Epilogue. 神はいずこへ
桃兎騎士団寮に帰って来たのは、日没から大分経ってからだった。
よく手入れされた中庭を抜け、寮に向かって歩いてゆくリドレックは歩いてゆく。
「リドレック!」
寮へと向かう小路の途中に、メルクレアが出迎える。
「お帰り、リドレック!」
「ただいま、メルクレア」
珍しくメルクレアは一人だった。
いつも傍らにいる、シルフィとミューレの姿は無い。
「もしかして、僕を待っていたのか?」
「うん!」
元気よくうなずくと、リドレックに並んで歩き始める。
「でさ、リドレック。聖遺物は見つかったの?」
「いいや」
「そ、残念だったね」
「そうでもないさ」
手にすることこそ叶わなかったが、聖遺物の存在を確信することはできた。
それだけでも十分な収穫である。
「世界のどこかに、聖遺物はある。いつか、必ず見つけ出して見せるさ」
「見つけてどうするの?」
「どうするって?」
「だって、馬鹿馬鹿しいじゃない。聖者様って、大昔に死んじゃった人なんでしょう? 今更調べてどうするの?」
平然と言ってのけるメルクレアに、苦笑する。
「馬鹿馬鹿しくなどないさ。聖者の足跡をたどることは、この世界の真理を知る上で重要な事なんだ」
「世界の真理って、……また難しい話をするの?」
「メルクレアは、この世界が好きか?」
「うん! そりゃあ、大好きだよ」
一片の濁りの無い笑顔で、メルクレアは答える。
「だって、みんないい人ばかりだし。毎日楽しいもん」
「僕は嫌いだ」
「……え?」
「聖者ノイシスは、人類を救うために天空島を作ったといわれている。しかし、はたして人類は救われたのだろうか? 帝国の歴史は戦争と動乱の繰り返しだ。しかもそれらの争乱は、神の名のもとに引き起こされたものだ。万能の神が造ったのにかかわらず、どうしてこうもこの世界は不完全なんだ?」
それは、リドレックが神学校に居た時から抱いていた疑問であった。
「僕は思うんだよ、この世界は神に見捨てられた世界なんだって。人類を天空島という名の牢獄に押し込めて、自らは異世界へと旅立ったのさ」
「異世界?」
「そう、異世界だ。神の力でもって作り上げた、真の楽園にね。僕はね、神様に会いたいんだよ。中途半端に仕事を放っぽり出して、逃げた神様を見つけたいんだ」
「神様にあって、リドレックはどうするの」
問いかけるメルクレアに、リドレックはようやく笑みを浮かべる。
「そうだな――とりあえず、一発ぐらいブン殴りたいね」