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天宮の煌騎士〈ルキフェリオン〉  作者: 真先
【EpisodeⅢ. 神の迷宮】
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30. 楡御前、再び

管制室にいるランドルフの元に、報告が届く。


「リドレックが帰還したそうです」

 

傍らにいるクーゼルに向かって話しかける。


「目当ての《聖遺物》は無かったそうです」

「……そうですか」


 ホロ・モニター見つめたまま、クーゼル卿は答える。

 床面に展開されたホロ・モニターは、雲海に沈む《パンドラ・ボックス》を映し出していた。


「みんなガフ総督に振り回されていたというわけですか。とんだ肩透かしだ」


 クーゼル卿はホロ・モニターから目を背ける。

《聖遺物》が無いと知り、興味を失ってしまったようだ。


「今回は、これで引き下がりましょう。後日、あらためてご挨拶に伺います」

「おや、もうお帰りですか?」


 踵を返し、立ち去ろうとするカイリスをランドルフが引き止める。


「せっかくお見えになったのです。

「こう見えて結構、多忙でしてな。もう行かねばなりません」

「まあ、そう言わず。ゆっくりしていって下さいよ――楡御前」

「…………え?」


 カイリスがこちらを振り向くのを狙って、ランドルフが動いた。


 袖口に仕込んだ光子剣を引き抜き、横薙ぎに一閃。

 カイリスの首を切り落とした。

 首と胴が生き別れになったその瞬間、クーゼル卿の姿が給仕用機械人形へと変化する。


 錬光技〈幻影イリュージョン〉。

 

 今までランドルフが話していた相手は、クーゼル卿の姿をかぶせた機械人形だった。

 これ程の幻術を使い手は、ランドルフの知る限り――楡御前を置いて他に無い。


『ホーッ、ホッホッホッホッ!!』


 床に転げ落ちた機械人形の口から、耳障りな合成音が響く。


『気づいておったか! 冴えるようになったな《小覇王》!』

「古い呼び名を……」


 それは、まだランドルフが若かった頃、

 剣術修行に明け暮れ、無頼を気取りベイマンで暴れまわっていた頃の二つ名であった。


『いやいやいやいや、総督なんぞに収まってすっかり錆びついておるかと思いきや、なかなかどうして。ベイマンにその名を轟かせたその剣さばき、いささかも衰えておらんようじゃの』

「《不死鳥》だの《狂戦士》だの、化け物みてぇなガキどもを従えなくっちゃいけねぇんだ。老け込んでなんかいられるか」


 昔の名で呼ばれたせいか、いつのまにか口調まで若いころに戻ってしまっていた。

 伝法な口調で、機械人形の首に向かってランドルフは語り掛ける。


「それで、何しに来たんだ、楡御前?」

『何をしに来た、とはつれないの。お前の顔を見に来たのに決まっているではないか。ヒカリモノ振り回すしか能のない鼻たれ小僧がどれだけ出来るようになったか、見物に来てやったのよ』

「相変わらず暇だな」

『なんのなんの。これでも結構、忙しいのじゃぞ? 同志を殺された上、仕入れたばかりの新人を引き抜かれてしもうたからな』

「ソフィー・レンクの事か?」

『味方に引き入れるとは、お主も成長したの。昔であったらとうに斬り殺しておったろうに?』

「人聞きの悪いことを言うな。彼女は自分の意志でこちらに協力している。連れ戻そうとしても無駄だぞ」

『そんな野暮はせんよ。あれは可哀そうな娘じゃからな。大切に使ってやっておくれ。しかし、ただくれてやるのは面白くないの。そこでじゃ、ここは一つ交換と行かぬか?』

「交換?」

『《白羽》をこちらに譲ってはもらえまいかの?』

「リドレックを?」

『いやいや、先の一件であやつをすっかり気に入ってしもうての。是非とも我らが同志として迎え入れたいのじゃ』


 そして、再びけたたましい笑い声を上げる。


『あやつはお前の手に負えるような男では無い。持て余す前に儂に譲るが肝要じゃぞ?』

「条件がある」

『聞こう』

「皇女から手を引け。今後一切、メルクレアには――皇女には手を出さないと約束しろ」

『それはだめじゃ! 法外じゃ! 皇女の命と騎士一人が釣り合うわけが無かろうが。阿呆め!』

「なら取引は無しだ」

『しょうがないの。諦める他無いようじゃ。後悔することになるぞ、小覇王』


 口惜しげに言う、楡御前にランドルフは笑った。

 もとより、楡御前と取引するつもりなど端から無い。

 破壊と殺戮を愛する生粋のテロリストに、交渉など通用するはずがない。


『やれやれ――そんなに姪御が可愛いか?』

「…………」


 楡御前のその一言で、

 ランドルフの顔から表情が消えた。


『皇女様も大きくなったものじゃの。このまま大きゅうなれば姉君に似てさぞ美人に……』


 最後まで言わせる前に、機械人形の頭を踏みつぶす。

 けたたましい合成音が消えると、管制室に静寂が訪れる。


「総督、総督閣下!?」


 静まり返る管制室に、やがてバーンズ校長がやってきた。


「申し訳ありません総督閣下、お引き留めしたのですが……」

「失礼する、総督!」


 校長を押しのけ前に出たのは、本物のカイリス・クーゼル卿であった。

 総督の指示通り、校長はカイリスの足止めをしていたらしい。

 いつの間にか終了した迷宮探索戦ダンジョンマッチに、クーゼルは怒り心頭の様子であった。


「これは一体、どういうことですか!? 説明していただきますぞ!!」


 今の今まで、執務室で飲んでいたのだろう。

 大分酩酊しているらしくクーゼル卿の顔は、酒で真っ赤に焼けていた。


(……また一からやり直さなけりゃならんのか?)


 深く嘆息すると、

 足元に散乱する機械人形の残骸を、ランドルフは恨めしそうに眺めた。


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