ep61:お転婆姫
ヴィオレット様は確かに「近いうちに城へ招待しますわ」とは言ってた。
しかし、予告なしでいきなり背後に現れるとは思わなかった。
しかも、独りで街にいるとは想定外だ。
「で、殿下、護衛はどうされましたか?」
バスチアン先輩が焦りまくってる。
一応、小声で言っているので通行人に聞かれてはいないけど。
ヴィオレット様は足首まで覆う白地に紫の花柄のサマードレスっぽいものを纏い、花やリボンなどの装飾をが付いた顎下でリボンを結ぶ帽子を被っている。
手には蔓草を編んで作った小さなバッグを下げていて、観光に来た富裕層の女性といった感じだ。
護衛、いるよね?
隠れてるだけだよね?
隠密とか影とか、そういうのがついてるよね?
そんな僕の予想は、あっさりはずされた。
「毒見だ何だと煩いので、まいてきましたの」
ドヤ顔気味にニッコリ笑うヴィオレット様の言葉に、バスチアン先輩が蒼白な顔で言葉を失う。
本気で単独行動だよ!
まちがいない。
このお姫様、お転婆だ。
春の宴での領主様とのやりとりで、気が強い……もとい、自分の意見を押し通すタイプだとは感じていたけどさ。
煩いからって、護衛をまいていいの?
っていうか、毒見大事でしょ、王族なんだし。
毒を盛られたら大変でしょ。
領主様といい、ヴィオレット様といい、この世界の王侯貴族は大丈夫か?
バスチアン先輩は固まってるし、事情を知らないアウラウダはキョトンとしている。
僕はツッコミを入れたい気持ちを隠して苦笑するしかなかった。
お転婆姫様は、今頃大慌てで探しているであろう護衛たちのことなど、全く気にしていない。
「代わりにエスコートをお願いしますわ、ウォルクリス様」
ヴィオレット様は微笑みながら、僕の左側に立って腕を絡めてくる。
それは、専属騎士が王族や貴族の女性をエスコートするときの位置だ。
ウォルクリスの父親は騎士だったから、その知識を与えられている。
騎士の利き腕がどちらかによって、女性の立ち位置は変わる。
ヴィオレット様は、僕の利き腕が右だと知ってるのかもしれない。
それはともかく。
なんで様付けなんだ?
「あの、僕は平民なので、様付けしなくてよいかと思うのですが?」
「神の加護をもつ方ですもの。そう呼ぶものですわ」
僕はちょっと困惑しつつ聞いてみた。
返ってきた答えは、ラノベでよくあるものだった。
「招待の準備は済ませてますの。行きましょう」
「え、今からですか?」
「リシュ伯の許可は得てますわ」
「わ、分かりました」
圧しの強い微笑みに、勝てる気がしない。
心の準備をする時間は無いようだ。
そのまま腕を引かれて連れ去られる僕を、固まるバスチアン先輩とポカンとするアウラウダが見送っていた。




