ep192:思い出のおはぎ
『ショウ~、オハナがおはぎ食べたいって。私も食べたいなぁ。材料は用意したから、作りに来てくれない?』
日本にいながら、異世界の女神様の声が頭の中に流れ込んでくる。
そんな奴は、僕くらいじゃなかろうか。
ラ・テール様は僕の返事を待たずに、ぽんっと神界へ転移させてしまった。
まあ、もう慣れたけどね。
一応、転移しても問題ない状況かは分かるみたいだし。
今回も仕事が終わって部屋でゴロゴロしながらテレビ観てるところだったから、いきなり神界へ飛ばされても問題ない。
「いらっしゃい」
微笑む美女の背後から、小妖精たちがサーッと飛んできたかと思えば、お約束の若返りだ。
君ら、そんな奇跡みたいな力を毎回ぽんぽん使ってもいいのか?
「ど、どうも」
ゴロ寝状態のまま転移させられた上に小学生の姿に変えられちゃった僕は、苦笑しながらそう言うしかなかった。
よく見ればイリキーヤ様も来ていて、お気に入りの着物姿で日本茶らしき飲み物を啜っている。
「給食室に材料は置いてあるわ。よろしくね」
「僕、おはぎは作ったことないですよ?」
「大丈夫。ショウなら食べたことがあれば再現できるでしょ?」
おはぎは大好物ではあるけれど、自分で作ったことはない。
祖母が亡くなって以来食べていないけれど、再現できるかな?
そんな僕の心配は、杞憂に終わった。
三十年くらい前まで毎年食べていた和菓子を、僕は鮮明に思い出すことが出来たんだ。
もしかするとそれは、身体の若返りと一緒にあの頃の記憶も戻ってきたのかもしれない。
祖母のおはぎは、粒あんから手作りだった。
もち米、水、小豆、砂糖、塩ひとつまみ。
それが、おはぎの基本材料だ。
小豆を洗って鍋に入れ、三倍量の水を入れて火にかける。
30分ほど小豆を煮ながら、もち米をといで浸水させておく。
小豆が膨らんで色が薄くなったら、煮汁を捨ててザルで湯切りする。
小豆を鍋に戻し、二倍量の水を入れて再び火にかける。
小豆を煮ている間に、浸水していたもち米を炊飯器に入れて炊く。
30分くらい煮て全ての小豆が割れたら、少し掬い取って芯が残ってないか味見する。
中まで柔らかければ、鍋を流しに置いて水を少しずつ流し込んで冷やす。
小豆を冷やしている間に、炊けたもち米を粒が半分残る程度に潰す。
半潰ししたもち米ごはんを小分けして、小判型に丸める。
鍋の水が透明になり、小豆が冷めたらザルにあける。
ザルで水切りした小豆を鍋に戻し、砂糖を入れる。
砂糖を小豆にまぶすように鍋を動かしながら、10分くらい煮る。
木ベラで押すように小豆を返しつつ煮て、水気が無くなったら塩をひとつまみ入れて小豆を潰す。
できた粒あんを小分けして冷まし、粗熱をとる。
小判型に丸めたもち米ごはんを粒あんで包めば、おはぎの出来上がり。
きな粉と砂糖を混ぜたものを小判型に丸めたもち米ごはんにまぶせば、きなこおはぎも出来上がり。
「美味しそうだね」
「オハナ、食べてみて」
作業を見守っていたオハナが、微笑んで言う。
僕はオハナの分を取り分けて小皿に乗せて差し出した。
「うん、美味しい。甘さもちょうどいいよ」
「どれどれ……お、いい感じに出来て良かった」
満足そうにオハナが食べているので、僕も味見に一つ食べてみた。
出来上がったおはぎは、幼少期の思い出の味によく似ている。
砂糖の甘さを、ひとつまみの塩が引き締めて、小豆本来の風味が出ている。
祖母が作る粒あんは砂糖で味付けするだけではなく、仕上げに塩をほんの少し入れることで甘さを際立たせる【対比効果】が使われていた。
料理はあまり得意ではないと言っていた祖母が、誰からその味付けを習ったのかは分からない。
少なくとも食べて味を覚えて再現する人ではなかった。
ルーツはともかく、懐かしい味を再現出来て、僕は心の底がほっこり温かくなった。
「あーっ! ズルイ、先に食べてる!」
「私にもちょうだい」
二人の美女神が乱入してこなければ、もうちょっと思い出に浸れたんだけどな。




