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天宮の煌騎士〈ルキフェリオン〉  作者: 真先
【EpisodeⅠ. 白羽の騎士と無銘皇女】
1/104

Prologue. 夏の始まり

 高鳴る心臓と乱れた息を整えつつ、リドレック・クロストは闘技場を駆け抜けてゆく。


 騎兵戦用に設定されたグラウンドは酷く走りづらい。必死に両足を動かすが緩衝材に足を取られて思うように前に進まない。

 背後から迫りくる機械音を横っ飛びでやり過ごすと、傍らをオレンジ色の錬光騎――ナイトメアが猛スピードで通り過ぎてゆく。


 高速で駆ける鋼鉄の騎馬の上には、機体と同色であるオレンジ色の光子甲冑を纏った騎士の姿があった。

 消化試合だというのにもかかわらず橙馬の騎士たちは意気盛んであった。

 優勝杯だけでは飽き足らず、最終戦を勝利で締めくくりたいのだろう。ナイトメアに跨る騎士達は、いずれもタイトル持ちの強者ばかり。まるで開幕戦のような気合の入れようだ。


 対してリドレックが所属する黒鴉騎士団は、敗戦処理に駆り出された二軍、三軍の兵ばかり。士気は低く装備も貧弱であった。

 当然、ナイトメアなどという高級品を持っているはずもなく、高速で移動する騎兵相手に徒歩で挑まなければならない。


 騎兵相手に正面から戦っても勝ち目はない。

 試合終了の鐘がなるまで、ただひたすら逃げ続けることだけを考える。

 ヘルメットに投影される視覚情報だけでは、四方から高速で迫りくる敵の姿をとらえることは難しい。

 頼みの綱は聴覚だ。

 耳を澄ましてナイトメアの奏でる機械音をとらえ、攻撃のタイミングを推測して体を動かす。


 ダンスと同じ要領でナイトメアの攻撃を躱してゆく。

 間違っても攻撃に転ずるような真似はしない。

 今シーズンも今日が最終日。今更ポイント稼ぎをしても意味はない。


 必死で逃げ惑う無様な騎士の姿は、観客席を大いに沸かせた。

 闘技場に集う紳士、淑女が求めているのはささやかな刺激だ。

 試合の勝敗など誰も気にしていない。武骨な機械音に合わせて踊る騎士たちの姿は無聊の慰めにもってこいだ。


 試合時間、終了五分前になった所でリドレックは敵に捕まった。


 右方向の死角から接近してきたナイトメアの姿に気が付かなかったのだ。

 右わき腹にナイトメアの突撃をくらったリドレックは、闘技場の宙を舞った。

 どうやら内臓を損傷したようだ。口から血を吐きながら闘技場を転がり回り、リドレックは仰向けに倒れる。


 吐血した状態で仰向けの姿勢は良く無いことは承知している。

 吐き出した血が気管に入れば窒息死する危険性があるからだ。

 それでもリドレックは姿勢を変えようとはしなかった。

 芝生に寝そべって見上げる紺青の空は、どこまでも高く、青く、美しかった。

 蒼穹を貫く強い日差しは、季節の無いスベイレンに夏の訪れを予感させてくれた。


 血を吐きながら空を見上げているうちに、試合終了の鐘が鳴った。

 駆け寄る救護班の足音を聞きながら、リドレックは血まみれの口元を吊り上げ微笑む。


 ――明日から夏休みだ。


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