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天宮の煌騎士〈ルキフェリオン〉  作者: 真先
【EpisodeⅢ. 神の迷宮】
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31. 試合が終わって

 こうして、迷宮攻略戦ダンジョンマッチは混乱の中、幕を閉じた。


 戦利品を手にした参加者たちは、それぞれが勝利の余韻に浸っていた。


 ◇◆◇


 試合終了後、ライゼはスタジアムに向かった。

 秋休み中のスタジアムに人影は無く、密会には最適であった。


「お望みの品だ」

「良くやってくれました、先輩!」


《四公の銘板》を受け取ったハスレイは、深々と頭を下げる。


 礼を言われたライゼの胸中は複雑であった。

 公国の窮地を救うためとはいえ、桃兎騎士団の仲間たちを裏切った事実は変わりない。


「この事は本国に報告します。公王陛下から何らの褒章が用意されるでしょう」

「褒章なんていらんよ。国のためにしたことだ」

「そういうわけには行きませんよ。なにしろ、国を救った英雄ですからね。場合によっては、騎士団への登用もありますよ」

「騎士団への登用?」

「ほら、採用が決まっていたギンガナムがあんなことになってしまったじゃないですか?騎士団に一人、空きが出来たんですよ」


 あれほど待ち望んだ仕官だったが、ライゼはさほど嬉しくは無かった。

 今のライゼは以前ほど騎士という立場に魅力を感じてはいなかった。


 ◇◆◇


 図書館へと続く通路。

 人気の無い時間帯を見計らって、ヤンセンと校長は落ち合った。


「ご命令通り《ビッグ・アイ》を破壊しました」

「よくやってくれた、ヤンセン・バーグ」


 報告すると、校長は満足そうにうなずいた。


「君のお蔭でこの学校は救われた。ありがとう、ヤンセン・バーグ」

「時に、お訊ねしたいことがあるのですが」


 生徒に向かってしきりに頭を下げる校長に冷めた眼差しを向けつつ、ヤンセンはたずねる。


「何かね?」

「《パンドラ・ボックス》を襲った異端審問官ですが、なぜか試作機の〈ハビリス〉を使っていました」

「……うむ」

「あれは、この学校で評価試験をしたやつですよね? 何か心当たりがあるのでは?」

「それなのだがね、君に相談したい深刻な問題が……」

「またかよ!!」


 この学校の危機は、まだ終わらない。


 ◇◆◇


 試合終了後、サイベルはいつものように《クエンティー・ベル》に向かった。

 このチョコレートショップには、その場で商品を食べることが出来る喫茶室がある。

 そこでサイベルは、マクサンと落ち合った。


「ご注文の品です」

「確かに」


 テーブルの上に置いた記憶型錬光石を受け取ると、マクサンがうなずいた。


「これで、交易同盟も安泰だ。よくやってくれた、何か礼をしなければな」

「じゃあ、ここの支払いお願いします」


 そう言うと、テーブルの上に並んだチョコレートケーキを指さした。


「報酬がチョコケーキ一つってか。……まあ、安くついていいけど」


 苦笑しつつ、マクサンもチョコケーキを一口頬張った。


「……美味いな、これ」

「でしょう?」


 ◇◆◇


 パニラント・ホテルの最上階のラウンジで、フェズリー議員と再会したラルクは早速、戦利品を差し出した。


「ご覧ください〈紫電の大剣〉です」

「お見事です、ラルク様!」


 テーブルの上に置かれた光子武器に、フェズリー議員は歓声をあげる。


「これで、ラルク様も荘園領主の仲間入りですわね。立派な跡取り息子を持って、お父上もさぞかし鼻が高いでしょう」

「……この件を、父は知っているのですか?」

「勿論ですとも。先日、お見せしたファイルもイシュー卿が用意した物です。御子息の活躍に大変、お喜びの様子だと聴いております」

「……そうですか」


 父の姿を思い浮かべ、ラルクは歯噛みする。


 イシュー家の爵位を継承するにあたり、最大の障害となるのは――他でもない、父の存在であった。

 家督を譲られても、実質的な権力は父が握ったままだ。

 このままではラルクは父の操り人形に仕立てられてしまう。

 

 この学校を卒業するまであとわずか。

 それまでにラルクは、父を凌ぐ力を手に入れなければならない。


 ◇◆◇


 助け出された廃兵院の兵士たちは、スベイレンの総合病院へと収容された。

 廃兵院の中で放置されていた負傷者達は、病院内で適切な治療を受けることとなった。


「……まあ、助かったのは勿論嬉しいんだけどさ」


 ナランディもまた、入院し治療を受けることになった。

 病室に放り込まれたナランディは、介護にやってきたミナリエに早速、愚痴を漏らしていた。


「病院暮らしってのは退屈で行けないね。これじゃあ、廃兵院にいるのと変わんないじゃないか」

「贅沢言わないでくださいよ、ナランディさん」

「せめて、看護士ぐらいは何とかならないもんかね。ミナリエじゃ色気もへったくれもありゃしない」

「……すみませんね、色気が無くて」

「どうせならもっとイケメンに介護してもらいたいね。ラルクとか、ゼリエスとか。この際リドレックでも我慢するよ」

「絶対にダメです!」


 ◇◆◇


 試合終了後、リドレック、ゼリエス、ソフィーの三人は総督府に帰還した。

 いずれ、総督から新たな仕事を押し付けられるだろう。

 それまではここ、総督府で待機していなければならない。


 まだ管制室にいるらしく、執務室に総督の姿は無い。

 総督が帰ってくるまで、三人は雑談に興じていた。


「一つ気になることがあるのよ」

「なんです、ソフィーさん?」

「リドレック。あなた試合が終わってから、エルメラ寮長の姿を見た?」

「いいえ。そういや副寮長とジョシュアさんの姿も見てませんね。それがなにか?」

「今回の件では《パンドラ・ボックス》内の収蔵品を巡って、十二騎士団寮をはじめ、学校関係の組織全部が争奪戦を繰り広げていた。にもかかわらず、桃兎騎士団だけが、まったく動きを見せていなかったのよ」

「……言われてみればおかしいですね。あの守銭奴が宝の山である《パンドラ・ボックス》を放っておくはずがない。ゼリエス、お前は何か気がつかなかったか?」

「いいや、何も。まさかとは思うが、異端審問官にやられちまったんじゃないか?」

「それは無いな。そう簡単に死ぬようなタマじゃないよ。あの人は」


 ◇◆◇


 これは、天空島のどこかで交わされた会話。


「エルメラ様、地上部隊からの報告です。《パンドラ・ボックス》の回収を確認しました」

「お疲れさま、ジョシュア。それで、成果のほうはどうなっているのかしら?」

「目ぼしい物は全て持ち出されてしまったみたいです。残っているのは二級品の財宝ばかりですね」

「しょうがないわよね。余り物で我慢しときましょう。頂き物にケチつけるなんて、さすがにずうずうしいもの」

「まあ、迷宮ごと財宝を奪い取った時点で十分図々しいんですけど」

「うっさい、ジョシュア。大体、馬鹿正直に宝さがしなんてやる方が馬鹿らしいのよ。迷宮ごとごっそり頂いちゃうほうが楽だし安全でしょう」

「しかし、こんなことがバレたらタダじゃすみませんよ。法王庁の連中も黙っていないでしょうし」

「その辺はぬかりないわよ。アネット、隠蔽工作の方は上手くいっているのかしら?」

「問題ありません。誰もが皆、異端審問会の仕業だと思っているようです」

「ほら、大丈夫よ。誰もあたし達の仕業だなんて気がついて無いって」

「異端審問会に罪を擦り付けるなんて、つくづく外道ですね。坊様に恨まれたら、地獄にすらたどり着けないですよ」

「地獄の沙汰も金次第よ! 鬼でもあくまでも、金さえあれば買収してやるわよ! あっはっはっはっはっ!!」



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