミナリエのみならずその場に居た全員が沈黙する。

 話し合いの余地など既にない。

 重苦しい沈黙を突き破り、寮長代理を務めるライゼが結論をくだす。


『どの道、俺たちに選択の余地は無いんだ。あいつに犠牲になってもらうしかない』


◇◆◇


「…………」

『なんとまあ見下げ果てた連中じゃないか、ええ?』


 立体映像を見つめ無言で立ち尽くすリドレックに、くつくつと笑いながら青猫が語りかける。


『騎士などと偉ぶってみた所で、一皮むけばこの体たらく。己が身可愛さに仲間を売りとばすとは呆れたものよ。どうだ? これでもまだ忠義立てするつもりか?』


 寮内に味方はいない。

 寮の外は敵が取り囲んでいる。


 まさに八方塞がりの状況であった。リドレックが生き延びる道は唯一つ、テロリストの手を借りここから逃げ出すしかない。

 それでも、


「断る!」


リドレックはテロリストの要求を撥ね退けた。


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