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天宮の煌騎士〈ルキフェリオン〉  作者: 真先
【EpisodeⅢ. 神の迷宮】
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28. 聖者の正体

「聖者ノイシスの、凍結受精卵?」

「そうです」


 聖遺物の正体を口にすると、カイリス・クーゼルは深く頷いた。


「分析の結果、発見された凍結受精卵は、聖者ノイシスと遺伝子が同一のものであると判明しました。これが何を意味するかお分かりですか?」

「つまり、聖者ノイシスは人工授精によって生まれた人造人間だったと言うのか?」

「そうです。そしてそれは、我々が神とあがめていた聖者ノイシスが、ただの人間だったということに他ならないのです」


 衝撃の事実に、総督はとりあえず疑問に思ったことをカイリスに訊ねる。


「ガフ総督は、どういう経緯でその、凍結受精卵を手に入れたのですか?」

「それはわかりません。確かな事は、これは皇室にとって致命的なスキャンダルだと言う事です。何百年も民衆を騙し続けてきたペテンが露見してしまうわけですからね。この事実が公になれば、皇帝の権威は失墜することになるでしょう。帝国は崩壊するでしょう」

「果たして、そうかな?」

「なんですって、総督?」

「君は、民衆が皇帝に付き従うのは、神の末裔であるからと思っているのかね?」

「それはそうでしょう。ハイランドは神の作りたもうた土地であり、その所有者は神の末裔である皇帝にある。帝国の成立から、皇帝は自らを神の子と自称しハイランドの支配権を主張し続けて来たのです。ただの人間に民衆が従う道理がない」

「若いな、君は」


地上帰りの騎士を前に、ランドルフはくつくつと笑った。


「民衆が皇帝に忠誠を誓うのは、皇帝が神の末裔だからじゃない。その支配体制が、民衆にとって都合がいいからだ。神だろうが人だろうが、日々の糧さえ得られれば支配者など誰でもよい。大衆とはそういうものだ。聖者の正体がなんであれ、帝国は微塵も揺らぎはしないさ。それほどまでに帝国は腐りきっているんだよ」


◇◆◇


「つまり、聖者ノイシスは人工授精によって生まれた人造人間だったのですよ!」

『……ふーん』


 明かされた衝撃の事実に、桃兎騎士団の反応は至って淡白であった。


「あれ? 何でそんなに、リアクションが薄いの?」


 あまりにも薄い反応に、リドレックは戸惑う。


「せっかくここまで引っ張って来たんだからさ、もうちょっと驚いてよ!」

「いや、驚いているよ。驚いているけど……」

「話がでかすぎて、今一ピンと来ないな……」


 盛り上げようとするリドレックに、ライゼとヤンセンは困惑したように首をかしげる。


「それで、聖者ノイシスが人間だったとして、それでどうなるんだ?」


 さらにサイベルが、どうでも言いような口ぶりで訊ねる。


「どうって……」

「別にいいじゃん。聖者様が人間だって。何百年も前にくたばった奴なんて、俺達に関係ないし」

「よかないだろう!?」


 身もふたもない言い様に、リドレックが荒ぶる。


「いいか、僕達ハイランダーは神の教えに従って生きて来たんだ! 天空島へと移り住んだのも、十字軍を編成し地上への遠征に乗り出したのも、神の教えに従ったからだ。その神の教えをもたらした聖者が、ただの人間だったとしたらどうなる? いままで築き上げてきた

『……へー』

「だから! 何でそんなにリアクションが薄いんだよ!?」

 

 地団太を踏むリドレックに、ラルクが語り掛ける。


「お前さ、俺達が今、誰と暮らしていると思ってるの?」

「え?」

「メルクレアだよ」


 その後を、ライゼが続く。


「無銘皇女様と暮らしているんだぞ。今は無き皇太子殿下の御落胤。皇室最大の禁忌タブー。その存在は帝国の」

「彼女の命を狙って次々と刺客がやって来る。巨人には襲撃されたし、人斬りゼリエスにも襲われた」


 さらに、ミナリエとヤンセンが、


「帝国の危機だとか言われても、今更だよな」


 最後に、サイベルが意見を口にする。


 度重なる襲撃で、危機感が麻痺してしまっているらしい。

 その口ぶりは、何か達観したものが感じられた。


「と、とにかく、こいつを回収するぞ! スベイレンの研究所で分析すれば……」


 言いながら、リドレックは開け放たれたタンクに取り付いた。

 冷却液の中から、試験管を取り出す。

 凍結卵子が納められているはずの試験管を覗き込み、呟く。


「……空っぽだ」


『あはははははははははははははっ!!』


 試験管を握りしめ茫然とするリドレックに、室内は爆笑に包まれる。


「リド、お前って、いつもそうだよな!」

「そうそう、肝心なところでポカをやるんだ」


 ラルクとミナリエ、同期の二人が指をさして笑う。


「天性のお笑い芸人だな。マジで笑いの神様に愛されてるんじゃねえの」

「ガフ総督に謀られたな。どこかに持ち出した後か、それとも始めっから聖遺物なんてここには無かったのか。いずれにせよ、とんだ無駄骨だったな」


 腹を抱えるサイベルに、ヤンセンは肩をすくめる。


「くそっ! ここまで来て、空振りだなんて……」

「まあ、何にしても良かったんじゃないか? これで世界の危機とやらも回避……」


 がっくりとうなだれるリドレックの肩に、ライゼが手を置いたその時、

《パンドラ・ボックス》全体を揺るがす、激しい振動が襲った。


「……なんだ?」

「ああ。そう言えば……」


 突如、思い出したようにリドレックが口を開く。


「ボルクスさん達、白羊騎士団は教会の依頼で《聖遺物》の回収を命じられていたんです。で、回収に失敗したんで教会の始末屋たちが《パンドラ・ボックス》を破壊するって……」

『それを早く言え!』


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