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天宮の煌騎士〈ルキフェリオン〉  作者: 真先
【EpisodeⅢ. 神の迷宮】
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29. 要塞、堕つ

 重力場発生装置が破壊されたのは、メルクレアがようやく一機目を倒した所だった。


「しまった!」


 黒煙を上げて沈黙する重力場発生装置を見上げ、メルクレアは舌打ちする。


 しかし、リドレック達を気遣っている余裕は、今のメルクレアには無かった。

 重力場発生装置の破壊に向かっていた後方部隊は、メルクレア達と戦闘を続けていた前衛部隊とすぐさま合流。

 総力を挙げて、メルクレア達の掃討に取り掛かった。


 機械歩兵の手にしたライフルから伸びる光弾を、メルクレアは華麗な動きで躱してゆく。

 今日のメルクレアは騎士学校の制服姿だった。

 試合の時のような光子甲冑は身に着けていない。

 死の緊張感が、逆にメルクレアの攻撃本能を刺激した。


「たぁっ!」


 機械歩兵たちの射撃の合間を縫って、メルクレアは反撃に出た。

 丁度目の前に、白兵戦武器に持ち替えた機械歩兵を見つけた。

 小剣を逆手に構え、メルクレアは戦いを挑む。

 最新型とは言え相手は機械歩兵。既に動きは見切っている。

 一合、二合と剣を交えた後、機械歩兵の腕を切り落とす。

 武器を失った機械歩兵はすぐさま戦線を離脱しようと試みる。

 そうはさせじと、追撃しようとするメルクレアに、援護の一撃が飛んできた。


 機械歩兵の背後に隠れるように、人影が潜んでいた。

 複雑な文様が刺繍された朱色のストールを身に着けた、錬光教会の高司祭は右手に構えた錫杖をメルクレアに向けて構えていた。

 錫杖の先端から、光の奔流が迸る。


 錬光技によって作り出された光弾が直撃する寸前、

 メルクレアの眼前に〈シールド〉が展開。

 光弾を弾き飛ばした。


「……え?」


 茫然とするメルクレアに、背後からソフィーの叱責が飛ぶ。


「メルクレア! 前に出過ぎよ!!」

「う、うん。……ありがとう」


 防壁を展開しメルクレアの危機を救ったのは、ソフィーだった。


 気に食わない相手ではあるが、命の恩人であることには変わりない。

 ためらいがちに礼を言うと、照れたようにソフィーは頬を染める。

 赤くなった顔を背け、ゼリエスに向かって叫んだ。


「ゼリエス! 奴を倒して!」

「承知」


 短く答えると、ゼリエスは高司祭目がけて突進する。

 ゼリエスは颶風のごとき速さで、行く手を阻む機械歩兵たちをなぎ倒してゆく。


(……すごい!)


 卓越した剣技に、メルクレアは驚嘆する。

 最新型の機械歩兵相手にゼリエスは錬光技を使わず、純粋に剣技のみで機械歩兵を次々と倒してゆく。

 やがて、ゼリエスは高司祭の元へとたどり着いた。


「異端審問官だな?」

「黙れ! この異端者め!」


 剣を向けるゼリエスに、僧服の男は吐き捨てる。


「神に仇為す愚か者! 天罰が下ろうぞ! 一族郎党、末代まで呪われるがいいわ!」


 呪いの言葉に、人斬りは耳を傾けることは無かった。

 右手に持った凶刃を、問答無用で振り下ろす。

 僧服の男は声も無く絶命する。


「……一度、坊主を斬って見たかったんだ」


 返り血を浴びて嗤う人斬りの姿に、メルクレアはぞっとする。

 敵に回せば恐ろしいが、味方につければこれほど頼もしい人間はいない。


「粗方、かたづいたようね」


 ソフィーの呟きに、メルクレアは現実に引き戻される。

 周囲を見渡すと、いつの間にか戦闘は収束へと向かいつつあった。


 あれだけ居た機械歩兵たちも


 床に空いた大穴から下を覗き込む。

 眼下に浮かぶ《パンドラ・ボックス》を、不安げな様子で見つめる。


「大丈夫なのかな?」

「大丈夫よ」


 スベイレンからの重力場から離れた《パンドラ・ボックス》は激しく揺れていた。

 今にも落下しそうな様子の《パンドラ・ボックス》を見つめ、ソフィーが呟く。


「《パンドラ・ボックス》にも浮遊機能があるわ、すぐに落ちるって事は……」


 そう言った瞬間、

 地上から、一条の光が《パンドラ・ボックス》に向けて伸びてきた。

 巨大な光子の輝きが包み込むと、移動要塞はゆっくりと降下を始める。


牽引トラクタービームですって!」


 蒼ざめると同時、ソフィーは悲鳴のような声をあげる。


「スベイレンからの勢力圏から外れたわ! 落ちるわよ!」


 ◇◆◇


 一際大きな衝撃が《パンドラ・ボックス》を襲う。


「急げ! 沈むぞ!」

「言われんでもわかっている!」


 走りながらも、リドレックは全てが手遅れになっていることを悟っていた。


(間に合わない!)


 既に《パンドラ・ボックス》は降下を始めている。

 このまま走っていても、出口に着くころにはスベイレンの勢力圏から出てしまうだろう。

 そうなったら、リドレック達にもはや助かる術はない。

 はやる、リドレックに、


「ちょっと待て! そこにトラップがある!!」


 ヤンセンの警告に、桃兎騎士団の一行は足を止める。

 

「落とし穴だ。そこを踏んだらスベイレンの外に弾き飛ばされる」

「またかよ!」


 うんざりとした様子でサイベルが叫ぶ。


 解除している時間は無い。

 迂回路を探している時間も、もちろん無い。

 いよいよ絶望的な状況に、リドレックの脳裏にひらめくものがあった。


「……この落とし穴、何処に出ますか?」

「《パンドラ・ボックス》の真上だ」


 立体地図を見つめ、ヤンセンが答える。

 排気ダクトを応用した落とし穴は、管制室で手に入れた立体地図に正確に記されていた。

 ヤンセンの掌中に浮かぶ立体地図を覗き込み、リドレックは呟く。


「……やるしかないな」

「まさか、お前……」


 察しの良いヤンセンはリドレックが何をやろうとしているのかすぐさま気が付いたようだ。


「みんな! 落とし穴に飛び込め!!」

「本気か! リドレック!?」」


 悲鳴を上げるラルクに、それ以上の音量でリドレックは叫ぶ。


「このままじゃ間に合わん! ナランディさんは排気ダクトを伝って移動していた。俺達に出来ない道理はない!!」


 言いながら、リドレックは腰から〈茨の剣〉を抜き放ち、展開する。

 さらに光子武器に向けて思考を巡らせる。

 ライムグリーンの刃の先から一本の茨が顕現し、仲間たち野間駅と向かって伸びてゆく。


「そいつに捕まれ。いいか、絶対に離すなよ!?」


 言うと同時に、リドレックは自ら落とし穴へと足を踏み入れた。

 足元の床が開き、圧縮空気で落とし穴の中に吸い込まれる。


「ぎゃあああああっ!」


 引きずられるようにして、茨を掴む仲間たちも落とし穴へと落ちてゆく。

 高気圧の圧縮空気にもみくちゃにされながら、リドレック達は落とし穴を落ちてゆく。


 やがて、吐きだされるようにして《パンドラ・ボックス》から飛び出した。

 眼前にスベイレンの巨大な底面が広がる。

 急激に切り替わる重力に眩暈を覚えつつも、首の羽飾りに意識を這わせ〈翼盾ウィングシールド〉を展開。

 五人分の体重を引っ張りながら、重力場発生装置目がけ大空を飛行する。


 再び〈茨の剣〉に意識を這わせさらにもう一本、茨を伸ばす。

 短剣の先から伸びる茨は、スベイレン底辺にある機関部の手すりに絡みついた。


「……ふうっ!」


 一息ついたところで、リドレックは頭上を見上げる

 手すりの傍には、見知った顔がこちらを覗き込んでいるのが見えた。

 

「リドレック!」


 リドレックの名を呼ぶのは、満面の笑みを浮かべるメルクレア・セシエだった。


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