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天宮の煌騎士〈ルキフェリオン〉  作者: 真先
【EpisodeⅠ. 白羽の騎士と無銘皇女】
22/104

21. 襲撃

 酒宴から抜け出したリドレックは、上層階を貫く目抜き通りを歩いていた。

 今更、宴会場に戻る気もなく、さりとてまっすぐ寮に帰るつもりにもなれない。

 リドレックは当てもなく夜の街を散策していた


 五鱗亭で浴びるほど酒を飲んでいたにもかかわらず、リドレックの足元に乱れはない。

 街灯が照らす歩道を早足で歩いてゆく。

 酩酊した頭でなんとなく周囲を見渡してみる。


 総督府をはじめ都市機能の中枢を担う建物が並ぶ上層階は治安もよく、整然とした街並みを彩る街路樹や公園といった緑地が設けられている。

 病的なまでの潔癖さで整った街並みに、リドレックは疎外感を覚える。


 作り物の街が、

 作り物の緑が、


 ここが自分の居場所ではないと訴えかける。


「リドレックっ!」


 背後からの呼ぶ声に、リドレックは足を止めた。

 振り返ると、三人の少女が居た。

 宴会場から追いかけて来たのだろう。少女達は手を振りながらこちらに向かって駆け寄ってくる。


 大方、エルメラ寮長に言われてリドレックを宴会場に連れ戻しに来たのだろう。

 今更、宴会場に戻るつもりはない。少女達の呼びかけを無視して再び歩き出そうとしたその時、


 彼女達の背中を車道からのハイビームが照らした。

 少女達の姿が逆光の中に沈む。


「後ろだ!!」

「え?」


 リドレックの警告に、少女たちは背後を振り返る。

 彼女たちが目にしたのは、高速で接近する四機のナイトメアの姿だった。

 オレンジ色のナイトメアの上には、光子剣を振りかざす光子甲冑の騎士の姿があった。


「くっ!」


 考えるよりも早く、リドレックは行動を起こす。

 ネックレスの錬光石に意識を通す。〈翼盾〉を展開し、すかさず少女たちの前へと飛ばす。

 少女達を轢き殺す寸前、先頭のナイトメアが〈翼盾〉と衝突、転倒する。

 後続のナイトメアも先頭車両に接触して転倒。

 最高時速二百マイルのナイトメアに振り落された二人の騎士たちは、車道を勢いよく転がってゆく。

 騎士の体は路側帯にぶつかったところでようやく止まった。横たわる彼らの手足は不自然な形に曲がっていた。


 接触を逃れた後続の二機はリドレックの方へと向かってきた。

 ナイトメアの突進と光子剣の連続攻撃をかわすと同時に、腰に手挟んでいた短剣を引き抜く。試合で

 やり過ごしたナイトメアに向けて短剣を構える。切っ先から出現した茨が騎士の体に絡みつきナイトメアから引きずり落とした。

 主を失ったナイトメアはそのまま車道を走りぬけ、街灯に衝突するとようやく停止した。


 最後の一機が襲いかかる。

 突進してくるナイトメアに向けて、リドレックは茨の生えた短剣を振り回し、捕えた騎士を投げ飛ばした。

 騎士と正面衝突したナイトメアは横転。騎乗していた騎士も放り出される。

 車道に放り出された二人の騎士たちは、命に別条は無い程度の重傷を負った。うめき声を上げるだけで、立ち上がることもできないようだ。


 瞬く間に四機の騎兵を倒したリドレックの元に三人の少女が駆け寄る。


「大丈夫!?」


 メルクレアが心配そうに声をかけるが、リドレックは息一つ切らしていない。

 短剣をしまいながら、リドレックは呟いた。


「……ああ」


 周囲を警戒するが他に敵の気配はない。


 目抜き通りを歩く通行人たちが立ち止り、不安げな様子でこちらを見つめている。

 スベイレン騎士学校では学生同士の喧嘩など珍しくもないが、上層階の、それも一般人の目の前でとなると話が違ってくる。

 野次馬達は携帯端末を取り出すと、警察に通報――または事故現場の撮影を始めた。


「一体、これはどういうことなんです!?」

「お礼参りだ」


 ヒステリックに叫ぶシルフィにそっけない調子で答える。


「お礼、参り?」

「橙馬騎士団の連中が仕返しに来たのよ」


 きょとんとした表情のシルフィに、ミューレが答える。


 ミューレの言う通り、横たわる騎士と転倒したナイトメアは、どれも橙馬騎士団のシンボルカラーであるオレンジ色をしている。

 彼らが何者で、何をしに来たのかは容易に想像できる。


「昼間の試合で負けた腹いせにあたし達を襲ったのよ。……まったく、騎士にあるまじき行為ね」


 そうこうしているうちに、警察のサイレンが聞こえて来た。

 近くの野次馬が通報したのだろう。スベイレン上層は治安が良く警察が駆けつけてくるのも早い。


「行くぞ」

「え? この人たちはどうするんです?」


 踵を返して歩き出すと、シルフィは車道に横たわる騎士たちを指さした。


「怪我しているみたいですけど、救急車を呼んだ方がいいんじゃ……」

「ほっとけ」

「駄目ですよ、そんなの!」


 急ぎ足で立ち去ろうとするリドレックの腕を掴んで引き止める。

 生真面目な性格のシルフィは、怪我人を放置して立ち去ることが出来ないらしい。相手が卑劣な襲撃者であっても、だ。

 見上げた心がけだが、温情は時として仇となる。手を振りほどきながらリドレックはシルフィを諭す。


「いいんだよ、その方が誰にとっても」

「……? どういう意味ですか?」

「お礼参りに来て返り討ちにあったなんてことが世間に知れたら、恰好がつかないだろう? ここは黙って立ち去る方が相手の為にもなるんだ。あいつらの後始末は橙馬騎士団がやって……」


 そう言って車道に横たわる騎士たちに目を遣り、すぐさま気づく。

 倒れ伏した騎士たちの体から練光の気配を感じた。

 その異常な高まりの正体に気が付いたリドレックは叫んだ。


「みんな伏せろっ!」

「え?」


 シルフィの手を掴み返して引き寄せる。


「きゃっ!」


 悲鳴を上げるシルフィを抱きしめると同時に〈翼盾〉を展開。二人の体を練光の輝きが覆う。

 同時に、路上に横たわる四人の騎士たちの体が次々と爆発する。


「くっ!」

「きゃあああああああっ!」


〈翼盾〉の彼方に閃光が溢れる。

 胸の中で悲鳴を上げるシルフィを抱き抱えつつ、リドレックは〈翼盾〉を制御して爆風に耐えた。


 四つの爆発はスベイレン上層部の一区画を完全に破壊しつくすとすぐに消失した。

 火の手も煙も無い。

 後に残されたのは、瓦礫と化した街並みとそこに横たわる大勢の人々だけだ。


「無事か?」

「……ええ」


 胸に抱いたシルフィの無事を確認してから彼女を解放する。

〈翼盾〉を解いて周囲を見渡す。


 スベイレンで最も治安のよい場所とされている区画が見る影もなく破壊されていた。

 破壊された車両が転がり、瓦礫の上には爆発に巻き込まれた通行人が横たわる。

 不幸中の幸いか、建築物もきれいさっぱり破壊されているので、倒壊による二次被害の危険性はなかった。


「……なんてこと」


 まるで戦場のような有様にシルフィは絶句する。


「……! メルクレアとミューレは!?」


 砂埃に煙る瓦礫の山で二人はメルクレアとミューレの姿を探す。


「あそこだ!」


 程なくしてリドレックは瓦礫に半ば埋もれた姿で横たわるミューレの姿を見つけた。


「ミューレ!」

「退け!」


 慌てて駆け寄ろうとするシルフィを制し、リドレックは短剣を掲げる。

 短剣から伸びる若草色の茨がミューレにのしかかる瓦礫に絡みついた。

 繊細に、力強く――茨を巧みに操りリドレックは瞬く間に瓦礫を撤去してゆく。

 全身が露わになったところで、シルフィは再びミューレの元へ駆け寄った。


 俯せの姿勢で倒れるミューレは意識を失っていた。頭を打ちつけたらしく、ほどけた金髪には血がべっとりとついていた。

 傷口をよく診るために俯せの体を抱き起すと、


「……メルクレア!」


 ミューレの体の下からメルクレアが現れた。

 無言で横たわるメルクレアの姿を見て、シルフィが悲鳴を上げる。

 

「メルクレア! メルクレア! メルッ……、返事をしてっ!!」

「落ち着け! 大した怪我じゃない!」


 恐慌状態になったシルフィに向かってリドレックが叫ぶ。

 リドレックの言うとおり、メルクレアは軽傷だった。ミューレの体が盾になったのだろう、気を失っているだけで大きな怪我は無いようだ。


「……いやっ! どうして!? そんな……」


 しかし、シルフィの恐慌は収まらない。

 

 結局、シルフィは怪我人二人と一緒に、駆けつけた救急隊によって病院に搬送されることになった。


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