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天宮の煌騎士〈ルキフェリオン〉  作者: 真先
【EpisodeⅠ. 白羽の騎士と無銘皇女】
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10. 開幕戦

 天空島スベイレンには三つの都市機能が備わっている。


 一つは学園都市として騎士たちに訓練の場を提供すること。

 二つ目は交易都市として地上との中継基地の役割を担うこと。

 三つ目は観光都市として帝国臣民に娯楽を与えることである。


 スベイレン騎士学校では毎週末、生徒たちによる闘技大会が催される。

 週末になると若き騎士たちが死力を尽くして戦う姿を一目見ようと、天空島各地から多くの観光客がここ、スベイレンに押し寄せてくる。

 特に今日はシーズン初日。開幕戦が行われるため、いつもより人の入りが多い。

 スベイレン中層にある円形闘技場では、開幕戦が始まるのを今や遅しと待ち続ける観光客で溢れかえっていた。


「皆、準備はいい?」


 エルメラの声が控室に響き渡る。

 円形闘技場、一階にある選手控室。

 開幕戦に出場する桃兎騎士団の選手たちは、試合に向けて準備を進めていた。


「アネットさん。このスーツ、ちょっときついんですけど」


 紅紫色をしたアンダースーツの胸元を抑え、メルクレアがアネットの元へと駆け寄る。


「そんなはずはない。ちゃんと申請通りのサイズを用意したはずだ。お前、サバ読んだんじゃないだろうな?」

「い、いいえ! そんなことは!」

「じゃあ、お前が太ったと言う事だな」

「……え?」


 固まるメルクレアの後ろで、弓の手入れをしながらシルフィが呟く。


「太ったのね」


 さらに、杖を振って調子を見ていたミューレが続く。


「そりゃ、あれだけ食べればねぇ」


 出場選手たちは武器のチェックに余念がない。

 既に審査員による武器のフィルタリング作業は終えている。後は試合が始まるのを待つだけだ。


 一方、陣地構築を任された技術者――ヤンセンとその手伝いであるリドレックは、技術課から借り受けた農作業機械相手に悪戦苦闘していた。


「ヤンセンさん、種撒き機なんて使ったことあんの?」

「あるわけないだろうが」


 円盤型をした農作業用機械をリドレックは不安げな表情で覗き込む。


「大丈夫なの?」

「機動歩兵を扱うよりかは簡単だろ。ここを、こうすれば……」

「ぎゃん!」


 突如、動き出した種撒き機に追突され、リドレックがひっくり返る。


「みんな、いい加減にしてちょうだい!」


 遅々として進まない準備に、エルメラ寮長が苛立ちの声を上げる。


「もうすぐ試合が始まるのよ!? 気を引き締めてかかってちょうだい!」


 混乱した状況にさらに追い打ちをかけるように、連絡係のソフィーがやってきた。


「寮長、審判がお呼びです」

「何ですって? ったく、次から次へと……」

「調子はどうですか?」


 てんてこ舞いの状況の中、控室に顔を出したのはライゼだった。


「ライゼ、何でここに居るの?」

「準備に手間取っているんじゃないかと思いまして、手伝いに来ました。戦列歩兵戦の試合は午後からです。何かお手伝いできることはありませんか?」

「助かるわ。今から審判席に行くからついて来て頂戴。アネット、ここをお願いね」


 副寮長にこの場を任せて、エルメラは審判の元へ向かった。


 ◇◆◇


「どういうことだ!」


 ライゼを伴い審判員席に到着したエルメラが見たものは、主審を取り囲む燈馬騎士団の選手たちの姿であった。


「開幕戦だぞ!? この試合の開始が遅れれば、その後のプログラムにも影響が出るではないか!?」

「ですから、先程から申し上げました通り、総督府の式典が長引いておりまして……」


 燈馬騎士団の選手たちは六名。オレンジ色のアンダースーツを着ている所を見ると、開幕戦の出場選手なのだろう。

 オレンジ色の騎士の中心には、主審と激しく言い争う燈馬騎士団寮寮長、ハスレイ・ラバーレントの姿が見える。


「何かあったのかしら?」


 怪訝な表情で騒動を遠巻きに眺めていると、こちらに気が付いた燈馬騎士団の選手の一人が歩み寄って来た。


「よお、ライゼ。久しぶりだな」


 ライゼに向かって親しげに話しかけてきたのは、副寮長のデニスだ。

 前年度までライゼは燈馬騎士団に所属していた。デニスとも親しい間柄だ。


「久しぶり、デニス。何があった?」


 ライゼはかつての戦友に騒動の理由を尋ねた。


「試合開始時間を一時間、遅らせるそうだ」

「どうして?」

「総督の到着が遅れているんだとよ」


 デニスに言われて貴賓席に目を向ける。

 貴賓席は審判席の一段上にある。デニスの言う通り専用席に総督の姿は無かった。

 スベイレン総督は闘技大会の主催者である。彼が来ないことには試合は始まらない。


「まったく、困ったぜ。俺はこの後、戦車競技に登録しているんだよ。時間がずれ込むと間に合わねぇ」

「掛け持ちかよ?」

「ああ、人手が足りなくてな。お前は開幕戦に出ないのか?」

「……ああ、俺は午後からの戦列歩兵戦だけだ」


 躊躇いがちにライゼが答える。

 開幕戦の栄誉を外されたことを、かつての仲間に知られるのはライゼににとって恥辱であった。


「……フン?」


 それだけで事情を察したのだろう。傍らにいるエルメラを一瞥し、デニスはそれ以上、詮索しては来なかった。


「そうか。ウチもギンガナムが外れているんだ」

「ああ、そう言えば見ないな」


 ギンガナム・ベインは燈馬騎士団の主力選手だ。槍の使い手で、ナイトメアの扱いも上手い。


「開幕戦であいつを外すだなんて、どういうことだ?」


 不思議に思ったライゼがデニスに訊ねる。

 これから対戦する相手にチームの内情を話す義理は無いのだが、以外にもデニスは気安く教えてくれた。


「新寮長のお指図だ。個人戦で確実にポイントを稼ぐっていうのが、ハスラム坊ちゃまの方針らしい」

「よせよ、デニス。不敬だぞ。……で、ギンガナムは何処に?」

「休憩前の十二騎士代表戦」

「バトルロイヤルか。あんな競技にギンガナムを?」

「言ったろ、人手が足りねえんだよ。夏の再編でベテランは軒並み消えちまったし、若造にバトルロイヤルなんて危険な競技を任せる訳にはいかねぇだろう?」

「だからってギンガナムは無いだろう。あいつ内定決まってんだぞ。怪我でもしたらどうするんだ」

「知るかよ。お目付け役のお前が消えたんで、坊ちゃまのやりたい放題だ。……と、話が終わったらしいな。じゃ、またな」

 

 審判への抗議は物別れに終わったようだ。憤然とした足取りで立ち去るハスレイの後を、他の選手たちが慌てて追いかけてゆく。


「……舐められたものね」


 審判員席を出ていく燈馬騎士団のメンバーを見送ると、憤慨した様子でエルメラは言った。


「主力選手抜きでも勝てると思っているなんて、馬鹿にしているわ。試合の掛け持ちだなんて随分とまあ余裕だわね」

「……そうですね」

 

 同じく開幕戦を外された主力選手が半眼で睨んでいるのにも気が付かず、エルメラは気炎を上げる。


「見てらっしゃい。その余裕が命取りになるっていうことを、試合で思い知らせてやるわ!」


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