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天宮の煌騎士〈ルキフェリオン〉  作者: 真先
【EpisodeⅠ. 白羽の騎士と無銘皇女】
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14. 強豪集結

「何だコレは!」


 検査機に表示されたデータを見るなり審判員が叫んだ。


「使用錬光石六個だと? しかも何だ、この形。どうやって使うんだ?」


 場所は円形闘技場の選手控室。

 午前中最後の試合である十二騎士代表戦を前にして、出場選手たちは武器のチェックとフィルタリング作業が行われていた。


「まったく最近の若いもんは……」


 試合で使用される武器には規定によりフィルターがかけられることになっている。ぶつぶつと文句を言いながら審判員は短剣の光子発射口にフィルターをかける。


 試合の進行を見守る審判員達は、普段はスベイレン騎士訓練校で教官を務めている。

 授業では武器整備を教えている審判員は、リドレックが提出した短剣が気に入らないらしい。

 光子の刃が形成される射出口と、平行に取り付けられたグリップ――奇妙な形をした短剣を渋い顔でみつめ、説教を始める。


「目立つことばかり考えて、武器の実用性というものを考えもしない。錬光石の数を増やせば強くなれるとでも思っているのか?」

「……はあ」

「他に武器は?」


 審判員に言われリドレックは検査台の上に武器を置いた。

 いずれも錬光石を使用した、光子武器である。

 長剣と盾。

 そして指輪が五個、


「いい加減にせんか!」


 次々と差し出される武器を前にして、審判員が再び叫ぶ。


「こんなに武器を持ち込んでどうするんだ? 全部、使いこなせるわけが無いだろう!? まったく最近の若いもんは……」


 年長者特有の常套句を再び口にすると、くどくどと説教を始めた。


「昔の騎士は長剣一本で勝負したものだ。予備の武器など持たず、ただ一本の長剣だけに命を預け戦場へと飛び込んだものだ。そう言う潔さが最近の若者には欠けておる!」

「……はあ」


 教官の説教に、再び気の抜けた返事でこたえる。

 この手の説教にまともに対応してはいけない。

 相手が聞いていようがいまいが関係ない。教官は説教をするのが好きなだけだ。

 この学校に二年在籍してリドレックが学んだことの一つだ。


「……それで、武器はこれで全部か?」

「あ、これも」


 首からネックレスを外し、検査台の上に置く。


「…………」


 ネックレスの先にぶらさがった二個の錬光石と白い羽を見せると、昨日のラルクと同じように審判員は唖然とする。

 もはや怒る気力もないらしく審判員は黙々とフィルタリング作業を行った。


「チェック終了!」


 全ての武器のチェックを終えると、追い払われるように審判員の元を離れる。

 これで全ての準備が完了した。あとは試合の開始を待つだけだ。


 手持無沙汰のリドレックは周囲を見渡した。選手控室にはバトルロイヤルの参加選手の姿があった。

 バトルロイヤルは闘獣と並んで最も過激な競技とされている。その参加選手も一癖も二癖もある強者揃いだ。


 まず灰狐騎士団の賞金稼ぎ、ワイグル・タン。

 闘技会の参加者には、試合ごとに報奨金が支払われる。バトルロイヤルのように危険度が高い競技は、得られる報奨金も高い。常に危険な試合に出続ける彼は、スベイレンの屈指の実力者だ。


 茶熊騎士団のジェンクと緑猪騎士団のピートはバトルロイヤルの常連だ。 二人ともこういった荒っぽい試合に進んで参加する、好戦的な性格の持ち主だ。夏休み明け初日の今日、久々の再会を喜び合っているのだろう。これから試合だというのに、にこやかに歓談している。


 古巣の黒鴉騎士団からはトイル・レナクランが参加している。この荒くれ者は去年、酔っ払って寮の壁に大穴を開けてしまった。その懲罰としてバトルロイヤルに参加させられたのだろう。


 他にも紫鹿騎士団からは双剣使いのロイ。黄猿騎士団所属、出戻りのマクサン。青象騎士団のナグロ。赤牛騎士団のチカートと――、

 

 錚々たる顔ぶれを見て苦笑する。

 参加選手を見回して、今更どうなると言うのだ。

 何しろ自分は二年連続最下位の《白羽》リドレック・クロスト。自分より格下の相手など居やしないのだ。

  空しい戦力調査をやめておとなしく試合が始まるのを待っていると、


「やあ、リドレック・クロスト」


 唐突に背後から肩を叩かれた。

 振り返ると、オレンジ色のアンダースーツを着た長身の青年の姿があった。


「ギンガナムさん?」

「お前も出場するのか? 《白羽》」


 親しげな様子でリドレックに話しかけて来た燈馬騎士団のギンガナム・ベインを、驚きの表情で見つめる。


「え? ええ。……あなたも?」

「ああ、よろしく頼む」

「こちらこそ。でも、何故あなたが?」


 ギンガナムは燈馬騎士団の主力選手だ。

 こんな危険度の高い試合に出るような選手ではない。開幕初日から怪我をするようなことにでもなれば、シーズンを棒に振ることになってしまう。

 

「……いろいろと事情があってな。それよりも、怪我の調子はどうだ?」

「怪我?」

「ナイトメアぶつけちまったろ? 夏休み前の試合で」


 ああ、と言って思い出す。

 昨年度、最後の試合。寮別対抗リーグの最終戦。


 リドレックは当時所属していた黒鴉騎士団の選手として参戦。ギンガナムが所属する燈馬騎士団と対戦した。

 その試合でリドレックはギンガナムの操るナイトメアと追突。重傷を負った。


「あの時は悪かったな。なんか血吐いてのたうち回っていたけど、大丈夫だったか?」


 悪びれた様子もなくギンガナムは訊ねる。

 大丈夫も何も見ていたのならばわかるはずだ。高速で移動するナイトメアと追突して無事で済むはずがない。

 肋骨と内臓をやられたリドレックは、救護班が駆けつけてくるまで地獄の苦しみを味わった。怪我になれていない選手だったら、命の危険すら危うい状態だった。


「大丈夫ですよ。もう夏休み前の事じゃないですか、とっくに治っています」


 作り笑いを浮かべてリドレックは答える。

 今更、昨シーズンの恨み言を言うのも大人げない。

 それにリドレックは試合の後、治療費とは別に多額の負傷手当を受け取っている。おかげで充実した夏休みを送ることが出来た。


「そうか? それならばいいんだがな」


 ギンガナムとそんな話を続けているうちに、試合開始時刻になった。

 選手控室にアナウンスが流れる。


『これより十二騎士代表戦を開始します。選手は入場門に集合してください。繰り返します。これより――』

「お、始まるようだな。それじゃいこうか?」

「はい」


 リドレックは他の選手たちと連れ立って入場口へと向かった。

 

 ギンガナムに上手く話をはぐらかされたことに気が付いたのは、この試合が終わってから随分と後になってからだ。


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