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4月。クラスの朝、ホームルームでのこと。

こんなのぜったい、おかしいよ

「おっすおっはーアッキーラー! やー今日も元気で元気な瀬戸叶君が登校してきたよ! 褒めろ! むしろ褒め称えろ! 崇め! 奉れ! そしてこの世の全ての女の子は俺の嫁! 二次元だろうが三次元だろうがどんと来い! 体力には自信があるよ! あーでも姉貴は論外だがな! さあ彰! 俺に向けての今日の一言はなんだ? プリーズ・フォロー・ミー!」

「とにかく黙れこの年中発情期。去勢されたいか」


 その一言を放ちつつ近寄ってきた瀬戸の顔にとりあえず拳をめり込ませてまた考え込むことに。

 さて。どうやって今日を過ごすか「相棒君、先ほどの彼は大丈夫なのかい?」。とりあえずは今日は朝飯を食っていないので考えが回らん上に腹が鳴りっぱなしだ「相棒君、聞こえていないならばもう一度言わせてもらうが、先ほどの彼は大丈夫なのかい?」。おまけに昼飯を作りそこねた「おーい、相棒君?」。しょうがないから購買でパンを買ってやり過ごして……「聞こえているかい? 相棒君?」ああ、そう言えば図書館の蔵書確認の作業、結果的には途中で止めて家に帰ってきたんだっけか「意図的な無視かな? 白昼夢を見るには早すぎるだろうに」。それについてもなにか言い訳というかそんなんををとりあえず考えておかないとな「それとも無意識的な無視かな? いや、君にそんな高等技術使えるわけがないか」。いやいや待てよ? その件については瀬戸が説明しているはずだ「相棒君、隣の彼がとうとう泣き始めたのだが」。いくらあいつがバカで姉である望さんを嫌っているとはいえど、その程度のことはきちんと伝えているはずだ。でもひょっとしたら、ということもあるかもしれないし「相棒君、彼を止めてくれ。いい加減彼の泣声がうるさい。まるで駄目なカナリアの歌声を聞かされているみたいだ」……。

 というか……。


「さっきからうるさいのはお前だ――――!」


 勢いに任せて机の横に掛けてあった鞄をつかみ、思いっきり瀬戸の頭上に振り下ろす!


 ごがっ。


「「がぁぁぁぁ――――――――――――――――――――――――――――――――!」」


 明らかに鈍器か何かで殴られたような音を響かせ、瀬戸はその場でもんどり打った。


「てめぇ、彰! なにしやがる!」

「うっせぇ! さっきからぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーうっさいんだよ! ちょっとは黙れ! 喋っていないと生きられないのかお前は!」

「だからといって本を鈍器にするのはいかがなものかな相棒君! 本は貴重な遺産だ! それをこう扱うというのは遺産に対する冒涜いたたたたたたたた!」


 そう二人(一冊はビニール紐で黙らせた)で言い合っていたらいつの間にやら朝のホームルームが始まっていた。だるそうに我がクラスの担任、本居島先生(独身。チョイ悪風の二十九歳)が入ってきた。


「おーし、席に着いているなー? ……日直、号令」

「きりーつ、気をつけー。れーい」


 一連の動作をやってみていただければ概ね正解だと思う。


「適当だな」

「うっせえ、黙れ」

「よっし。そこでなぜか怨嗟の声を上げている本屋は放っておくとして……今日の行事についてなんだが、特にない」

「ありきたりだな。特になければ言わなければいいのに」

「そういう仕事なんだろ」


 知らないが。


「……ああ、そうだった。転校生を紹介したいと思う」


 どよめき。

 クラスの中にざわざわとした空気ができる。

 つかなんださっきの。無くした眼鏡が頭の上にあったような言い方は。


「センセー、転校生は男ですかー? 女ですかー?」

「こういう質問する奴は高確率で群衆に一人はいるな。ちなみにどの程度の確率かというと――」


 なにやら話し始めたベブズをきつく縛って黙らせた。

 めんどくさげに本居島先生(独身。チョイ悪風の二十九歳)は頭を掻き、


「あー、一応女だ」


 男子からは喝采。そして瀬戸は目を光らせている。


「センセー! その女の子はかわいいですかー?」


 やっぱりいいやがったよこのバカ。

 本居島先生(独身。チョイ悪風の二十九歳)はまたもめんどくさそうに、


「あー、先生のストライクゾーンには入らなかったな」

『あんたのストライクゾーンなんぞ知らんわ!』


 本居島先生(独身。チョイ悪風の二十九歳)の発言に対し、男子全員からのフルつっこみが来た。

 そして先生はぱんぱんと手を叩き、


「お前ら静かにしろー。そして瀬戸以下男子全員後で職員室な。……いいか? 今回このクラスに入ってくる生徒を早速だが紹介しよう」


 本居島先生(独身。チョイ悪風の二十九歳)がそう言った時、教室の扉ががらがらと開き、その生徒が入ってきた。

 男子はおお、との感嘆の声。

 女子はきゃあ、との若干黄色い声。

 そして俺は……。


「彼女は帰国子女で、一時期イギリスの学校に通っていたが、ご両親の仕事の都合上、日本に来ることになった。まだ日本の風土とか、文化、もちろん、この学校についてはそんなによくは知らん。せいぜい入学事項が書かれてあったパンフレットを読んだくらいだ。みんな、親身になって彼女の疑問に答えてくれ。えーっと……」


 本居島先生(独身。チョイ悪風の二十九歳)がどうやら転校生の名前を忘れてしまっているようだが、彼女は自ら名乗り出た。


「ハジメマシテミナサン。キノエマミナコイイマス。ドウゾ、ヨロスク」


 そう言ったとき、先生はおお、と名前を思い出したのか、黒板に白い線が幾重にも連なって名前が形成されていった。

 

 木之絵馬きのえま 美奈子みなこ


 見覚えのある顔に、見覚えのあるボブカット。

 はきはきとした、落ち着いた声(カタコトだけど)。

 そして制服じゃなくなぜ和服なんだ。

 そういえば彼女の声(カタコトじゃ無かったけど)を落ち着いて聞いている暇なんて無かった。

 無かったのだが……。

 そして俺と目があったとき、彼女――キノエマ、いや木之絵馬はふっ、と笑った。


「幸運の女神が明後日を向いたかのか、あるいは死神が相棒君に笑いかけたか。二つに一つだね」


 ベブズが言ったことは合っているだろう。俺の今日一日、何事も起こらなければいいのにというささやかな願いは、いとも簡単に打ち消された。

 隣では瀬戸が「美少女じゃぁ! 美少女じゃぁ!」と何か祭りの囃し声に似たような物を発していてうるさかった。ベブズを使って止めればよかった。

 本居島先生(独身。チョイ悪風の二十九歳)は言い忘れていたのかもう一つ付け加えた。


「ああ、そう言えば彼女は努力家で、日本語についてはある程度はマスターしているそうだ。コミュニケーションのことで心配する必要は無いぞ」


 ――いや、先生。その人は普通の人間じゃ無いんですけど。なんかどこかに筋肉質の黒い腕を隠し持ってるんですけど。ていうかそれ以前に日本語マスターしているしていないの問題じゃないんですけど。何てったって昨日俺そいつと会話してましたしついでに命狙われたんですけど。

 しかし、そんなことは口が裂けても言えなかった。


「んで、木之絵馬の席なんだが……」


 と先生がクラスを見渡す。それを見計らったかのように瀬戸が、


「はいはいはいはいはーい! 俺の後ろの席がちょうどいい空間が広がってますのでそこを有効活用してみてはどうでしょうか!?」

「回りくどい言い方をするものだね」

「まあな」


 てか、一番なりたくない人が隣にやってきたよ。

 そうやってぼそぼそとつぶやいていると先生は表情を変えずに、


「おお。じゃあちょうど瀬戸の後ろが開いているな。そこを使おう。木之絵馬、いいか?」

「ハイ、モーマンタイデス!」


 木之絵馬がそう言った瞬間、俺は「いやそれは中国語だろ」とつっこみを心の中で入れ、瀬戸は素早く、かつ迅速な作業で机を隣の空き教室から引っ張り出してきて木之絵馬の席をつくった。それこそ瞬きをしている速度で、だ(言い過ぎではない)。

 叶は全ての机のセッティングをした後、木之絵馬の前に跪き、右手をとって、恭しく話し始めた。


「よろしく、ミス・美奈子。俺の名前はミスター・叶。あなたに自分の真名を明かすとするならば、瀬戸叶と名乗りましょう。そして今夜一晩、俺と忘れられない夢のひとときを過ごしてみませんか? ちなみにこっちにいるだめだめっぽい冴えない男が本屋彰。本屋の影と書きまして本屋彰。俺の頼りになりそでならない従者です」

「だれが従者だだれが。しかも漢字をまた間違えているし、そして出会った瞬間女を口説くな」


 そう言って瀬戸の頭にチョップ。

 したのだがなにぶん威力は低めだ。いつもなら強い力の所、弱くしか叩けていない。

 擬音で示すならば「ぱふっ」とした威力でしか叩けなかった。

 そんな様子を木之絵馬は黙って冷たい目線で主に俺を見ていた。

 そんなこんなで、朝のホームルームは終了して、何事もなく午前中の授業も終わった。

 普通と変わったことといったら、英語科の先生が木之絵馬にどこぞの進学校の問題を出してそれに対して木之絵馬がすらすらと答えていた、ということだったか。あいつ、英語は得意だったんだな。うちの英語教師が半泣きしてたぞ。


「あの程度の言語ならば理解は可能だ」


 そう言ってベブズは教科書の訳文をすらすらと言っていた。テストの時にコイツ連れて行けばいいんじゃないだろうか。

 そして昼休み。転校生にはありがちの在校生による質問タイムが引き続いていた。

 みんなが口々に質問している中、木之絵馬は、


「ミナサンスミマセン。ワタシ、サキホドモトヤクントガッコウアナイシテモラウコトニナッテイタノデース」


 ぬけぬけとこちらを見ながらぬかしやがった。コイツ確信犯だ。

 当然俺はそれを断ろうと口を開きかけたのだが、


「モトヤクン! サキホドノヤクソクウソダッタノデスカ!?」


 とこちらに近寄ってきて両手を握ってきた。なんか両目がうるうるしている。


「演技にしてはすごいな。旅芸人に向いてはいないが」


 ベブズがぽつりと感想を漏らした後、俺にしか聞こえないくらいの小声で、


「――殺しはしない。付き合え」


 と言ってきた。

 その後に俺は何か言い返そうと思ったのだが、ここでもしも断ろうものならば、俺はクラス男子から粛正(主に瀬戸から)を受け、女子からは冷たい目線を向けられること請け合いだろう。


「……はい。そーでしたね……」


 この場の空気に流されて、うなずいて行くしか無かった。


今回の没ネタ。

「さっきからうるさいのはお前だ――――!」

 勢いに任せて机の横に掛けてあった鞄をつかみ、思いっきり瀬戸の頭上に振り下ろす!


ごがっ。


「「「がぁぁぁぁ――――――――――――――――――――――――――――――――!」」」


 三人分の悲鳴が聞こえてきた。……三人?

 俺は気がかりになって鞄を開けると、


「へんなおじさん。へんなおじさん。へんなおじさんったらへんなおじさん……」

「なんか出てきたぁぁぁ!?」


 鞄の中から腕をぐるぐる回しながらはげヅラチノパンのへんなおじさんが「へんなおじさん」を歌いながら出てきた!!


――HEN NA OJISAN! HEN NA OJISAN!――

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