ep06:領主とパスタ
「領主様、できました」
「待ちかねたぞ。ここに置け」
料理が完成して、振り返ってみたら、壁際の領主様の前にテーブルが置かれている。
領主様はその場で食す気満々だった。
すぐに食べたいからというよりも、僕とベルさんを二人きりにさせたくない感が漂っている。
僕はベルさんが渡してくれた深皿にスープパスタを盛ると、領主様の前に置いた。
騎士たちの食器は、お皿もフォークもスプーンもシンプルな木製品だったけど。
領主様の食器は、蔓草模様が描かれた陶器と銀のカトラリーだった。
ウォルクリスの記憶によれば、この世界では陶器や銀食器は高級品で、裕福な人しか使わない。
一般人は木製品を使うのが常だった。
「ベルさんも試食が必要かと思い、二人分御用意しました」
「うむ。ベルもここに座って食べなさい」
「ありがとうございます」
領主様は、ベルさんを溺愛しているらしい。
メイドも分かっているらしく、命じられなくても椅子をもう一つ持ってきて、領主様と対面の位置に置いた。
領主様は、騎士たちへの対応とベルさんへの対応が全然違う。
その優しい声や表情は、騎士団に自炊を命じた人とは別人のように見える。
ベルさんは何度か領主様と一緒に食事をした経験があるのか、躊躇わずに席に着いた。
「ほお、これは美味い」
領主様はパスタを一口食べた途端、一気に機嫌が良くなった。
料理への差別意識は無いらしく、素直に感想を述べた。
この人はきっと、食べることが大好きなんだろう。
「パンの材料からこんな料理ができるなんて、ウォルは一体誰から習ったの?」
「昨夜に夢で見て、試しに作ってみたんです」
「まあ、イリキーヤ様の加護を頂いたのかしら。素晴らしいわ」
ベルさんはパスタのモチモチ感をしばらく楽しんだ後、再び目をキラキラさせて訊いてくる。
僕が答えると、彼女は輝くような笑顔を浮かべて言う。
僕たちのやりとりを見て、領主様が少しムッとした。
そんなに妬かなくてもいいのに。
「だとしたら、この料理はもっと広めるですね」
「へ? あ、あぁそうだな」
食べ終えてナプキンで口元を拭くと、ベルさんは領主様を見つめて言う。
領主様は一瞬ハトマメな顔をしたものの、すぐに理解したのか頷いた。
「貴族の皆さんを御招待して、この料理を食べてもらいましょう!」
「お、おぅ」
ベルのテンションに若干圧倒されつつ、領主様が同意する。
なんかよく分からんけど、パスタ布教が始まるようだ。
とりあえず僕は調理方法を教えたし、もう宿舎に帰ってもいいかな?
「あの、僕はそろそろ宿舎に帰らせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「ん? あぁご苦労だった」
「待って」
恐る恐る伺ったら、領主様が僕の存在を思い出したように頷く。
僕が帰りかけたら、ベルさんが僕の腕を掴んで引き留める。
「ウォルくん、この料理は何というの?」
「スープパスタです」
「お披露目パーティにはウォルくんも参加することになるわ。また来てね」
「え……っ?」
「イリキーヤ様の啓示を発表するんですもの。啓示を受けた子がいなくてどうするの」
「えぇぇっ?!」
ベルさんにパスタのレシピを教えて終わりかと思ったら、続きができてしまった。
っていうか、ベルさんからも火食の神様の啓示を受けた者だと誤解されている。
すいませんイリキーヤ様。
会ったことも話したことも無いのに、加護や啓示を貰った人だと思われてます。
どうか怒らないで下さい。罰当たりな僕を許して下さい。
僕は心の中で、まだ見ぬ神様に平謝りした。




